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飛び跳ねて書き心地満点

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます……。

「すうぅぅぅー……はあぁぁぁー……」


 キンシは息を吸って、吐いている。

 左腕を体の前に、胸のあたりにかざす。


 包帯を外したままの、裸の左手には呪いによる火傷の痕が色濃く残っている。

 スタジアムジャンパーのしぼられた袖口、赤いラインが走る布の先には少女のあまり大きくない左手がちょこん、とのぞいている。


 手の甲には一筋、蔦植物の若く瑞々しい枝先のような文様がくるりくるりと這うように刻みつけられている。

 筋は薬指の一本、爪の生える根元から指先まで細々と継続していた。


 蔦の植物が這うような、火傷痕は今のところ刺青のように黒々と、大人しくしている。


 「呪い」と呼ばれる魔力の暴走。


 体内にウイルスが侵入した際に、肉体が熱を発して防衛をしようとする。

 それらの仕組みとあまり大差はない、所詮はただの生理現象にすぎない。

 

「……」


 そう教えてもらったのは、いつの日だったか? メイは記憶を探ろうとした。


 メイが羽毛をブワワ……と膨らませながら、思い出にひたろうとしている。


 そのあいだに、キンシは左手に魔力を集中させていた。

 生理現象とは大きく異なっている。

 キンシはあくまでも自分の意思で、能動的に呪いの痕跡に魔力を巡らせていた。


 黒色に染まっていた火傷痕が、キンシの体内、血管の中に赤々と流れる血液に含まれる魔力に反応をする。

 暗黒に光がともる。

 

 黒々とした雨雲がが風に流されて、隙間につかの間の晴れ間がのぞくように、キンシの左手に透明度がきらめいた。


 キンシの指先に緑色の光がキラキラとまたたく。


 シュイイン……!

 車輪が勢いよく地面を走るような、爽快感のある音色が空間をわずかに響きわたる。


 キンシの左手の中に重さが現れる。

 銀色の槍、のような魔法の武器が現れた。


 キンシは発現したものをしっかりと確認する。


 自分の身長よりほんの少しだけ長さのある槍のようなもの。

 万年筆のペン先のような形状をもっている、刃の部分は(ダイヤ)の上の部分を縦長に引き延ばした鋭さをもっている。


 槍の穂にはさながら本物の万年筆のように、一筋の切り割りが中心を横断し、ハート穴が中心よりも少し下のあたりにちょこんと開けられている。


 刃には細やかな刻印がほどこされている。

 蔦のような形状は、ちょうどキンシの左半身にはびこる呪いの火傷痕にとてもよく類似している。


「あ、そうだ、キンシちゃん」


 槍の姿を見た、メイがその全体をながめながらひとつ、疑問点を思い出していた。


「うえ? どうしましたか、メイお嬢さん」


 白色の魔女に問いかけられた、キンシは銀色の槍の重さ、質感、存在感を実感しようとしている。


「その万年筆? 銀色の槍? の穂先にきざまれている文字って、なにが書いてあるのかしら?」


 メイが指をさしている。

 

「ああ、これですか」


 キンシはあらためて自分の武器に刻み込まれている文字列を確認している。

 普通の文章とは大きく異なっている。

 鉄の国(彼らが暮らしている国の名前)にて使用されている独自の言語とも異なる。

 かと思えば、例えば(さら)の国における、現状に置いて世界中に伝搬しつつあるイングリッシュとも異なっている。


「んん? この形は、(つの)の国独自の文字ともちがうわね」


 メイが背伸びをしながら、キンシの槍の刻印を解読に試みようとしている。


「うわわ、危ないですよ? メイお嬢さん」


 曲がりなりにも刃物である。

 キンシはメイの柔肌、絹糸のように白く、真珠の粒のように繊細な肉の表面に万が一にでも傷を負わせてしまったらと、恐怖感に怯えていた。


「ここに記されている文字なんて、そんなに大した内容ではございませんよ」


「あら? じゃあなんて書いてあるのか、キンシちゃんは知っているのね?」


「そりゃあもちろん! なんといってもこれは僕の、キンシの所有物ですからね」


 キンシはすっかりトゥーイの足など関心なく、現状解決するべき問題を思考の片隅へ、忘却の埃と共に押しやってしまっていた。


「ここに記されているのは……」


「しるされているのは?」


「カキゴコチサイリョウ、ですよ」


「かき、かき……」

 

 メイはすこし考える。


「ああ、書き心地最良、ね」


 メイは判読した後に。


「……うん! ただの宣伝文句ね」


 早々に結論ができたことに、メイはとりあえず安心感をひとつ結び付けている。


「まあ、万年筆にコクインするには、うってつけの言葉かもしれないわねー」


 メイはそう言いながら、次なる行動をキンシに指示している。


「さてと。その槍で、トゥが引っかかっちゃっている穴を切開しちゃいましょう」


 メイの提案を聞いた。

 その頃合いになって、キンシもようやく白色の魔女の思惑を把握し始めていた。


「了解しましたー!」


 キンシは明るく朗らかに、図書館と灰笛(はいふえ)を繋ぐ穴を切り裂いていた。


 少し経過。


「感謝、感謝」


 トゥーイが首元に巻き付けた発声補助装置にて、電子的な音声を発している。

 不揃いな文法だけでは足りないのか、トゥーイは何かしらのコミュニケーション方法を実践しようとしていた。


 左手を胸の前に水平に、手の甲から右手を縦に、上へと運んでいる。

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