好きなアクションは空を飛ぶこと
こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
「あれれ、メイちゃんは春日の女の子だったかー」
リッシェが種族名についてを言葉にしている。
春日と呼称される、肉体に鳥類の特徴を宿した種族のこと。
体表に羽毛を生やしているパターンが多い。
メイもまた類にもれることなく、その皮膚の上に柔らかな羽毛や綿毛を有しているのであった。
「あ! そうだ、翼を持っているのなら、ちょうどいい武器があるよ!」
リッシェがメイに提案をしてきている。
「ちょっとちょっと、後部座席にある武器を使ってみなよー」
「え、ええ……?」
いきなり提案をされた。
しかしながらメイはとくに断る理由も見つけられないで、ただ運転手の意向に従おうとしていた。
「武器って、どれなのかしら?」
メイが魔力の翼を展開させたままで、クラシックカーの後部座席のあたりをゴソゴソとまさぐっている。
メイの白い大きな翼が、決して広々としているとは言えない車内をかき乱している。
「んぷぷぷぷ……」
わしゃわしゃと頬を撫でる羽毛の流れに、キンシが体表の感覚器官のあらゆるところを刺激されている。
「へ、へあ……へあっくちゅんっ!!」
キンシはくしゃみをしたところで、ふと、気付くことがあったらしい。
「ずぴぴ……」
鼻をすすりながら、左の目をクラシックカーの後部座席に辿らせている。
「……んるる? なにやら、かぐわしい気配がありますよ?」
「あら、どれなのかしら」
魔法使いの少女が珍奇な行為をしている。
メイはそれに深く指摘をすることはせずに、いまはとりあえず魔法少女の言う通りにすることにしていた。
「教えてちょうだい、ねえ、キンシちゃん」
「まかせてください、メイお嬢さん」
キンシは左のまぶたを限界いっぱいまで見開いている。
「僕の、僕たちの左目からは逃れられませんよ!」
メイがキンシの声の違和感を覚える。
一瞬だけ、少女の声が二つ重なって聞こえたような気がしたのだ。
違和感は、しかしてキンシの左手が指し示す方角にさえぎられている。
「あれ、ではありませんか?」
「これ、かしら?」
キンシの左目、眼窩に埋めこまれている赤い琥珀の義眼が見つめている。
視線の先を追いかけ、辿り着いた果て、メイは社内の荷物から一振りの弓を取り出している。
「よ、いしょっと」
メイの身長よりも遥かに長いと思われる。
一見してそれは弓と言うよりも、洗濯物を干すときに使用する竿竹のように思えて仕方がなかった。
「んんん……!」
メイは長い棒状のものを引っぱりだそうとしている。
いったいこの狭苦しいクラシックカーのどこに棒がしまえるスペースがあるというのだろうか?
そんな疑問を抱きたくなるほどに、弓はメイの指に従わず、きつく隙間に挟まりこんでいるだけであった。
それでもあきらめることなく、メイは挿入されいたものを引きずり出した。
「んん……うん!」
うめく声とも、かけ声ともつかない声のあと。
弓がメイの細くて白い指に引っぱりだされていた。
留まっていたときは堅牢であった密着も、一度でも開放感を与えてしまえば、あとは従順なものであるらしかった。
メイの指の中にある武器は、まず最初にメイ本人があまり好ましく思っていない相手に攻撃を一撃食らわせていた。
ゴッシュ……! 皮膚の下、肉の下層にある骨が硬いものとぶつかる、くぐもった悲鳴が聞こえた。
運転席にて自らの役割を担う、リッシェのうなじに弓の先端が刺突されていた。
「いったあーっ??!」
リッシェは悲鳴を上げている。
突然の理不尽な苦痛にも、彼女はハンドルを離そうとはしなかった。
「きゃあ?! ごめんなさい、リッシェちゃん」
メイは弓を手にしたままで、リッシェのうなじがゴリゴリと圧迫されているのを見ていた。
「謝らないでいーからー! はやく首の後ろのそれをしまってよー!」
リッシェが痛みに悶えながら、手の中は器用にハンドルを回し、空飛ぶビルの角を右に曲がっている。
車内に遠心力が働いた。
連動してリッシェのうなじを苛む刺激も方向性を変えている。
「痛だだだだ!」
「いやだわ、どうしましょう」
これ以上、彼女の悲鳴を聞きたくはなかった。
メイは純粋なる、秘するべき嫌悪感のなかで弓を握りしめる。
意識を動かした。
それと同時にメイの持つ、魔力によって構成された白い翼に輝きが駆けめぐる。
魔力の流れに反応して、弓の長さが変化していた。
「ああ、みじかくなってきたわ」
運転席の彼女の首から離れた。
弓はメイの全長から、いくらか長めのサイズ感に固定された。
「これならいいかんじ」
メイは弓を携えて、車の外側に身をひるがえしている。
落ちる心配など無い、どこにも存在していない。
メイは当たり前のように、魔力の翼を使って空を飛んでいた。
「トゥ!」
メイはトゥーイの名前を呼んでいる。
ちいさく叫ぶような声に反応していたのは、クラシックカーと並走して空飛ぶ魔法のバイクを操縦していたトゥーイの耳であった。
メイはトゥーイの運転するバイクの座席、青年の後ろ側にある、人間一人分の余裕に降り立っている。
ふんわりと、動作は実に優雅であった。




