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攻略対象はモンスターばかり

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 右に回ればそこにはビルの群れ、目のまえにコンクリートの壁が広がっている。

 頑強なるコンクリートに、浮遊のための魔術式を組み込んでいる。

 ほのかに青みがかった光を帯びているのは、基軸に魔力鉱物を砕いた砂を混ぜているからであるらしい。


「ぶ、ぶつかります……!」


 キンシの全身にぴりぴりと、肌を剣山で撫でるかのような緊張感が走る。

 魔法使いの少女が子猫のような聴覚器官に怯えを抱いていた。


 空を飛ぶクラシックカーの屋根の上にて、魔法少女が恐怖に震える。

 しかしながら車の運転席に座るリッシェは、いたって平然とした様子でハンドルを切るだけであった。


「あーらよっとー」


 間延びしたかけ声と共に、リッシェは車をビルの壁スレスレのところで回避させている。

 さながらチキンレースのごとし。キンシはリッシェの運転スキルに感動を覚える。

 ……と、同時に彼女の危機管理能力の曖昧さに対して、かなり今さらながらの不安を灯しつつあった。


「り、リリ……リッシェさん……?」


 キンシは車の屋根にて身を平伏(へいふく)させている。

 左手には銀色の槍を強く握りしめたままで、刃の先端にて車の屋根を軽く小突いている。


「もう少し、可能ならばもう少し……安全運転で……──」


「おっといけない、ジジイが目の前に!」


 しかしリッシェの方は魔法少女の言葉などまるで耳に入って来ていないようだった。

 

 ちょうど目の前に、個人を運搬するのに適した魔術式が通過をしようとしている最中(さいちゅう)であった。


 煙草(タバコ)の紙箱のような形状をしている飛行器官。

 白色のカラーリングは清潔感を意識しているのかもしれない。

 しかしながらそれなりに長い時間をかけて風雨にさらされてしまった姿は、学校と言う教育機関のひとつに設置されている百葉箱のもの寂しさがあった。


 上辺に分度器のような半円があり、そこに空けられた小さな穴に箱より一回り大きな風船のような「何かしら」がくくりつけられている。


 白い風船が、突っ込んできて、そのまま走り去ろうとするリッシェの車が生み出す風圧に揺れ動いている。


「んぎゃあ?!」


 飛行器官を利用している人間、中身にいる老人が驚きの悲鳴を上げている。

 箱の内側にて、老人の兎のような聴覚器官がびっくりと震えているのが瞬間的に確認することができた。


「気ィつけろッ……!」


 箱の中の老人が車の運転席に座る彼女に文句をいおうとした。

 だが言葉を実際に発するよりも先に、老人の蜜柑色(みかんいろ)の瞳に人喰い怪物のおぞましき姿が映りこんでいる。


「……って、んぎゃああッ?! モンステラッ!!」


 モンスターのことを言おうとして、老人の男性は葉っぱの形が魅力的な観葉植物の名を叫んでしまっている。


 叫び声に呼応したのか、あるいはただ単に手頃な肉の塊が目の前に現れたから、ただ求めただけにすぎないのかも知れなかった。

 いずれにしても、老人が使う飛行器官は人喰い怪物の魔の手に引っかかっていた。


 ……正確なことを言うとしたら、人喰い怪物の腹部に寄生する精霊の一筋、巨大なハリガネムシの一匹が飛行器官に備わる風船のような機能にまとわりついていた。


 風船に置いて紐の部分にあたる糸、細いそれをハリガネムシの一本の触手が絡め取っている。

 

 突然の引力に、飛行器官の中身にいた老人は憐れにも為す術もなく翻弄されるばかりであった。


「んぎゃああ?!」


 老人の悲鳴、兎耳の彼の叫び声を耳にした。


 キンシが体を激しく起こしていた。


「大変です!!」


 カマキリの怪物は依然としてリッシェの車を追いかけ続けている。

 風圧が轟々と鳴り、雨粒は斜めに肌を叩く。


 怪物の腹部に潜んでいた謎の精霊は、近くに現れた良質な魔力の源に固執し続けている。


「これはもう、迷っていられませんね……!」


 イメージを全て構築し終えるよりも先に、キンシは心の内に決意を塗り固めていた。


 槍を持つ手を変える。

 左手を空にする、骨と肉と爪だけの指先に魔力で紡がれた糸がきらめく。


 銀色と金色を折り重ねた色彩の糸は、キラキラと輝きを放ちながら怪物のいる方角へとひらめいている。


 糸はカマキリの怪物の翅にまとわりつき、四枚の翅をひとまとめにしてしまっている。


「  あああ ??????    ????  あ  ????????    ??????   」


 翅の動きを止められた、怪物が不快感に類似した声らしき呼吸音を鳴らしている。


 飛行のための器官、翅の動きを止められた。

 しかして怪物の肉体から浮遊力が失われることはなかった。


「 もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ  」


 怪物の口、捕食のための器官、上下二つの唇と大小の(あご)が咀嚼をしている。

 ()んでいるのは蜂たち、リッシェが所有する特別な蜂の群れであった。


「袋に詰め込んだものを、あとで美味しく食べようとしていたのかなー?」


 リッシェが予想をたてている。


「だとしたら、あのジジイもあとで美味しくいただかれちゃうってカンジー?」


「それは、なんとしてでも阻止しなくてはなりません」


 彼女のイメージをキンシが静かな、だが確実に鼓膜を震動させる音量と調子にて否定している。


「なぜなら彼はなにも関係ない、ただ空を飛んでいただけなのですから」


 キンシは糸を握りしめる、指の力を強めている。


「トゥーイさん!」


 左手を上にかざし、覇気を掲げるように握り拳を上へと放る。

 

 魔法少女が青年の名前を呼んでいる。


 少女に名前を呼ばれた。

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