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楽しいことは続けられそうにない

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます……。

「さて」


 この世界に発現したもうた、本の一冊をキンシは丁重に扱おうとしている。


「これはしまっちゃいます」


「ええ?! あんなに時間をかけて、すぐに使わないの?!」


 ごくごく自然な動作にて、キンシが現れた本を上着の内側、懐に仕舞いこんでいる。

 それをメイは、若干ながら失望を込めた視線にて指摘していた。


「ええ、そうですよ」


 魔女が白色の羽毛をブワワ! と膨らませて動揺している。

 それをキンシは、なにかしらの奇妙なものでも見るかのような、そんな目線だけを送っていた。


「まだ記録が為されていませんからね。ちゃんと、この眼で本を始まりから終わりまで全部読み尽くしてしまわないといけません」


 そういいながら、キンシは左の指で自らの右眼窩(がんか)を指し示している。

 人差し指の先端、そこには赤色に艶めく琥珀の義眼が埋め込まれているのであった。


「義眼、ね」


 メイは膨らませた羽毛をシュッ……と縮小させている。


「たしか、記録装置、と言ったわよね?」


 数日前の病床にて耳にした話、直接目にした内容をメイは思い返している。


「ええ、そうですよ」


 キンシは、今のところは無表情で自らの肉体の一部についてをメイに説明している。


「内側に沈む、精霊はあらゆる世界の物語を望んでいるんです」


「精霊の導きね」


 メイは記憶のなかに明滅する情報(データ)を拾い集めている。


「太古からそんざいする精霊を、情報の収集、保存、備蓄装置として使う。

 そうすることで、強大な魔力を獲得する」


「ええ、その通りです、ザッツライト……」


 同意をしようとした。

 だがその所で、キンシはふとある事実に思い至っていた。


「……ああ、そういえば、ちょっとだけメイお嬢さんの持つ機能と似ているかもしれませんね」


「私のと?」


 メイはキンシの意見に、すぐに了解をすることが出来なかった。


 時間は……? 

 どれほど経過したのだろうか、ずいぶん長いこと話をし続けているような気がする。

 そのため、メイはつい先ほどから焦燥感のようなものを抱き続けているのであった。


「キンシちゃん、そういえば、のお話しなのだけれど、一応まだ、いまはお仕事の途中だったんじゃないかしら?」


「そうですよね、そうですとも、メイお嬢さんの言う通りでございます」


 メイは一瞬だけキンシに期待をしていた。


「記憶能力の素晴らしさについては、まだまだ未解明な部分が大量にございます」


 だが白色の魔女の希望を、子猫のような魔法少女はいとも容易くすり潰しているのであった。


「まずですね、記録した情報をどこに保存するのか、まずもって位置関係を固定すること自体が大量の技術力を要する、いわゆる至難の業と表現されるべき事項でありまして」


 メイはすぐに魔法少女へ諦めを抱くようにした。

 諦めて、せめてこの長くなりそうな話を簡潔に進めることだけに注力することにしていた。


「私の場合は、脳の余分を無理やり使うことで、情報の検索をゴウインにおこなっているにすぎないのよ」


 だがメイは、メイの場合は、自分を語るほどに次々と言葉が産まれるタイプであるらしかった。


「だから、そのおかげで、ときどき言語機能にふぐあいがおきるのかもしれないわね」


 メイは自分の舌足らずな口調に、いまさらながらの自己嫌悪を抱いている。


「イヤになっちゃうわ。おかげで、ときどきスムーズに会話をすることすらできなんだから」


「そう……なんでしょうか?」


 メイの自己憐憫に、キンシは単純な疑問を呈していた。


「僕の方が、よっぽど会話とかコミュニケーションが下手くそだと思うのですが……?」


「だめね、こういう卑下のかさねあいは、あまりユウイギな時間とはおもえないわね」


 状況の泥沼化を予感した、メイはすみやかに話題を変更することにした。


「ところで、リンゴから作った本は記録作業にうつるとして、もともと持ってきた本は? どうするつもりなのかしら」


「おお、よくぞ聞いてくれました」


 話題の意向、工夫具合を知ってか知らずか。

 仮に知っていたとしても、キンシには白色の魔女の気遣いなどお構いなしと言った風体であった。


「記録を無事に終えた本は、ご安心ください、しっかりと、しっぽりと、目玉の中身から尻尾の先まで余すことなく消費させていただきますよ」


 そういいながら、キンシは上着の懐から再び本を用意している。


 メイは一瞬、先ほどリンゴ型魔力鉱物から精製したばかりの、血みどろの新品本なのかと、そう思い込みそうになった。


 だが違った。

 取り出したのは、一見して「普通」の書籍に見える、見覚えのある一冊であった。


「さっきの本ね」


 メイが見飽きたような反応を表明している。

 すでに観察はし終えた、そのつもりだった。

 だからこそ、メイは既知の事実にはあまり関心をしめさないようにしていた。


「その本が、どうかしたの?」


「メイお嬢さん、これはただの本ではないのですよ……!」


 白色の魔女のテンションの低さとは相容れない。

 キンシは少しだけ鼻の穴を膨らませながら、その本に対する特別性を魔女に説明しようとした。


 本を開く。

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