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音楽を二つほど用意しなくてはならない

こんにちは。今日の更新です。よろしくお願い致します。

 叫び声が灰笛(はいふえ)の空を、都市の空気を、この世界の人間たちが暮らす空間を震動させている。

 耳障り、と言えばそれまでの言葉で片付けられてしまう。


「 あああ  あああ  あああ あああ あああ あああ あああ あああ あああ あああ あああ」


 恐ろしき人喰い怪物の鳴き声は、その存在の意味以上に、どこか悲しく切ない声を喉に持っていた。

 夏の夕暮れに木々の間をいずれ訪れる夜の気配と共に通り抜ける、日暮(ヒグラシ)の鳴き声のように。

 昼下がりの公園に足を擦りむいた幼子の泣き声のように。

 

 人間の心、心と呼ぶべき意識。

 人間の脳にふくまれる神経の集まりに、寂寥感(せきりょうかん)を掻き立てる。


 それは人喰い怪物が、獲物であるこの世界の人間を油断させるための狩りの本能なのか。

 あるいは、これから出会うであろう「魔法使い」の同情心、思いやりの心でも誘いこもうとしているのだろうか?


 どう思っているのか、なにを考えているのか。

 それは、怪物にしか分からないことだった。


 いずれにしても、怪物の身には劇的なる変化が訪れようとしていた。


 大量の蜜蜂を詰め込んだ人型の布の袋。

 袋の口を封印している怪物の黒い触手。

 翅が生えている当たりの空間が、グンニャリと曲がり、歪み狂っている。


 透明であったはず、何も無いはずの空間が不自然に膨らんでいた。


「あれは」


 メイが左側にいるキンシに、不安のなかで身を寄せている。


「なにかしら?」


 白色の魔女に身を寄せられている。

 キンシは内心、魔女の白く可愛らしい羽毛や綿毛の感触、フワフワな感触に「うひひひひ……」と堪らない感激と、少々のよこしまなる感情を抱いている。


 ……それはそれとして。


「もしかすると、あれは「傷」と類似した現象が起きているのかもしれませんね」


 「傷」という単語、ありきたりな名称が登場してきた。

 

 メイは下側に向けていた視線を上に、空に移動させている。


 ビルの隙間、ここからでは古城の上に広がる、「傷」と呼称される魔力的要素を確認することは出来なかった。

 

 リッシェのクラシックカーの左側、車外にて青年の声が響いてきた。

 

「「傷」について検索します」


 リッシェを含めた社内の彼女たちが、車の側、並走するように飛行を行っているバイクを見つけている。


「検索中……検索中……検索中……」

 

 電子的なノイズが走る連続音、トゥーイは首元に巻き付けている発声補助装置から言葉を発している。


情報(データ)を千八十九件を検出ししました、集合体の抽出を行います」


 トゥーイ首元で、首の皮膚を隠している首輪のような発声補助内が電子的な音色が発せられている。


「現状この世界に置いて「傷」と呼称される事象は欠点、欠陥、不足、不具合、などの意味合いにて用いられる。

 それは魔力的要素にもいくらか共通する。

 空間と時間に干渉する、多量の魔力の変容によって引き起こされる(ひずみ)、歪みの事である」


 つらつらと語るトゥーイ。


「…………」


 その後にしばしの沈黙が訪れている。


「……」


 リッシェが唇をそこそこの意味を込めてピッタリと閉じている。

 答えを探し求めるように、オオコノハズクの目のようなオレンジ色の瞳を車の後部に居すわる少女と幼女に差し向けている。


「えっとー?」


 言葉の羅列云々はとりたてて珍しいものでも無かった。

 青年が語った内容はリッシェにも知っている事、あくまでもこの世界の一般常識でしかない。

 ただそれだけの事であった。


 それはそれとして。


「このヒト、いきなりどうしたの?」


「安心してください、リッシェさん」


 困惑している蜂蜜の彼女に、キンシが慣れ親しんだ様子で補足を入れていた。


「彼はときどき、状況の優先度を忘れて情報を言葉の上に羅列する癖がありまして……」


 と、そこまで説明した所で。


「んる?」

 

 キンシがなにやら、思い当たることを視界の片隅に見つけてしまっている。


 ハッキリとしたイメージ、アイディアを言葉に変換しようとする。

 だが魔法少女の思考力よりも、それよりも怪物の変化の力の方が優れていたらしい。


「  あああ    あ     あ   あああ   あ  あ   あ   あああ   あ ああ」


 悲しさのある鳴き声の後に、怪物の周辺の空間がいよいよ本格的に変容していた。


 二つの歪み、内側に秘められている突起物が空間の均衡をいとも容易く破り棄てようとしている。

 空間の方でも、意外にも頑丈で伸縮性に優れていたらしい。

 怪物が何かしらを空間から引き摺り出そうとするのを、世界はなかなか認めようとしなかった。


「まだまだ、時間がかかりそうだねー」


 見込みをたてたリッシェが、可能な限り速やかなる動作にて、運転席の後部座席に座る少女と幼女に問いかけている。


「ところで? 結局のところあの人喰い怪物が、キミたちの探していた敵ってことでいいのかな?」


「ええ、間違いないはずです」


 キンシは早くも確信を抱いている。


「あんなにも巨大な怪物、そうそう探知機から逃れるはずもありません」


 しかし、メイは魔法少女の予想を素直に受け入れられないでいた。


「そうかしら? なんだか、そうじゃない気がするのよね」


「おや? どうしてですか、メイお嬢さん」


 キンシがメイに問いかける。

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