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ゼロになるまでバラバラに散って欲しい

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「散って! はじけて、飛沫(しぶき)をあげて!」


 メイが叫んでいる。

 声は瞬間に置いて、幼女の柔らかな肉と髪の毛を脱ぎ捨てて、乾いてかたくなった喉の形を取り戻そうとしていた。


 魔女の叫び声に呼応する、魔法をまとった矢が怪物の頭上にて破裂し、いくつもの細い筋となって降り注いだ。


 さながらカメラに連写された流星群のごとし。

 銀色に輝く雨が怪物たちに向かって襲い掛かっていた。


 精霊を閉じこめたガラス玉が割れる。

 破壊の音色はいっそのこと、甘くキンキンに冷やされたサイダーのような清々しさを思い出させる。


 ガラスの封印から解き放たれた、精霊たちの輝きが雨の中に隠れようとした。

 そして、それを追いかける姿がひとつ。


「  ああああ   あああ  あああああま   ああああ、あ。 あああああま  ままままま  」


 カマキリの怪物が取り巻きの精霊たちを追い求めている。

 

 手を使うつもりなのだろうか、(かま)の形をした前身の二揃いの捕食器官が動いた。


 ……かと思った、が、どうやらそれはキンシの勘違いであるらしかった。


「動かない……?」


 キンシが怪物の鎌さばきを勝手に期待していた。

 

 しかしながら怪物はいとも容易く魔法使いの少女の期待を裏切っているのであった。


 しゅるん、空気を滑る音色。

 音の出所、変化が現れていたのは怪物の腹部、柔らかそうな肉がのった部分であった。


 淡緑色(たんりょくしょく)の腹。

 身のたくさんあるカニカマボコのように柔らかく、魔法少女の食欲をグーグーと刺激している。


 美しかったはずの腹部は、精霊の損失と言う被害において、瞬く間にその美貌を変容させてしまっていた。


 ニュルニュルと伸びてくる、怪物の柔らかな腹部を裂いて溢れ出ているのは黒い腸のような「何か」であった。


 三本ほどの筋に見える、黒い触手のような何かしら。

 右往左往に先端をくねらせる。

 黒い筋はまるで白紙のノートの上にボールペンで無造作に書いた線が何本も自我を持って勝手に動き出したかのようだった。


「い、いやあああ!」


 メイがたまらず悲鳴をあげていた。


 黒い触手たちは、髪の長い女から抜け落ちた毛髪のように暗く黒く、それでいてそれぞれに勝手なる意識らしきものを持って蠢いているのである。


「な、なにあれ! 気持ち悪い!」


 感情の動き、拒絶的な感情の増幅にメイの肌へ鳥肌が立つ。

 まさに鳥としての特徴を宿している、メイの腕を包む白い羽毛たちがブワワア……! と膨らんでいた。


「あれは、ハリガネムシでしょうか?」


 キンシが車の屋根の上で、怪物の内部から現れた存在を観察しようとしている。

 

 両の目で見る、キンシは左目に灯る熱を肉に、粘膜に敏感に感じ取っていた。


「まさか……あれも精霊のひとつだと言うのですか……?!」


 キンシが左目と語り合う。


「まさか、……ありえないです、……。ええ、しかし、ですが。貴女はそう思うのですか?」


 傍から見ればこの緊急の事態に独り言をぬかす異常者に思えるのだろう。


 しかしながら、メイはすでに魔法少女が誰と語り合っているのかを知っていた。


「キンシちゃん」


 メイがキンシの名前を呼ぶ。


「いいえ、キンシちゃんの、内側、中身にいる、精霊さん、とでも言うべきなのかしら?」


 キンシがメイの方を見る。

 黒い前髪の隙間、キンシの左眼窩(がんか)を埋め尽くす、赤色の琥珀の義眼。

 内部に濃厚な魔力をたたえる、赤琥珀の内側には蓮の花をもした精霊の姿があった。


()()が、あれが精霊だというのね?」


「え、ええ……そうです」


 メイからの問いかけに、キンシが肯定の意を込めてうなずきを返している。


 魔法少女からの同意を得た、メイは次なる行動をその身に起こす。


「だとしたら、あれもいっしょに殺しちゃおうかしら?」


「うええ?!」


 キンシの左目に痛みが走る。

 琥珀の中の精霊が怯えていることを、魔法少女は肉体の中心点から感情、恐怖の形を一方的に伝達させられていた。


「冗談よ」


 メイがキンシの方にひとつ、ウインクをして見せている。


「それはともかく、とにかくどちらかを殺さないといけないことには変わりないのだけれど」

 

 メイが考えている。


「早めに決めてよねー」


 リッシェの運転するクラシックカーが十七を超えたビルを通り抜けようとした。

 そのところで、決定的な判断を下している少女がひとり。


「翅に関しましては、まだ僕にアイディアがあります」


 キンシは頭を働かせている。


「ですがまだ、確固たるイメージを掴みきれていないのです」


 魔法少女に共通して、車の運転席に座るリッシェも自らの肉体に、在るべき命令文をくだし続けていた。


「だったら、まだまだ逃げ続けなくちゃいけないねえー」


 リッシェはアクセルを強く踏む。

 彼女のクラシックカーが、雨雲ごしの薄い日光を浴びてかすかな光を反射させている。


 車がスピードを上げる。

 引力が彼女たちの体を引っぱっていた。


「トばすよー!!」


 リッシェはハンドルを握りしめ、目のまえの障害物を避けるための反射神経を脳内にて研ぎ澄ましている。


 その後をトゥーイのバイクが追いかける。

 

 そして、人喰い怪物もまた彼女たちの後を当然の事として追い求めているのであった。

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