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何故ならもうすぐ殺されるからです

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「きゃああああっ?!」


 リッシェが車の運転席にて悲鳴を上げている。

 まともで「普通」の、現代的な流線型を描く車両とは大きく異なっている。

 ハッキリ言ってしまえば時代遅れも甚だしい、旧式なデザインの車にはちゃんとした屋根など無いのであった。


 あるのは馬車の(ほろ)のように簡素な作りの雨よけだけである。

 しかも外界からの刺激から内部を守るはずの設計は、謎の成分、蜂の巣に類似した六角形の集合体に余分を許すことなく寄生されてしまっているのであった。


 カランコロン。キンシがハチの巣まみれの車のなかで足を動かすと、すねの辺りに硬いものが当たり、転げ落ちる音が車内に小さく鳴っていた。


「ガラス瓶を割らないでよー」


 後方に体をねじ込ませているキンシらに、リッシェが運転席から注意喚起をしてきている。


「ウチの大事な備品なんだからさー」


 そう言いながら、リッシェはハンドルを自分の夢なものに向けて引き寄せ続けている。


 運転者の操作は引き続き無事に車体に伝達されているようだった。

 リッシェとキンシ、そしてメイを乗せたクラシックカーは、ビルの階数を四つほど越えた所まで上昇している。


 上昇した旧車の下側。

 車が浮遊していたところに怪物の姿が突っ込んできていた。


 大量の重さを含んだ布の袋のような物体が、重さをビルの側面に激突させている。


 ベチャチャ!

 湿ったものが硬い表面にぶつかってへばり付く、湿度の高い雑音が雨の音色に混ざりこむ。


 魔力鉱物を粉砕した砂利を混ぜ込んだコンクリートの外壁は、少なくとも中身を詰め込んだ布の密集如きでは損傷を起こすことはなかった。


「ぶつかってますね」


 キンシは車の後ろ側にあるフレーム、あるいはただの穴のへりに身を乗りだし、下側にいる怪物の姿を見下ろしている。


「んるる……もしかすると、あの大きな布袋は怪物さんにはあまり関係が無いのかもしれませんね」


「カンケイが無い? それって、どういうことなのかしら、キンシちゃん」


 メイがキンシの右頬に体を寄せながら、少女の近くで疑問を浮上させている。


「んるるう……?」


 白色の魔女からの問いかけに、キンシは上手く言葉を見つけられないでいた。


「なんといいますか、あの大きな袋からは本来あるべき魔力の色やにおい、味が見えないと言いますか……?」


 魔法少女本人にしてみても、自分なりにしっくりくる表現を探しあぐねているようだった。


「それもそのハズだよー」


 魔法少女と魔女が違和感と疑問点に頭を悩ませている。

 それを運転席の背後に、リッシェがなんてことも無さそうに事情を説明していた。


「だって、あの袋はアタシんとこのショップの備品だもの」


「え?」


 キンシがリッシェの言葉に、子猫のような聴覚器官をピクリ、と動かしている。


「ええ?!」


 聞き間違いではなかろうか、キンシはなぜか瞬間的に信じ難いものを見つけてしまったかのような視線をハチの巣の下の娘に差し向けている。


「それって、どういう……」


「どうもこうも、あの布袋にはアタシが働いているハチミツのお店の大事な商品……の、一部分? がたっぷりと詰め込まれているワケでぇー」


 供述をしながら、リッシェは右の手の平で握り拳を丸く作っている。

 指を開放すると、手の平のなかには一匹の蜂が肢を蠢かせていた。


「きゃ……!」


 どこからともなく現れた虫の姿に、メイは思わずちいさく悲鳴をあげている。

 しかしすぐに、その紅色の瞳は彼女の手の中にある存在についての情報を検索し終えていた、


「ミツバチだわ」


 そしてメイは、脳内に生まれた予測にサアアッ……! と白い額を青ざめさせている。


「もしかして、あの袋には、そのミツバチさんがいっぱい、いっぱい……?!」


「そのとーり!」


 拒絶したい予測に限って、現実へ的確に合致してしまう。

 悲しきジグソーパズルのピースを握りしめてしまった、メイは自らの思考の触手に後悔を抱いている。


「ひょえー!」


 キンシはさらに車の外側に身を乗りだしながら、壁にへばりついたままの布の袋を興味深そうに凝視している。


「あの袋いっぱいに蜜蜂ですか、それはすごいですね!」


 キンシは布を観察しながら、ふと新しい情報を眼球に得ている。


「あれ、よく見るとあの袋……どことなく人の形に似せてあるような気がします」


「ああーそれはねー」


 魔法少女の指摘にリッシェが反応を変えそうと、運転席の後ろを振り向こうとした。


 と、そのタイミングにて、蜜蜂を詰め込んだ袋を閉じている謎の封印、巨大な翅の生えた怪物の一部らしきものに変化が訪れていた。


「  あああ   あああ   あああ  あああ   あああ   あああ   あああ   あああ」


 幼い子供の声、赤ん坊の微笑み、あるいは発情期を迎えた猫の鳴き声のような、そんな声が聞こえる。

 それは怪物の鳴き声であった。


 恐ろしき人喰い怪物の四枚の翅がピン、と真っ直ぐ張られている。


 伸ばしきった薄い羽根の一枚一枚が、虚空に固定されたままでブルブルと震え始めている。


 微かな振動の後に。


「    ぎゃあああああああ ! ぎゃああああああ! ぎゃあああああああああ!!!  」


 怪物が叫び声をあげていた。

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