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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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わたしの中身は魔法陣をおそれている

こんにちは。お疲れ様です。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 キンシは重ねて祈りの言葉を怪物の死体に捧げていた。


「敬い申し上げる、敬い申し上げる。

 天におわすは御主(おんあるじ)、地の底にはまどろむ海腹(うなばら)


 魔法使いの少女の、十二歳らしく、いかにも素人らしいおぼつかない発音で祈っている。

 着用している黒のスタジアムジャンパーの右側、腰ポケットを指先でまさぐっている。


 ポケットの中身から取り出された、それは実に古ぼけたマッチの箱であった。

 デフォルメされた白い髭を生やした老人がパイプをふかしているイラストレーションがあしらわれている。


 キンシは紙で作られた箱から一本マッチ棒を取り出している。

 先端は、……メイにとって見慣れた赤色とは異なり、くすんだ青色に染まっていた。


 キンシが紙箱の側面にある発火材にマッチの先端をこすっている。

 ジュッ……と、燃料が熱をもって変化をする音が鳴った。


 気配が聞こえた、後に現れたのは青色に輝く火の姿であった。


 キンシはひと呼吸のあとに、青色の輝きを怪物の死体に放りこんでいる。


 炎に触れた、怪物の死体が燃え上がった。

 ごうごう、ごうごう、ごうごう。

 エタノールを浸した綿のように、怪物の死体はそれ自体が巨大な燃料のように燃え上がっていた。


「キレイね」


 メイは屋根の上で燃えさかる怪物の死体……。

 ……いや、もうすでに別の「何か」に変わろうとしている輝きを前に、一息つくような呼吸音を立てていた。


「でも、近づいてみてもアツくないわ」


「ええ、それはそのはずです」


 燃える、ように見える。

 青色の輝きに照らされている、キンシの血色の悪い肌は雨の気配にまだ濡れていた。


「これは肉を焦がす炎では無く、怪物の肉を本来あるべき形に戻す、取り繕った形を失わせる効果に基づいて存在しているのですよ」


 キンシは左の指先で青い炎に触れている。

 魔法少女の指先が燃焼に類似した現象をすくいとっている。


 触れた場所、部分がキンシの皮膚を焦がしていた。


「キンシちゃん?!」


 自らの意思で行動しているように見える。

 すくなくともメイから見た光景において、キンシは自分の肉をおのずから焼き切ろうとしているように思えてしかたがなかった。


 事実、キンシの皮膚は青色の炎にジュウジュウと焼かれていた。

 皮膚は焦げ、中身があらわになる。


 じゅくじゅくとした肉の崩壊を想像した。

 

 メイはイメージする。

 しかしながらそう考えている時点で、メイは魔法少女の肉体に現象が刻みつけられることを期待しているのかもしれないと、そう想起せずにはいられないでいた。


「ふう」


 キンシは吐息ひとつで指先の燃焼を吹き消していた。


 青いゆらめきのあと、そこには透明になったキンシの指先があった。


「あらまあ」


 メイは目をすこし見開いて驚いている。


「キンシちゃんが透明になっているわ」


 純度の低い水晶のような形質になってしまった。

 メイはキンシの左の指先を心配している。


「痛くないの?」


「痛みは、不思議と感じませんね」


 キンシはメイに自分の傷の具合を説明しようとしていた。

 

「ただ透明になって、なにも感じなくなるだけです」


 キンシはおもむろに左の指をメイの頬に寄せている。

 魔法少女の指先が触れる、メイはそれをたやすく受け入れていた。


「つめたい」


 キンシに触れられている、メイは少女の指先の熱が極端に低いことに違和感を覚えていた。


「まるで死んだヒトみたいよ」


 メイが驚いているなかで、そろそろ青色の炎は怪物の死肉を焼き尽くさんとしていた。


 トゥーイのこしらえた魔法陣の内側、そこには三つほどの塊に分けられた鉱物……にとてもよく類似した物体が発現させられていた。


「これは……」


 キンシは左目、赤色に透き通る魔力鉱物の結晶で作られた義眼において検索を行っている。


「クロム透輝石(ダイオプサイト)の類似品。ですね」


 どこかの世界の常識における鉱物の名前をあてがっている。


「加工すれば、とてもよい商品、消耗品、燃料としてご活躍することが出来るでしょう」


 キンシはそう想像をしながら、魔法陣の内側に手を伸ばして、精製されたばかりの魔力鉱物を持ち上げようとしている。


 キンシの手の平に少しばかりあり余る大きさの石はくすんだ緑色を放っている。

 

 まるで生きていた頃、まだカマキリの姿を模したままだった頃に所有していた色彩を削り取り、(ほうき)でまとめて包んでしまったかのようだった。


「これも、転移魔術式で事務所に送り届けないといけませんね」


 キンシは次の行動の算段をたてようとした。

 しかし、すぐに自分の目測の至らなさに気付いてしまっている。


「……ですが、僕は魔術式に触れるわけにはいきませんし」


「そうね」


 キンシの遠慮にメイがストレートな意見だけを述べている。


「そう、なんども、なんども魔術式をこわされたら、それこそほんとうに事務所におこられちゃうわね」


「んるる……」


 キンシが申し訳なさそうにしている。


「そんなに落ち込むことないんじゃねー?」


 そこへ若い娘の声が届けられていた。


 彼女の声がする方を見る。

 そこにはリッシェの姿があった。


「ちょっとぐらい怒られるのが何だってカンジー……──」


 リッシェはそう言いかける。

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