愛こそすべて信じたまえよ
こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
メイの記憶の中にある少女の姿。アゲハ・モアと言う名の少女。
灰笛の中心に座す、魔術師たちの本拠地である「古城」
キンシやトゥーイのような魔法使いとは大きく異なっている。
当然のことながら、メイのような魔女とも違う。
魔術師とは、言うなれば科学社会における技術者に近しい役割を担っている。
人々の生活の基盤となる魔術式や魔法陣を作成する。
現状に置いて、少なくとも魔法使いよりかは世界に必要とされている存在たち。
彼らの親分、ボス、女王のような役割もっているのが、アゲハ・モアと言う名の少女であった。
魔女が過去の記憶に思いをはせている。
その間に、宝石店の店員であるマヤが魔法使い側に提案をしてきていた。
「ところで? だよ、そろそろその転移魔術式をしまってあげないと、中身のヒミツがもろにバレバレのバレンティンになるよー?」
「ああ、ああ! いけない、そうでした」
マヤに指摘をされたキンシがびっくりと体を震わせている。
「マヤさんの言う通りです、転移魔術式をそのままにしてはなりませんね」
キンシは首の傷もそこそこに、魔法の槍を左手に抱えたままで水たまりの方に近寄っている。
「…………」
トゥーイが少し寂しそうにしている。
魔法使いの青年の、僅かな表情の変化。
悲しみに気付いたのは、おそらくメイひとりだけであるらしかった。
「トゥ」
メイが魔法使いの青年を呼ぼうとする。
名前を呼んで、果たして何をするつもりだったのか。
それはメイ自身にとっても、どうにも、どうしようもないほどに未知の領域でしかないようであった。
青年と魔女が感情の密なるすれちがいを起こしている。
そのあいだにて、キンシはさっさと転移魔術式を片づけようとしていた。
「そうれ、ばちゃばちゃっと」
キンシが足で水たまりを踏んでいる。
暗い色のホットパンツからのぞく足は、黒のサイハイソックスで中身の皮膚を隠している。
暗色を中心とした、体に密着するタイプの下半身コーディネート。
その終端にて、男物のエンジニアブーツが鮮やかな赤色と共に存在感を主張している。
レッドを基本として、ブラックの靴ひもが交差しながらキンシの足へと、そこそこに無理矢理に装着させられている。
夕焼けのような色の長靴は雨に濡れて、水たまりをはじき、泥に沈み込んだ雰囲気の汚れを付着させている。
長靴に掻き乱された、水たまりから水しぶきと共にかすかな光が明滅していた。
現れては消える光。
それは魔術式が掻き消されていく、魔力的行為の流れの一端、目に見える部分であった。
「さてと」
図書館に繋がる転移魔術式を解除し終えた。
キンシが一息をついて、周辺にいる人間たちに視線を向けている。
「お店に、「コホリコ宝石店」向かいますか」
魔法使いの少女は、頭と首から血を流しながら人々に提案をしている。
「そのまえに、体じゅうが真っ赤よ、キンシちゃん」
白色の魔女が、絹のハンカチーフを片手に指摘をしていた。
…………。
「このあたりは、なんというか、すごく……」
とりあえず、まずはキンシの額に絆創膏をあてがいながら、メイは同時に周辺の環境に目線を向けている。
「すごく……なんですか? メイお嬢さん」
キンシがメイに問いかけている。
黒色の前髪を魔女にたくし上げられている。
毛髪の下側には、今のところは「普通」の皮膚に見える、白く滑らかな皮膚が見えた。
ブルーベースな肌は健康そうに湿度を保っている。
それゆえに、通行人に蹴り飛ばされてしまった際の傷が、赤さがより一層痛覚を誘発する生々しさを印象強くさせている。
「痛そうね」
メイは指先で魔法使いの少女の額に触れようとする。
「かわいそうに」
「いえいえ、そんなことはございませんよ」
キンシが言い訳をするように、右の瞳を黒く拡大させている。
「そもそも、僕がいきなりわけの分からないところに転移魔術を開いてしまったのがいけないのです」
「そうそう! そのとーり!」
魔法少女のしおらしさに容赦なく、正しい追い打ちをかけるのはマヤの喉もとであった。
「しかも、しかもだよ? こっちはワケの分からん犬耳銀髪ロングヘアー魔法使いに絞殺されそうになったってのにィー」
マヤはクリーム色の白目をギョロリ、とトゥーイのいる方に差し向けている。
「…………」
この場面に置いてはおおよそ被害者にあたるであろう、マヤに睨まれているトゥーイは、しかしながら特に悪びれる様子もなかった。
いけしゃあしゃあとした態度のままで、トゥーイは耳と左の目をマヤのいない方角へと差し向けている。
メイとトゥーイが見ている光景。
そこは、灰笛と言う名前の土地の一部分であった。
表通りから少し逸れた道、裏通りほどにはわびしさがある訳では無い。
大きな道のすぐ近くにて、どうやらキンシは転移魔術式を展開させてしまったらしい。
「そこにオレの足がぶつかるって、キンシ君はなかなかに不幸な体質を持っていらっしゃるようで?」
マヤが皮肉めいたものを口にしている。
「いやあ、それほどでも」
それにキンシが、謎の羞恥心を抱いている。
恥ずかしいと思う、その感情から逃れるように視線を町中に移した。
見えた光景、それは、




