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灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
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しつけの悪い右手を許してちょうだい

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 ツナヲは少し昔のことを思い出そうとしている。

 少なくとも自分自身にとっては「つい最近」にあたるであろう、範囲内の記憶は彼をしばし、()()()()()()()()()魔法使いについてを再検索させていた。


「オレの尊敬する魔法使いさんは、とにかく数字を数えるのがとんでもなく苦手でなあ」


「へえ……!」


 ツナヲからの情報にキンシが子猫のような聴覚器官をピン、と立てている。


「お父さん……。……えっと、先代の「ナナキ・キンシ」と同じですね」


「うん、うん? そうなんやろうなあ」


 魔法少女からの反応に、ツナヲは何かを納得したかのようにウンウンと小さくうなずいている。


「ともかく、そこのちびっ子ちゃんは、その見た目にそぐわずなかなかに優秀な魔術回路を有していると見える」


 ツナヲは人喰い怪物の心臓のかけらを持つメイのほうを見やる。


「もしかすると? 案外その見た目にそぐわぬ濃厚かつ重厚な人生を送ってきている、とか?」


 老人に指摘をされた。


「あら」


 メイは紅色の瞳を少しだけ大きく見開き、瞳をまん丸くさせている。


「まあ、お察しが良くてステキね」


 こちら側からはほとんどなんのヒントも与えなかったはずであった。

 少なく見積もったとしても、メイ自身に意図的な回答への糸口をちらつかせたつもりはなかった。


 さっそく自分の正体を暴かれそうになっている

 だがメイはそれよりも、自分の事よりも今は優先したい事項に集中をしようとしていた。


「私のことはいいのよ、それよりも、これをどうしたら? トゥの足をなおす方法につながっていくのかしら」


 メイが問いかけている。

 先行きの不透明具合を不安に思ったのか、メイは体表を包む雪のような白色の羽毛や綿毛をブワワ、と膨らませている。


「ああ、それなら簡単だよ」


 メイが鳥肌を立たせているのに、ツナヲが軽妙なる調子にてアドバイスをしようとしていた。


「そのかけらに自分の魔力を集中させて、あとは形質を個体から液体に変化させる……。氷が解けて水になるイメージを持ってくれればエエんやけど」


「ああ、なるほどね、わかったわ」


「うええ?! 今ので分かるのですか?!」


 キンシがびっくり仰天しているのを、ツナヲとメイは右から左へとサラリと受け流している。


「んんん……!」


 メイは左の手の平にかけらを乗せて、魔力と言う名の熱を凝縮させるイメージを作りだす。


 メイの肌。

 幼女のような見た目の魔女の羽毛の下、綿毛の下、皮膚の下。

 肉のあいだを走る血管の内側を循環する、真っ赤な血液。


 血液の中に含まれる魔力が活動をする。


 シトシトと、硬さを持っていたものが固形物から液体へと変容する。

 変化はメイの手の平に、血液ととてもよく似た水たまりが出来ているのを見ていた。


「溶けたわ」


「よしよし、上手上手」


 ツナヲがメイのお手前に感心し、音の少ない拍手をパチパチと贈っている。


「じゃあそれを、若者くんの足に垂らし込んで。あ、その前に右足を先にあてがった方がいいかもな」


 ツナヲが「キンシさん」と少女の名前を呼んでいる。


「もっている若者くんの右足をこっちに寄越してくれへんか?」


「あ、えと、はい!」


 もうすでに悪事は結末まで再生されようとしている。

 いまさら後悔しても遅い、キンシは後悔を少しだけ抱いている。


 認めざるを得ない。

 認めるしかなかった、悪事への罪悪感以上にキンシは目の前で行われている魔力の活動に強く、強く魅了をされているのであった。


「どうぞ、メイお嬢さん」


 キンシがメイにトゥーイの右足を差し出している。


「ありがとう、キンシちゃん」


 魔法少女をからそれを受け取った、メイはさっそくトゥーイに要求を重ねている。


「トゥ、右の足のちぎれちゃったところを出してちょうだい」


 メイがトゥーイに頼んでいる。


「…………」


 しかし次に現れたのは不自然な沈黙だけであった。


「トゥ?」


 メイがいぶかるようにトゥーイの方を見つめている。


 白色の魔女に見つめられている。

 しかしながらトゥーイの方は、魔女の椿の花弁のように鮮やかな紅色の視線に全く気付いていないようであった。


「トゥ、聞いてるの?」


 メイが困ったように、声音だけを先ほどよりも強制力を感じさせるように固くさせている。


 メイに呼びかけられている。

 にもかかわらず、トゥーイはずっとタブレットの画面に集中力を捧げているようだった。


 メイが近付き、タブレットの電子画面をのぞきこむ。


「まあ!」


 そして驚いた。

 つい先ほどまで白紙の項目しかなかったページには、一目で見ただけで何処かの都会の夜景であることを把握できるほどに優れた背景が描かれていた。


 まるでモノクロ写真を画面に直接張り付けたかのような仕上がりである。

 緻密な筆遣い、それでいて二次元にしか演出することのできない、どことなく外連味(けれんみ)のある誇張がほどこされている。


 なるほどこれが、マンガ作品における背景と言われるものなのか。


 メイは感心する。

 ひとしきり勝手に味わった、その後に。


「えいっ」


 メイはトゥーイの脳天に再三のチョップを食らわせていた。

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