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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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憧れの作家さんのアニメーションを見やりに見やり給う

こんにちは。お疲れ様です。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 ミツバチの腹は魔力の塊に満たされていた。

 群れの中の一匹がキンシの左指、まだ青い炎による火傷が消え去っていない透明さに留まっている。


 水晶のように透き通る指先、そこには緑色に輝く魔力をたっぷりとたたえたミツバチの蜜胃があった。


「ホントなら、今日は周辺の花やら樹木から魔力をテキトーに、適当に回収して終わるつもりだったんだけどねー」


 リッシェが指先でミツバチたちの群れを軽く誘導している。


「これは……やはり、「普通」の蜜蜂とは異なる存在なのでしょうか?」


 キンシがいまさらがならの質問文をリッシェに向けて投函(とうかん)している。

 問いを受け取った。リッシェは謎に得意そうに「ンフ、ンフフフフ……」と微笑んでいる。


 宵闇の中、魔力鉱物ランプにほの白く照らされた桜の花びらのように怪しい笑み。

 キンシは彼女が愉快そうにしているのを、そこはかとない、根拠のない不安感の中で肌に感じ取っている。


「な……なんですか?」


「んんー? べっつにぃーなんでもないけどさあー」


 リッシェはモノのついでと言った風にキンシに問いかけている。


「ところでさ、キンシ」


「はい、なんでしょう? リッシェさん」


「キミってさあー処女?」


「へ?」


「だからあー、男の生殖器、泌尿器、ペニスをキミの下半身の穴に……──」


「うわーっ?! り、リリ……リッシェさんっ?!」


 キンシは信じ難いものを見るかのような視線をリッシェに叩き付けている。


「こんな往来で、街中で、いきなりなんという言葉を使っているのですか」


 慌てふためいているキンシ。

 少女の右側にて鶴の一声。


「キンシちゃんは処女よ、ケイケンはなにもないはず」


 メイがあっさりと事実を伝えている。


「メイお嬢さんっ?!」


 キンシが驚き、恐れおののいている。


 そんな魔法少女を横に、メイは気軽な様子で少女の具合について語っている。


「恋人がいるのに、いまだにキスすらもスイコウしていないんだから。まったく、サイキンのコの無欲さにはほとほとあきれちゃうわ」


「あーなるほど、なるほど、未使用の新品てカンジかー」 


「そうなのよ、花の命は短いんだから、捨てられるものはさっさと捨てたほうがいいのにね」


「マジそれってカンジ、って言うかいつまでも処女でいつづけるのってマジキモいんですけどー」


 メイとリッシェが気軽そうに語っている。


「それが……っ、それが……このミツバチさんたちとなんの関係があるのですか……?」


 キンシがしどろもどろと言った様子で、彼女たちのやり取りをなんとかして中断させようとしている。


「そりゃあもちろん、モチのロン、おおいに関係があるんだよー」


 魔法少女からの詰問に、リッシェはいけしゃあしゃあとした様子で受け答えをしている。


「知ってるー? ミツバチって女王蜂以外はみんな処女のまま死ぬんだよー」


「ああ……職蜂(しょくほう)、働き蜂はみんな雌、同じなんですよね」


「そうそう、そういうカンジー……──」


 リッシェがキンシの言葉に軽妙な様子で同意を……。

 ……返そうとしたところで、彼女は考えを少しだけ否定しようとしている。


「──……うーん? うん、でも、誰も彼もがみんな、全部処女のまま、何も知らないままで人生を終わらせたとは限らないんじゃないかなあ」


「リッシェさん?」


 彼女が少し遠くのほうを見つめている。

 キンシは彼女の視線の向かう先を追いかけようとした。


 だが魔法少女の瞳に映るのはただの風景、灰笛(はいふえ)のビル群の隙間だけであった。


「さて、と」


 リッシェは気を取りなおしてと、魔力鉱物のエキスを吸ったミツバチたちを自分の体の前に寄り集めている。


「届け先は? えーっと?」


 リッシェがチラリチラリとキンシの方に視線を向けている。

 彼女の視線を感じた、キンシはハッと思い出したかのように伝えるべき要件を彼女に伝達しようとした。


「あ、えと、えっと……「シマエ魔法使い事務所」でお願いします」


「ハイハイハイ、「シマエ魔法使い事務所」ねー」


 リッシェは身に着けている黒のライダースジャケットのサイドポケットから、スマートフォンを一台取り出している。


 イエローが映えるカラーリングのスマートフォン。

 背面部分に小さな黒い点、(ナカグロ)のような何かが記されている。


「んるる」


 ……かと思ったのは、どうやら蜜蜂のイラストレーションであるらしかった。

 極端と思うほどにデフォルメされ、ほとんどカプセル剤と変わりないほどに簡略化された蜜蜂のイラスト。


「んあ? どうかしたー?」


「い、いえ……なんでもないです」


 思っていた以上に距離を詰めて観察してしまっていたらしい。

 キンシは自分自身の距離感を慌てて再認識している。


「はいはいはーい。シュピピピーン」


 リッシェが口を使って直接、魔術式が作動する気配を擬音で模している。

 彼女の口の動きに連動するかのように、イエローにかわいらしい蜜蜂のイラストが描かれたスマートフォンを操作する。


 スマホの機体にほどこされた魔術式が活動をする。


 ポコン!


 ハチミツの塊がスマホから膨れ上がった。

 そう思ったのは、どうやらキンシの見間違い、認識と先入観による現実との齟齬であるらしかった。

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