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青い青い青い春に散る

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 街中が見える。そこはいわゆる都会と呼べる空間に違いはないようだった。

 左右を挟んで見えるビルの群れ。

 メイがよく知っている、慣れ親しんでいる建物と言うのは、高くてもせいぜい三階建てのアパートぐらいのものであった。


 だがどうだろう? いま実際に目の間を占領しているビルは、ゆうに四十メートルを超えるか超えないか、それが第一の基準となる高さを有している。

 そして高いビルは一棟(ひとむね)や二棟に留まるなどと言う話ではなかった。


 見渡す限り何処までも、果てしなくビルの群れが続いている。

 まるで朝の七時半から九時にいたるまでの電車の内部のような、地獄のごとき密集。

 

「驚いているのですか? メイお嬢さん」


「ええ、おどろいているわ」


 キンシとメイが静かな道のうえにて語り合っている。


 キンシが不思議そうにしている。


「なにが、そんなに珍しいのでしょうか?」


 見上げた先。

 そこではビルの群れが空を飛んでいた。


 ビルの群れ、群れ、群れ。

 無機物、建造物が当たり前のように浮遊しているのである。


 地面から大樹のように生えているビルは、この際、いっそのこと「普通」の光景として受け取るより他はない。


 しかしながら、地上の群れよりもさらに高く、空にあたる部分にまでビルが存在している。

 これは一体どういうことなのだろうか?


「今日も魔力鉱物の基軸が絶好調ですねえ」


 キンシが空を、そこに浮かぶビルの群れを見上げ、眩しそうに瞳孔を縦長に細めている。


 魔法使いの少女の、カッターナイフで縦に切り裂いたかのように、小さな切れ込みが絶え間なく伸縮している。


 魔法少女の瞳に映る。

 建造物の大群は塔京(とうきょう)……と呼称される、東にある首都のかつての摩天楼を意識させる。

 

 とは言っても、現在の塔京(とうきょう)はかつての大戦の影響によってずいぶんとその姿を変えたと聞く。


 大戦の影響は、首都より遥か西側、島国のちょうど中心点に位置する地方都市灰笛(はいふえ)も例外ではない。


 摩天楼より遥かに超える、ビルの群れは縦に三つほど連続しているらしかった。

 太陽の光さえも遮るほどに、浮遊するビルの棟。

 それら灰色の太いそれらは、緩やかな螺旋を描きながら聖なる天空へと割り入れられていく。


「んん」


 メイはビルの群れの果てを見つけようとして、しかしてそれが上手くいかずに、硬いアスファルトの上にあおむけに倒れ込みそうになった。


「んんん……っとと、あぶない、あぶない」


 倒れかけたメイは姿勢を整える。

 体の軸を元通りにしている、魔女が白色の羽毛をブルル、と震わせる。


 白色の魔女の体の動き、やわらかな羽毛の震動に合わせて、灰笛の都市に降りそそぐ雨の雫が小さな飛沫をたてる。


 メイが透明な雨合羽(あまがっぱ)の下で身を揺れ動かす。

 

 その動作を視界の片隅に、マヤはすぐに視線を自分の上空へと向けている。


「この辺だとさ、フツーに地上を歩いてたら元々少ねェ太陽の光もビルに遮られて全然届かなくなンだよ」


 マヤは誰とはなしに、自分の事情を他人に語ろうとしている。


「だからさ、灯りが必要なワケ。出来るだけ安心できる、道を照らすライトをみんな必要としているワケよ」


「それで、あなたのお店が登場してくるのね」


 メイが情報の検索から予測をたてている。


 幼女のような見た目をしている彼女の言葉を聞いた、マヤが「おっ?」と意外そうな声をあげていた。


「お察しがイイね、イイコだねえ、まだそんなにちっちゃいのにー。どうしたのかな? ママとかパパに教えてもらったのかなー?」


 マヤは膝をちいさくかたむけて、僅かばかりにメイと視線を合わせようと、気遣いをしたがっているようだった。


「んんと」


 さて、どのように答えたものか。

 自分には父親や母親と呼べる存在はいない。

 家族がいるとしたら祖父と、そして兄が一人。それがメイにとっての「普通」の家族であった。


「そう、ね。魔力鉱物ランプは、マヤさんのお店、「コホリコ宝石店」でも取りあつかっているのかしら?」


「んあ? あーっと、うん、まあそんな感じだけど?」


 あからさまに話題を逸らされた、そのことにマヤは若干ながら違和感を抱いていた。


 メイが引き続き問いを宝石店の店員である彼に投げつけ続けている。


「マヤさんのお店では、このあたりの──」


 メイはは周辺に紅色の視線を、意味をともないながら見やっている。


 ビルの群れ群れによって、天空より遥か上、宇宙より届けられる本物の太陽光はほとんど遮られてしまっている。

 

 辛うじて、光芒(こうぼう)のような光のかけら達が点々と、濡れた地面に自然光をほのかに香り立たせている。

 その程度である。


 であれば、地上を歩くしがない一般市民たち、「普通」の人間どもは暗がりの中を歩くことを強いられているのか。


 いや、そんなことはなかった。


 メイビルのうず巻く天空から視線を下に、自分たちが佇んでいるアスファルトに近しいところへと視線を移動させている。


 光が瞬いている。

 太陽の光とは異なる、ほのかに青みがかった光たち。


 それらは魔力鉱物の他、どうやら植物からも発せられている気配であるらしかった。

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