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正論は今は求めていないのですよ

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 もとより空を飛ぶことを可能にするほどの魔術式に加え、老人約一名と幼女、……のような姿に閉じ込められている魔女ひとり分の魔力を込めた塊を叩き付けられた。


 ハリガネムシのような姿をしている精霊モドキは、当然の事ながら大量の魔力を有してる箱の形に意識を吸い寄せられているのであった。


 ポイッと棄てられたのはトゥーイの右足。

 キンシはモドキたちの関心を失った一欠けらを逃さないよう、いそぎ手を伸ばしてそれを掴もうとした。


 しかし依然として、魔法少女をハリガネムシの嫌らしい触手にふれさせようとしない青年の意地が維持されたままであった。


「先生」


 飛び立とうとしている魔法少女の体を、トゥーイが後ろから抱きすくめるように押し留めている。

 親指と人差し指で小さな輪を作り、それを唇の隙間にあてがっている。


 息を大きく吹き出す。


 ピューイ! 

 指笛の音色が魔法のバイクを呼び寄せている。


 召喚したバイクの上に、トゥーイはキンシの体をちょこん、と乗せている。


 そして魔法使いの青年は、魔法少女にひとこと。


「不動明王」


「フドーミョーオー?」


 有難い名前を口にしながら、トゥーイはギター片手にハリガネムシたちの体に襲いかかっていた。


 とは言うものの、やること自体は単純なものでしかなかった。

 ギターを振りかざし、精霊モドキの一片を破壊しようとした。


 魔術式がモドキの肉体の一部分に触れようとする。

 しかしその瞬間、ハリガネムシの体が線香花火のようにその身を燃焼に似た反応に変容させてしまったのである。


「…………」


 トゥーイは精霊モドキが燃える様子をジッと見ていた。


「燃えてしまいましたよ!」


 キンシが叫ぶようにしている。

 声に呼応するように、トゥーイは燃えるモドキたちの群れに腕を突っ込んでいた。


 空を飛ぶ方法を知らない、トゥーイの腕は燃えるハリガネムシたちの燃えカス、肺の粒の中に浮かび上がっていた。


 …………。


 灰にまみれている、トゥーイの姿をキンシは追いかけようとした。


「トゥーイさん」


 キンシがトゥーイの名前を呼んでいる。

 魔法少女に名前を呼ばれた、トゥーイは右手の中にひとつのかけらを握りしめていた。


「それは……?」


 トゥーイの手の中にあるかけらは、どうやら彼がギターのような武器で「彼ら」を殴った際に作られた魔力鉱物、その一部分であるらしかった。


「黒曜石のように見えますが……?」


 キンシは不慣れな様子で空飛ぶバイクのハンドルを握りしめつつ、体をトゥーイのいる方に移そうとしている。


 黒曜石に類似したきらめきを放つ、欠片は矢じりに類似した形状を持っていた。


「おくりもの、じゃん」


 老人の声がする。

 みればそこには、人差し指を上にかざした老人の姿があった。


「ご老人!」


 キンシが老人の姿を見ている。


 飛行用の魔術式から外に出ている、老人はしかして世界の重力に柔順にはならなかった。


「良かったなあ、これで敵さんの手掛かりがつかめそうやん?」


 老人は左わきにメイのちいさな体を抱えている。

 そして右手は人差し指を上に、小規模な魔法陣を展開させ、その魔力循環による浮遊力にて体を空間に固定しているらしかった。


 指全体に魔術式を組み込んだカバーを身に着けている……のだろうか?

 キンシは最初、そう思いこみそうになった。


 しかしすぐにその見方が間違いであることに気付かされていた。


「まったく、オレが魔法使いじゃなかったら、いまごろは地面に叩き付けられたスイカみたいになっとったよ」


 嫌に具体的な表現をする、老人の右手、人差し指にはオレンジ色にきらめく輝きが灯っていた。


 黄水晶(シトリン)のようなきらめき。

 キラキラとしている指先には、キンシの肉体の左半分に刻みつけられている結果と類似したものが存在していた。


「呪いの火傷痕?!」


 キンシが老人の指先めがけて、飛びかからんほどの勢いで食いついている。


「なんと! ご老人は魔法使いでありましたか!」


「ああ……うん、そうだよ」


 魔法少女の勢いに若干ひき気味の老人の指先、右の人差し指には指輪がひとつはめ込まれている。

 爪から指の付け根の部分、線や点、曲線をささやかかつ細やかに組み合わせた文様。

 

 人差し指全体を覆う呪いの火傷痕は、じっくり観察してみるとちょうど指輪がはまる部分だけ健康な肌が残されているらしかった。


「なかなか、素敵な火傷痕でございますこと」


 キンシが妙にウキウキとした様子で老人の傷痕について観察を深めている。


「そうかな?」


 魔法少女の興奮具合は、しかしながら老人にはイマイチ理解しがたいものであるらしかった。


「そういうもんなんやろうか、最近の若いコの感覚は、ツナヲさんにはよお分からへんわ」


 老人、自らを「ツナヲ」と名乗る彼はジェネレーションギャップ的な違和感を主張している。


 とりあえずのところ、この老人の名前だけは把握することが出来た。


 メイは彼の右わきにて、その人差し指の先に広がる魔力の形を見上げている。


「とりあえず、早よおこの辺片さんと」


 ツナヲは若者たちを叱咤(しった)しようとしている。

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