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魔法使い的少女の第三章 はじけるリズムの季節 瑞々しき場面

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「ん、ぐえ」


 トゥーイに首を絞められている、通行人が憐れにも呼吸音のような、呻き声のような、なんとも中途半端な悲鳴を上げていた。

 まともに声が出せない程には、魔法使いの青年の握力は容赦のないもだった。


「…………」


 トゥーイは右の目、アメジストと同じ色の瞳を大きく開いている。

 キラキラときらめいているように見える、拡大された瞳孔はどこまでも暗い。


 何も見えない。

 そのはずなのに、眼球が対象としている相手には確実に殺意が向けられている。


 食欲も建前もなにも無い、ただ殺したい、難いと言う感情だけがそこには含まれている。

 憎悪もここまで純粋になると、ある種高品質のルビーを見たときのような感動さえ覚える。


 そう考えているのは、今まさに殺されそうになっている憐憫の通行人なのか。

 あるいは、殺害の現場に立ち会いそうになってしまっている、メイの紅色の虹彩に浮上する恐怖の感情、だったのかもしれない。


「トゥーイさんっ!!」


 キンシが叫ぶように青年の名前を呼んでいる。

 メイのような悲鳴とは異なる。それは、確固たる意志を持った注意の心に由来していた。


「おやめなさい。道行く人の喉笛を掻き切るのは、許されない行為ですよ!」


 当たり前のことを大声で言っている。

 なにかしら、気の利いた忠告でもなんでもすべきだったのだろう。

 

 だが今のキンシにはこれが精一杯であった。

 なにはともあれ、とにもかくにも、キンシは頭部に食らった衝撃の後に燃え盛る痛みに耐えがたい苦しさをおぼえているのであった。


 正直言葉を発する気にもなれない。

 涙をボロボロとこぼしながら、痛覚にもだえ苦しみながらのた打ち回りたい。


 それがキンシの本音であった。

 しかし本能に従う訳にもいかない、強い理性がキンシの肉体を突き動かしている。


 このままでは本当に、大事な仕事の相棒が路上で何の脈絡も旨みも無しに、人間を一名殺してしまう。


 仕事を始める前に、隠蔽しなくてはならない犯罪をおかすわけにはいかないのだ。


 キンシは懸命なる努力にて、どうにかこの場を平静に保とうとする言葉を頭のなかでさがしている。


 だがそんな彼女を嘲笑うかのように、魔法少女の視界にひとすじ、赤いものがたらり、と垂れ下がっていた。


「あ」


 以外にも第一声を発したのは、トゥーイに頸椎(けいつい)()じ切られそうになっている可哀想な通行人の喉であった。


「黒猫の女の子、デコから血ィでてるよー?」


 およそ状況に見合わぬ、なんとも締りのない声であった。

 「普通」に道の上を歩いていたらそこら辺の、どこにでもありそうな水たまりから複数の人間が現れた。

 そこからさらに、いきなり魔法使いと思わしき青年に首の骨を絞めつけられている。


 だというのに、この通行人は気丈にも他人の、しかも魔法使い側の人間の心配をしているのである。


「うっひひィー大丈夫ゥ? 顔にイかした真っ赤なラインが走っとるよー?」


 男性に指摘をされた。

 キンシは慌てた様子で、しかしてそれを懸命に悟られないように、必死に平静さを保ちながら自ら頭部に触れている。


 指先に生温かい感触。

 液体はヌルリとしていて、指紋のそれぞれにわずかな粘着質をもってまとわりついてくる。


 指を額から離し、目で付着したそれを確認する。


「あ、本当ですね」


 真っ赤に染まっている。 

 体液の艶めきを、キンシはしばらく痛みも忘れて見入ってしまっていた。


「ほら、言ったとおりだろー?」


 若い男性が緑を帯びた頬に笑みの気配を濃くしている。


 いや、もしかしたら状況の最悪さを理解していないだけなのかもしれない。

 メイは、そしてトゥーイは、信じ難いものを見るかのように通行人を、若い男性の緑がかった肌に刻まれる笑みの気配を凝視している。


「ん、あれ、あれれェー?」


 幼女のような見た目の彼女と、青年がジッと睨んできている。

 しかしそれに構うことなく、若い男性はキンシの姿を見て表情を明るくしていた。


「ナナキさんとこのムスメさんじゃないのー。どうしたん? そんなけったいなところからアタマ覗かせよってからに」


 どうやら通行人はキンシのことを知っているらしかった。


 相手が誰なのか、キンシは赤く染まる視界にて考えようとする。

 

 自分の左側の額を蹴り飛ばした、相手はしかしてキンシにとっても既視感のある相手であるらしかった。


「あなたは」


 キンシが男性の名前を呼ぶ。


「マヤさん、コホリコ・マヤさんではありませんか」


 魔法少女に名前を呼ばれた。

 宝石店の若き店員であるマヤが、少女の呼び声に返事をしている。


「どーもどーも、コンニチワ。お呼びの通り、マヤさんの登場だよー」


 キンシとマヤのやり取り。

 

 それらを呆気にとられたように見ていた、メイがすかさず質問文を小さな赤い舌の上に用意している。


「ふたりは、お知り合いなのかしら?」


 白色の魔女の疑問に受け答えをしているのは、マヤの声が先であった。


「モチのロン、この灰笛(はいふえ)に生息する全ての魔導の関係者は、わが「コホリコ宝石店」のタイセツな、タイセツなお客さまなんだってのー」

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