表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰笛の愚か者は笑う(魔法使い的少女と王様じみたバカ野郎または青いバラがいかにしてカメリアちゃんの言葉を誤解したか)  作者: 迷迷迷迷
魔法使い的少女の第三章 いずれにしても兎はミートパイになってしまうかもしれない
1141/1412

仲良く悪事を働いてみせようかしら

こんにちは。今日の更新です……。ご覧になってくださり、ありがとうございます……。

 トゥーイはペンを走らせ続けている。

 基本の直線を記し、全体の形を整える。

 清流のような動作で右手が動き、タブレットの電子画面に表記されるアイコンをタップする。


 タブレット一台で線画とペン入れを同時に行える、ということだけが、メイに理解できたせめてもの事実であった。


「がんばってるわね」


 メイはトゥーイの右後ろから、青年を褒め称える言葉を優しくおくっている。

 白色のフワフワとした羽毛に包まれた腕を前に突き出す。

 右の手の指をまっすぐ伸ばし、平たくしたそれを青年の後頭部に固定する。


 メイの手の平のした、彼女の持つ羽毛ととてもよく似た色合いの体毛がたっぷりと生えそろっている。

 三つ編みを雑にシニヨンにしたヘアスタイルの上、雪のように白い柴犬に似た聴覚器官。


 丁度その中間地点、脳天に向けてメイは呼吸を整えている。


「えい」


 そしてチョップを喰らわせた。


「うっ」


 幼女のような見た目をしている、魔女の手の平からの一撃がトゥーイの全身を揺らしていた。


 ずれたペン先がズルリと間違った線を刻んでしまっていた。


「…………??!」


 トゥーイは驚き、左の目を大きく見開きながら後ろを振り向いている。

 右側にぐるりと首を回転させれば、そこには白色の魔女が第二のチョップを食らわそうと身構えている最中(さいちゅう)であった。


「まだ魔法使いとしてのお仕事がのこっているわよ、絵を描いているバアイじゃないわ!」


 メイは魔法使いの青年に忠告をしようとした。

 だが言葉を言い終えると同時に、白色の魔女は自分自身の言葉に疑問点を抱いていた。


「……んん? でも、マンガを作ることで魔力を練っているのなら、これもまた魔法使いのお仕事のうちにはいるってことになるのかしら?」


「め、メイお嬢さん……?!」


 キンシがメイの疑問点にうろたえている。


「しっかりしてください……! 一応、トゥーイさんが着手しているのは別の魔法使いのお仕事、いわば、僕たちにとっては商売敵にあたる人たちのお仕事なんですよ!」


 キンシは主張をしながら、次々と起こるイレギュラーにうんうんと苦悩している。


「ああもう……とにかく、傷を癒しますよ。そうしなくては、立ち上がれるものも立ち上がれませんし」

 

 その気になれば片足が無くとも、この魔法使いの青年ならば何でも出来るのではなかろうか?

 キンシは同業者について想像する、それはもはや恐怖や不安と変わりのない湿度を持っていた。


「…………」


 トゥーイがキンシの方を見る。


 キンシは青年の右眼窩(がんか)を埋め尽くす青紫のバラに類似した器官を見つめていた。

 メイと同じように植物種の血を引いている、草木と似通った見た目の器官はキンシが手に入れることのできない美しさを有している。


 キンシはそれをうらやましく思いながら、トゥーイの方に彼の右足を持って近付いている。


「断面図がかわいて腐るまえに、接続をしなくてはなりませんが」


「でもそのまえに、心臓の宝石を事務所におくらなくちゃいけないのよね?」


 メイからの指摘にキンシが「んぐるる……」とうなっていた。


「しかしながら、転移用魔術式は僕の魔力のせいで不具合を起こしてしまったのでした……」


 キンシは救いを求めるように視線をツナヲの方に向けている。


「ツナヲさん、スマフォは治りましたか?」


 魔法少女に救いを求められた。

 慌てふためいている少女とは相対的に、ツナヲはいたって平坦とした様子のままで事実を伝えている。


「だめだね、転移魔術師がかなりグチャグチャになっていて、一旦組み直さないといけないな、これは」


 ツナヲは手の中のスマホを操作しながら、機体を胸の前あたりにかざしている。


「ほれ、魔術式がこんなんになっとるわ」


 展開された魔術式。

 白色の編み目に整えられていたはずのそれは、まるで巨大な手の平にこねくりまわされたかのように、その身に混乱と混沌を宿していた。


「こりゃあ、シロートの手で下手に触るわけにはいかへんなあ」


「そ、そんなあ……」


 キンシはいよいようなだれてしまっている。


「オーギさん、……ではなくて、オーギ先輩に「お()ェは魔術式に触るんじゃねえ」とこの前忠告されたばかりですのに」


 キンシは律儀に先輩魔法使いの忠告を半分だけ守り、もう半分を安易に無視してしまったことに後悔をたぎらせていた。


「だったら、ちょうどがいいじゃないかしら?」


 頭を悩ませているキンシの右隣から、メイがしずしずと歩み寄ってきている。

 雨に濡れていない屋根の上を歩く、メイの足を包むパンプスのエナメル質が艶めいていた。


「採れたばかりのあったかい心臓があるのだし、それをつかってまずはトゥの右足をなおしちゃいましょう」


「それって……」


 メイからの提案をキンシは是とすることが出来なかった。


「横領ではありませんか!」


「うん、そうとも言うわね」


「それ以外にどう表現するですか?!」


 しれっと悪事を推奨する、キンシは白色の魔女の姿を凝視する。


 雪の結晶のように繊細で美しい、それと同時に咲いたばかりの桜の花びらに似た可憐さと可愛らしさを有している。


 魔女が微笑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ