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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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動物園の檻はアタシが壊したのよごめんなさい

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 キンシが興味深そうに透き通る矢印を眺めている。


「なんですかこれ? 糖蜜パイとかですかね?」


 例によって他人の作る魔術式、あるいは魔法でもなんでも、魔力を介した表現の方法につよく好奇心を働かせている。


 魔法使いの少女がググイ、と距離を再び詰めてきている。

 魔法少女の距離感にリッシェは特に不快感を抱いている様子もなく、ただ他人の熱量をたやすく受け入れるばかりであるらしかった。


「糖蜜パイ……? なにそれー」


 キンシの表現方法に単純な疑問を抱きつつ、それと同時にリッシェはさっさと魔術式を在るべき方向に作動させることを優先させようとしていた。


「これを使って、メンバーたちを誘導するんだよー」


 リッシェがスマートフォンの液晶画面を上に向けてスライドしている。

 彼女の指の動きに合わせて、ハチミツ色に透き通る矢印が作動をしていた。


「さてさて、さーて、「シマエ魔法使い事務所」にレッツらゴー!」


 彼女の掛け声とともにはちみつ色の矢印が目的地まで推進する。

 空中を滑る矢印に誘導されるように、ミツバチのような存在たちが翅を動かして後に追従している。


 その身の内側、蜜胃(みつい)に類似した器官の内に怪物の死体から精製した魔力をたたえている。


 ミツバチたちのあとを見送る。


 ブーンブーン、とあっというまに飛び去って行ってしまった。


「ありがとうございます」


 キンシがリッシェに礼を伝えている。


「ところで……」


「なにー? キンシクンー」


「結局のところ、あのミツバチたちは僕と同じ……同じ……。その……えーっと……」


「みんな処女だよ、バージン、男や女、それ以外の誰ともセックスしたことないんだよねー」


 包み隠すことなくアッサリと語っているリッシェ。

 そんな彼女に対して、キンシが「んぐるる……」と喉の奥を鳴らしながら恐れ、あるいは畏れのような何かを抱きつつある。


「でもさ、なにもアタシは処女でいることを否定したいわけではないんだよねー?」


「うえ? でもさっき、その……僕のことを軽くけなしていたではありませんか」


 忘れたわけではないのだぞ、と、キンシは視線の中に非難めいた鋭さの気配をにじませている。

 魔法少女の敵意を知ってか知らずか、いずれにしてもリッシェの様子はいけしゃあしゃあとしたものでしかなかった。


「そうだねー。処女は処女でも、アタシの尊敬する処女はこの世でただ一人、アタシのおねぇちゃんだけなんだからー」


 リッシェの語り、文脈の中に登場した言葉の一つにキンシが反応をする。


「んる。お姉さまがいらっしゃるのですか?」


「そうだよーアタシのお姉ちゃん。名前はマリア・メリッファ」


 リッシェが再び視線を遠くに向けている。


 ここでは無いどこかを見ている。

 相変わらず視線の先はキンシには見つけることは出来そうになかった。

 しかし言葉を見つけた、捕らえた今は前よりも少しだけ確信的な想像を描くことが出来ていた。


「リッシェさんのお姉さまということは、きっととても可愛らしくて美人で、ファッションセンスもバリバリに研ぎ澄まされていたのでしょうね」


「なにそれー? 間接的にあたしのこと褒めてくれてんのー? やだーなんかまるでナンパ男みたいだよー?」


 リッシェが愉快そうに小さく笑いながら、白色のフレアスカートのシルエットをヒラリヒラリと膨らませる。

 スカートの形が風を含む。


 灰笛(はいふえ)と言う名の都市に吹く雨風を吸いこむ、白色のスカートの揺らめき。

 その上でリッシェはキンシに自分たちについての事を教えている。


「お姉ちゃんはもうこの世界にいない。十二年前の「大災害」で建物に潰されて死んじゃったんだー」


 キンシが言葉に詰まっているのを、リッシェは慣れきった様子で眺めていた。


「まだ魔術式の規定もない時代だったからさ、ただ単に壊れていったビルの下で、羽虫みたいにペッシャンコ、アタシなんかは遺体も見せてもらえないままで、あっというまに骨にされちゃったんだよー」


「それは……」キンシはどうにかして言葉を作ろうとした。


「ご愁傷様でした……」


 しかし実際に作れたものと言えば、決まりきった、ありきたりな単語の一つや二つばかりであった。


「そーいえば、キンシクンって年いくつだっけー?」


「十二歳です」


「そーなんだ、じゃあ「大災害」と同い年ってことかー」


 リッシェがキンシに笑いかけ続けている。


「知らないってことがトキタマうらやましく思ったり、同時に悲しく思ったりする」


 リッシェは言葉と区切ってキンシと向き合っている。


「これってどういう言葉になるのかな? 名前ってあるのかなー?」


 質問をする中で、しかしながら答えはすでにリッシェの中に存在している。

 

「あったとしても、たぶんアタシには大した意味を持っていないんだろうねー」


 彼女はそれを知っている、自覚している。

 だからこそ他人の言葉は大して求めていない、とっくの昔に完結している。


 続きを求めている魔法少女に、彼女は他人行儀な応援だけを送ることにしていた。


「どうしてここがこんな形になっちゃったのか、たまにでいいから、少しだけ昔のことも思い出すといいと思うよー」

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