彼女たちは彼の股関節を破壊したがる
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音の正体はトゥーイであった。
上側を見上げてみれば、トゥーイは小さな穴に体を引っかからせていた。
「がぼぼぼ…………! ごぼぼぼぼ、ボボボボボッ…………!!」
トゥーイは穴の中間にて、両の足をジタバタとさせている。
青年が戸惑っているのは、灰笛からこの図書館に侵入するための出入り口が、彼にとっては小さすぎるのが第一の原因ではあった。
「ごぼぉ!! ごぶぼっぼ、ぼぼぼぼおっボボボボボ…………!!」
なんといっても少女と幼女の肉体を受け入れる程度の大きさしかない。
魔法の鞄のサイズ感は、成長期を終えたばかりの青年の身長にはあまりにも、あまりにも小さすぎるのであった。
傍から見れば、どうなっているだろうか?
少女の鞄に一人の成人男性が体を丸ごと挿入しようとしているのである。
「ボボボボボボ…………」
きっと、かなり悲しい光景がそこには展開されているのだろう。
「…………」
そのことを考えると、トゥーイは段々と悲しい気持ちに胸の中がいっぱいになっていく気がした。
「まあ、たいへん」
メイはトゥーイのもがき苦しむ様子を見上げている。
その声音はあくまでも静かで平坦なものでしかない。
無為にまかせると、メイはただトゥーイを見守るだけであった。
「たしかに、あのカバンのくちの大きさだと、トゥの体じゃせまくて通れないわよね」
「いやいやいや……冷静に状況を分析している場合ではございませんよ、メイお嬢さん」
白色の魔女の冷静さ具合に、キンシが小さな怯えの様なものを抱いている。
「お、おお……お助けしなくては……!」
キンシは小さく身を屈めて、ジャンプをするように両足を伸ばしている。
魔法使いの少女の肉体の動きに合わせて、魔法の図書館を満たす「水」が彼女の体を上に運んでいる。
重力に逆らって動く、キンシはトゥーイの下半身にへばり付いている。
「…………!」
誰かに足首を触られた。
状況が見えないトゥーイは、足だけをジタバタと激しめに蠢かせている。
「ああ、ほら、暴れないでください、トゥーイさん」
「…………」
キンシの声を聞いた。
恋人の声を認識した、トゥーイはス……と両足の動きを一時停止させている。
「よっこいせっと」
キンシはトゥーイの左足首を握りしめている。
「よいしょー!」
かけ声と共に、両手でトゥーイの足を下に引っぱる。
「ごぼぉ、ぐぎぎぎぎぎ…………!」
やみくもに足を引っぱられた、トゥーイは強引な流れで開脚をするかのような状態に陥ってしまっている。
「あれえ? なかなか抜けませんね……。ふんっ! ふんぬぬぬ……っ!」
青年の股関節が悲鳴を上げるのも構わずに、キンシは大根かカブでも引き抜くような気軽さで彼の肉体を引き裂こうとしている。
「…………!! …………!!」
状況のまずさをいち早く察した。
トゥーイは悲鳴を上げる暇もなく、自分の左足からキンシの手を振り払おうとしている。
「ちょっとー暴れないでくださいよートゥーイさん」
トゥーイの危機察知能力も虚しく、キンシはお構いなしと言った様子で腕による引力をさらに強めている。
見た目は少女の細腕、カトンボの肢のように繊細でやわな力しか有していないように見える。
しかしながら、少女は曲がりなりにも「魔法使い」なのである。
その肉体に「普通」とは異なる、異常なる質量の魔力を有している。
当然のことながら、身体能力も常人のそれとは大きく逸脱しているのであった。
「ふんぬらばーっ!」
キンシは謎の掛け声とともに、いよいよトゥーイの股関節を無意識の内に破壊せしめんとしている。
「…………!!!」
耐えかねたトゥーイが、魔法の鞄の外側で唇を大きく開き、盛大なる悲鳴を上げようとした。
と、そのところで。
「キンシちゃん、おやめなさい」
魔法少女の腕にメイがそっと触れている。
「そのままいくと、トゥの股関節が牛裂きの刑みたいになっちゃうわよ?」
「う、うしざき……?」
聞き慣れぬ単語にキンシがすかさず反応を示している。
「なんですか、それ? なんとも牧歌的な響きのある言葉ですけれど」
「おおむかしの死刑の方法よ」
登場した単語の物騒さに、一転してキンシが喉の奥を冷たくヒュウ、と鳴らしている。
魔法少女になかば無理矢理冷静さを取り戻させた。
そのところで、メイは現状の解決方法をさっさと考えようとしている。
「とりあえず、会陰切開でごまかそうかしら?」
入り口が狭いのならば、口を切り裂いてでも大きくしてしまえばいいのである。
「え、えいん……?」
キンシがなおも単語の正体について、果ても底も天上も何もない好奇心を膨らませようとしている。
「なんですか? なんですか? それってどういう意味なんですか……?」
「キンシちゃん、武器をだしてちょうだい」
魔法少女の関心をメイはさらりと受け流している。
「うえ? 武器ですか?」
メイに要求をされた。
キンシはとりあえず彼女の言うことを聞くことにしている。
「どうして武器が必要なのでしょう……?」
キンシは疑問に思いながらも、素直にメイの言う通り、左手から武器を発現させようとしている。




