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なんて勘違いをしたもんだ

こんにちは。今日の更新です。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「たいへんよ、キンシちゃん」


 メイがすこしおびえたように、光り輝く植物、街路樹たちの並びをながめていた。


「木が、樹木が、街路樹があおい火に燃えているわ」


 メイがとっさに選んだ表現方法に、キンシの方はいたって平然とした様子で彼女の言葉のチョイスに関心と、そして関心のようなものを抱いている。


「ほうほう、なるほど、燃えているとはなかなかにお洒落な表現方法でございますね、メイお嬢さん」


 キンシは笑い事で済まそうとしているらしかった。

 自然にそうする。普段ならば箸が転げただけで、子猫のような聴覚器官をペタリと平たくしてしまうような。そんな気弱な魔法少女が平然としている。


 状況にメイはすぐさま自分のアウェイさに気付かされている。


「町ンなかにある街路樹は、ほとんど人喰い怪物と一緒なんだぜー」


 信じ難いことを言っているのはマヤのノンビリとした声量であった。


「ウソでしょう?」


 にわかにもたらされた新情報に、メイは悲しくも新しい情報を求める本能に駆られていた。


 もう一度風景を見る。

 暗さはそこには存在していない。

 むしろ明るいくらいだった。


 夕方が夜を迎える、その頃合いに街の光が周辺を色鮮やかに照らし始める。

 その瞬間をちょうどよく、程よく切り取ったかのように、町の光の目覚めが空間に固定されていた。


「ネオン街とは、ちょっとちがう」


 メイは眼の前の光景に上手く名前を付けられないでいる。


「夕暮れ時の、あわただしさみたい」


「おお、なかなかに詩的でございますね」


 メイ自身は納得できていないが、どうやらキンシは魔女の表現方法を気に入ったようだった。


 白色の魔女と子猫のような魔法少女との間に、認識の差が生まれている。

 

 そのあいだにも、街中は人工の光を互いに示し合せたかのように明滅させ合っている。

 作り物の光源たちが集まり、ひしめき合っている。

  

 美しい、と言えばそれで済ますことも出来る。

 しかしながら、それらの輝きはあくまでも生活の気配から由来しているものでしかなかった。


 使い古され質屋に売られた大量の真珠のネックレスのようなきらめき。

 存在しているのは人間たちが暮らす気配、日常生活を乗りこなす呼吸の気配、その集合体であった。


 メイは唇をちいさく結んでいる。

 意を決して、メインストリートにのぞむ街路樹に視線を移してみた。


 やはりそこには、「普通」の樹木にしか見えなかった。

 ほのかに青白い光を放っている、木々はやはり何度見ても普通の植物にしか見えない。


「おちびさんは、たしかカハヅ・ルーフ君の妹さんだったかな?」


 メイは血の気がサアアッ……と、引いていく感触を肉の内側に味わっていた。

 嵐が通り抜ける勢いが体の内に溢れていく。

 留めようもないそれは、メイにとって最愛の相手である兄に危険が迫っているのではないか、不安を基軸とした強烈な警戒心であった。


「あれ? あの不倫クソ野郎に会ったことがあるのですか?」


 キンシが黒色の耳をピン、と立てて驚いている。


 マヤの方でも、キンシという名の魔法少女らしからぬ暴言の気配に意外さを覚えているらしかった。


「うん、この前ウチのお客さんとして、義足を取りに来てたんだよー」


 マヤは事情を話している最中にて、目ざとく彼女たちの反応のそれぞれを観察している。


「妹がひとりいるってことは話に聞いてたけれどさ、そうなんだ、キンシ君とも知り合いだったのかー」


 マヤの表現に、しかしながらキンシはティースプーン一杯程度の不快感を来たしていた。


「やめてくださいよ、マヤさん。僕とあの不倫クソ野郎は、まったくもっての赤の他人なんですから」


「うん、向こうのルーフ君もキンシ君と似たようなことを言ってたよ」


 マヤはそこまで言ったところで、ハッと思い当たる点を見つけ出していた。


「ちょっとまって、「不倫クソ野郎」ってことは、カハヅ・ルーフ君とナナキ・キンシ君は婚姻関係に」


「違います」


 キンシはマヤの許されざる勘違いに強烈なる不快感、ある種の憎悪に類似した感情を抱きはじめようとしていた。


 右側、片方にだけに残された肉眼に殺意が宿る。

 鮮やかな緑色の虹彩は爛々と輝き、瞳孔は敵対心に満ちあふれた野良猫のように鋭い気配を放つ。


「冗談だって」


 魔法少女が本気で嫌がっているのをみた、マヤは流石に悪手が過ぎたと早くに察知しているようだった。


「ほんの少しのおふざけ、そんなに怒らんといてよ。それに、カハヅ・ルーフ君には愛しのハニーがいるんだから」


 マヤがメイの方を見ている。


「話には聞いていたけど、まさか本当に七歳にも満たねェ女を愛してるとは、末恐ろしいヤツだよ」


 侮辱の度合いで言えばこちらの方が強いと思われる。

 しかしながら、彼女たちはすでに生じた問題に解決の道筋を見出しているようだった。


「そんな、「愛しのハニー」だなんて」


 メイがひとづてに聞いた兄の、自分に対する表現方法に頬を染めている。


「ひゅうひゅう! クソ野郎にしては、いかした言葉を選ぶではありませんか!」


 照れているメイに、すっかり殺意を隠しきったキンシがはやし立てるようにしていた。


 マヤが溜め息を吐く。

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