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美しい子供たちは雲の布団の上で眠る

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 メイとキンシはそれぞれに、それぞれの方法にて空を飛びながら、自分たちと同じく空を飛ぶ巨大な建物を観察している。

 灰笛の空をらせん状に覆い尽くすビルの群れ群れ。

 その内の一棟がいま、魔法使いの少女と白色の翼を持った魔女の目の前に高々とそびえ立っている。


 巨大な紅玉(ルビー)の塊のような魔力鉱物の基軸。

 ゆうにトゥーイの全長さえも超えるほどのサイズがある、魔力鉱物の周りにはビルをさらに安定させるための機構が様々、取り付けられていた。


 大木をチェーンソーで切断した、そん断面図ほどの幅がある排気口らしき管や穴。

 そこからは、絶え間なく巨大な怪物の寝息のような空気の質量が唸り声をあげている。


 外界の空気の流れをさばくために設えられているのは、これまた極大な(かじ)であった。

 クジラのヒレほどに大きな舵は、浮遊するビルを空間にて安定させるために、常に絶え間なく左右にゆるやかに動き続けている。


 どこか厳かな雰囲気さえ感じさせる動作。

 それらは人々の生活の気配を守るための、魔術と化学を無理矢理……。


 ……もとい、魔術と化学の見事なる、素晴らしき! 調和と共存の結果がいま、魔法少女と魔女の目の前に展開されているのであった。


「ルビーの魔力鉱物ね」


 メイはとりあえず、魔力鉱物という自らの生活にちかしいであろう存在に注目している。


「これだけのおおきさの石、いったいどれだけの人喰い怪物さんをイケニエにしたのかしらね?」


 メイがあわれみのようなものを、まだ肉の少ない胸の内に灯している。


「ええ、そうですね」


 白色の魔女の左隣にて、キンシがふわふわと漂いながら彼女と同じ方角を見ている。


「ぜひとも、その虐殺に僕も参加させていただきたかったですよ」


「……」


 しかし同じ方角を見ていたとしても、瞳に映る光景は大きく異なっているものであるらしかった。


「なーに?」


 キンシが薄い胸の内に決意を改めている。

 それにマヤが、バイクの後ろ側で様子を眺めていた。


「ナナキ・キンシ君はいまだに、怪物の血肉に飢えて、飢えて、飢えて仕方がないってカンジー?」


 意味深にフルネームで魔法少女の名前を呼んでいる。

 口調や音程こそのんびりしてはいるものの、メイは彼の言葉に恐怖心のような気配を感じ取っていた。


 もしかすると、この宝石店の店員である彼は思いのほか、子猫のような魔法少女に怯えを抱いているのかもしれない。

 

「さてと、ウチの倉庫はこのビルからさらに三棟越えたところにあるよ」


 マヤは打って変わって、いつも通りのリラックスをした音程で道筋を案内しようとしている。


 空飛ぶ魔法のバイクの座席の後ろ側、僅かな余分に腰を落ちつかせていたマヤがおもむろに立ち上がる。


 とてつもなく狭く、酷く不安定な足場にもかかわらず、マヤはほとんど恐れを抱くことなく直立をしている。

 それはひとえに自分の肉体にバイクから落ちても大丈夫、下に落ちても死なない方法を知っているからであった。


 なんといっても彼には妖精族特有の、魔力によって構築された妖精の翅を持っているのである。


 蝶々のような羽根をパタパタ、とひらめかせながら、マヤは魔法使いたちの前に飛び立っている。


 宝石店の店員である彼の、エルフさながら三角にとがる耳の形をメイは視線で追いかける。

 マヤは妖精の翅を使い、ビルの舵の辺りに体を寄せていた。


「こっからは、オレちゃんが直々にご案内をして差し上げようー」


 …………。


 たどり着いたのは、ビルの屋上にある駐車場的空間であった。


「いわゆる立体駐車場ってやつかなー?」


 マヤが光景についての説明を簡単に済ませようとしている。


 しかしながら、メイはマヤのあっけらかんとした態度に疑問点を抱かずにはいられないでいた。


「んん……」


 白色の翼を羽ばたかせ、メイはその「駐車場」から伸びる出っ張り、足場と思わしき部分に降り立っている。


 魔力の翼をたたむ。

 バレエダンサーのチュチュのように折りたたまれている、白い翼を発現させたままで、メイは雨合羽(あまがっぱ)のフードをちいさく脱いでいる。


 新雪のように白い毛髪。

 三つ編みのサイドテールでまとめているロングヘアーは、左の後ろがわが不自然に切りとられているように見える以外は、大人しめの印象を持たせるヘアスタイルであった。


 メイは視線を左右に、首を動かすと椿の花のような形をした聴覚器官にかかる、細い後れ毛がふるふるとかすかにふるえている。


 少しのあいだ、メイはマヤの言う「立体駐車場」を眺める。


 眺め終えたあとに、ひとこと。


「どちらかというと、ほったて小屋って感じね」


 白色の魔女の容赦のない感想。


「うん、たしかにそれは否めないってカンジー?」


 だが宝石店の店員であり、その「掘っ立て小屋」の持ち主であるマヤは、魔女の意見におおむね賛成したがっているようだった。


「オレの権限だと、ギリここが自由に使えるぐらいの容量しか許されないんだよー」


 マヤは己の至らなさをどこか他人事のように扱っている。


「さて、さてさーて、トゥーイの旦那の武器は? たしかあの辺りにィー……」

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