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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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さようなら緑色のかけらはおなか一杯になる

こんにちは。お疲れ様です。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 リッシェは割かしすぐに自分の意見を否定していた。


「あーうん、やっぱり怒られるのはイヤってカンジー? だってほら、あたしたちっていわゆるゆとりにゆとる世代(ジェネレーション)だからさー」


 リッシェがそう語っているのに対して、反論を用意しているのはツナヲの声音であった。


「いやいや、いや。イマドキはそういう、生きてきた時代でわざわざものの考え方を区分するって考え方自体、古臭い時代の、前時代の遺物ってカンジー? だと思うんだが」


 ツナヲはわざわざ、ご丁寧にリッシェの口調を真似ている。

 老人の蜜柑の皮のように鮮やかなオレンジ色をした瞳が、リッシェの姿を見上げている。


 翅の音が聞こえている。

 メイは一瞬だけ、またしても人喰い怪物が姿を、肉体を取り戻したのかと、そう思いこみそうになった。


 しかし思いこみは思いこみに過ぎない。

 勘違いの果てに、メイは空を飛んでいるリッシェの姿を観察することにしていた。


 ブンブンブン!

 ミツバチの翅音によく似た音色。それらはリッシェの背中から発せられているものだった。


 小さな翅 長さは五十センチほど。

 リッシェの身長、百六十センチほどの全長と比べてみたとして、いささか小ぶりのように思われる翅であった。


 翅脈(しみゃく)の細い筋に薄い透明な膜が張られている。

 リッシェの持つ、彼女が属している種族の特徴。


 昆虫の特徴をその肉体に宿している。

 彼女の翅は蜜蜂にそっくりであった。


 蜜蜂のような羽根をせわしなく動かしている。

 リッシェの姿をツナヲが屋根の上から見上げている。


「おやおや、濃霧(こいきり)族の娘さんとは、これはまたなかなかに」


 どうしたのだろうと、ツナヲがなにやら意味深なうなずきだけを繰り返している。


 あらためて種族名で呼ばれた、リッシェは少しだけいぶかる様子で老人のことを見下ろしていた。


「っつーか、そこのウサ耳のジーさんは? なんか知らないあいだにしれっとパーティーの仲間入りしたってカンジー?」


「まあ、おおむねそんなところかな?」


 リッシェからの指摘をツナヲは柔らかい口調で肯定している。


「ふうーん……」


 リッシェは数秒の内に疑わしいものを見るかのような視線を向けていた。

 しかしすぐに関心を別のところに移そうとしている。


「転移魔術式に困ってんなら、ウチのメンバーを使ってみればいいんじゃねー?」


「メンバー?」リッシェからの提案にメイが反応する。


「リッシェちゃん以外に、あなたの商品をあつかうひとたちがいるのかしら?」


 メイに問いかけられた、リッシェは待ってましたと言わんばかりに翅の動きをより一層激しいものにしていた。


「気になるってカンジー? だったら、さっそく召喚()んでみるよー」


 リッシェはそう言いながら、両の手のひらを自分の右頬のあたりで「パン、パン」と手を叩いて鳴らしていた。


 最初の数秒、なんの変哲もない沈黙だけが流れていった、ような気がしていた。


「?」


 メイは小首をコクリとかしげたままで、しばらくのあいだ沈黙に身をあずけていた。


 変化はすぐに訪れた。

 

 ブブウゥゥーン……。

 ブブウゥゥーン……。


 それぞれに独立した翅の音が聞こえ始めている。


 翅の音はどうやらリッシェ以外の、ミツバチたちの集合から為る音の集約であるらしかった。


「うわわ……っ?!」キンシがミツバチの集結に恐れおののいている。


「なんだか、いっぱい集まってきましたよ……?!」


 集まるだけでは留まらない、ミツバチたちは見る見るうちにキンシの持つ魔力鉱物に群がっていた。


「んにゃああー……なんですか、なんですか? ハチまみれですよー……っ?!」


「怯えることはないよー」


 リッシェは花の蕾がほころぶような笑みをニッコリと浮かべている。


「だたねえーあんまし暴れっと、メンバーたちにブスリとイかれるかもよー?」


 彼女が愉快そうにケタケタと笑いながら、翅をブブンブブンと振動させている。


 笑うリッシェ、慌てふためくキンシ。

 キンシの手元は瞬く間に黄色と黒色のシマシマ模様の群れ群れに包まれていた。


「うっひぃいいー……!」


「キンシちゃん!」


 ミツバチの群れに襲われているようにしか見えない、魔法少女をメイが心配しようとした。


 だがそれよりも前に、ミツバチたちは魔法少女の手の平から魔力をもれなく回収し終えているのであった。


「空っぽになってしまいました……」


 キンシがそう表現しているとおり、魔法少女の手の平からはすっかり魔力鉱物が消失しているのであった。


 どこにも無い、キンシはそう思いこみそうになる。

 だがすぐに視界を回す、周りのきらめきから完全なる消失を否定せざるを得なかった。


「んるる……?」


 キンシは空になった指先、左手にミツバチたちの姿をたぐり寄せようとしている。

 たくさんいる中の一匹、数多く存在するなか。

 なんの脈絡もなく、ただ思うがままの指先で一つを見つけ出していた。


 キンシはミツバチに触れる。

 潰さないように、殺さないように、丁寧に包み込む。


 ミツバチがブンブンと、小さな翅を鳴らしている。

 黒と黄色の目立つシマシマ模様、中身には甘い蜜のようなものが詰め込まれていた。


 ミツバチなのだから、やはり花の蜜なのだろうか?

 キンシはそう考えようとした。


 だがすぐに魔法少女は自らの矮小なる想像力を否定することになっていた。


 ハチの腹には、いましがたキンシが獲得したばかりの魔力鉱物、それらの要素が吸収され、余すことなくたっぷりと詰め込まれているのであった。

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