目玉焼きの上に吹っかける味つけについて語り明かす
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キンシはリッシェの運転する車に乗っていた。
しかしながら、そこ座席……とも呼べそうにないただの空白、荷物置き場にキンシは身を寄せている。
窓枠、フレームから顔を出して、空を飛ぶ車の周りを包み込む風の気配を頬に感じ取っていた。
「んるるー……自分で空を飛ばずに済むって、なんだかとっても楽チンですねえ」
「いやー?」リッシェがキンシの様子に違和感を唱えている。
「どっちかって言うとさー、これから人喰い怪物を相手にしろって言うのに、そんなごみごみした物置に押し込められいることを怒った方がいいんじゃねー?」
リッシェの言い分をキンシは不思議そうに聞いていた。
「怒る……? どうして怒らなくてはいけないのでしょうか?」
「いや、だってさー、命の危険があるならせめて、大型高級車の一台や二台でも用意すればいいって、そう思わないー?」
「思いませんよお、なんですかリムジンって、あんなに長くて大きい車があったら大変じゃないですか」
リッシェの考えを、しかしながらキンシはいよいよ不可解なものとしてしか受け取れないでいるらしかった。
「んるるるる……? 怪物と戦える機会を頂戴できるというのに、どうしてそのような、大それた待遇を要求しなくてはならないのですか?」
キンシは考えようとしたところで「はっ!」と思いつきを言葉に転換している。
「もしかして、これっていわゆる……妖精族の愉快で軽快な冗談って言うものですか?」」
「はあー? なにそれー?」
リッシェはハンドルを手前に引き寄せながら、キンシの言い分にいよいよ奇妙さを覚えているらしかった。
「…………はい」
そこへ、キンシの左側にてトゥーイが右手を上げている。
ス……と音も無く。
……と言いたいところだが、残念なことに後部座席は合計四人の人下を乗せていて、とても優雅で余裕のあるジェスチャーを作れるほどのスペースは許されていなかった。
「ふふふ」
メイがくすぐったそうに、腰のあたりをモゾモゾとさせている。
のは、白色の魔女はトゥーイの右と左の太もものあいだ、股間の上に腰を落ちつかせているのであった。
「どうしたの? トゥ、カラダをモゾモゾとさせて。あ、おトイレにいきたくなったのかしら」
「…………いいえ」
トゥーイは思わず先んじて白色の魔女の心配を否定している。
シモの心配をされてしまったのが、どうにもこうにも、魔法使いの青年にとっては屈辱的で仕方がなかったようだった。
「…………」
トゥーイは不機嫌そうな感情表現を包み隠すこともなく、首元の発声補助装置に指を伸ばしている。
金属製の首輪のような装置を軽く操作する。
コチコチ……コチ。
携帯電話の大豆よりも小さなボタンを爪の先で押し込むような、密やかでささやかな音が鳴り響いていた。
次に電子的な音の連なり。
「それは化粧室、洗面所、手洗い所、総じてトイレットルームではありません。
それはこの後篇に連なる非ビジネスの仕事についての展望です。心配します私は」
電子的なノイズをたっぷり含んだ音声。
どちらかと言うと? かなり不快感を掻き立てられる。
「うわあー……」
リッシェがあわれむような視線を車の運転席からチラリラリと、後部座席の魔法使い青年に差し向けている。
「ウワサには聞いていたけどー、マジでヘンテコリンなことばっかし言ってるよー、キモー」
リッシェにためらいはなかった。
見るからに自分以外の誰か、自分にとっての異物を拒絶する心構えである。
ストレートに嫌がっているリッシェ。
そんな彼女のことなどまるで構うことなく、トゥーイは平然とした様子で続きの言葉を空間の中に書き加えようとしていた。
「私たちがそれについてを話さなくとも、雌犬はすでに腐敗臭を漂わせている。
いい仕事ですね。
私たちがそれをしないでください。それは迷惑の困惑に終わるのでしょう」
トゥーイの怪文法。
それについて、リッシェはいよいよ同情に近しいもの、憐れむべきもの、悲しくて悲しくて涙が出てきて仕方がない。
見下すべき存在、それに相応する人間の肉と骨、対象を見つけ出してしまった、ある種の感動のようなものを覚えずにはいられないでいるらしかった。
「魔法使いにも、イロイロいるってハナシは友達にもよく言い聞かされてきたけどさー」
リッシェは運転席にて、左の人差し指を物欲しそうにトン……トン……と小さく上下刺させている。
「昨今は、どっちかって言うとトゥーイみたいな強気な姿勢の魔法使いが増えてきたっている地方ニュースのトピックは、あながち間違いでも無かったのかなー?」
「へえ、リッシェちゃん、あなた……ニュース番組とか見るタイプなのね、イガイだわ」
メイが驚いているのを、リッシェはとくに通常の会話のリズムを崩すことなく、ごくごく自然な動作で言葉を繋いでいる。
「野球とかドラマとか、そーいうのを見るついで、大して内容なんて聞いていないんだけどさー」
彼女が運転する後部座席に、ぎゅうぎゅう詰めにさせられている魔法使いたちと魔女ひとり
その内の一人が声を上げていた。




