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魔法についての愛を語って

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!

 ともかくキンシは左手で魔法を使おうとしていた。

 左腕を包むスタジアムジャンパーの長袖。


 黒字に赤いラインの走る布を、キンシは右手でまくり上げている。

 なにも身に着けていない、裸の左腕が正午近くの雨雲の下にさらされていた。


 血のしずくをまな板の上に垂らしたかのような一筋。

 唐草模様か、あるいはアラベスクを簡素化したような文様が皮膚に刻みつけられている。


 黒色のタトゥーのように見える、それはよく見ると火傷痕のような質感を持っている。


 コラーゲンとたんぱく質の過剰によるケロイドによく似ている。

 それは「呪い」という、魔力の異常生成による炎に焼かれた肉と骨、皮膚の傷痕であった。


「すうぅぅぅー……はあぁぁぁー……」


 キンシが息を吸って、吐いている。

 体内に灰笛(はいふえ)という名前の土地の空気、酸素、そして怪物の死体から発生する細やかな灰の粒が取りこまれていく。


 血液のなかの魔力が活動をする。

 呪いの火傷痕が黒色の濁りを流し、水晶の原石のような透明度が現れた。


 透き通る火傷痕。

 その奥には血も肉も骨も存在していない、砕けたガラスの破片のような透明だけが存在している。


 呪いが刻まれたキンシの左腕、手首から手の甲まで、果ては左の薬指の先っぽまで続けられている。


 指先にメイが注目をしていると、キンシのそこに光が集まってきているのが見えてきた。


 緑色の緑柱石、エメラルドのようなキラキラとしたきらめきが発生している。

 掃除機に吸引される空気の流れが可視化できたとしたら、それがエメラルドの色に染まっていたとしたら、きっとあのような具合になるのだろうか。


 光が集まると、なんということか、巨大なエメラルドの板が発現していた。


 四本の足が生えているそれ。

 それを、板をキンシはオーギの作成した魔法の傘の下の範囲内に置いている。


「どうです、魔力によって生成したかりそめの机でございます」


 キンシが現れた机をメイに見せている。


「まあ、ステキ」


 置かれた机、その表面にメイが指を滑らせる。


 透過する机。

 メイの指、皮膚、肉の間を流れる血液の熱。

 少し冷え気味のぬくみが触れると、机の表面はまるで水のように柔らかな波紋に揺らめいていた。


「まるで、波打ちぎわをそのまま四角に切りとったみたい」


 メイが感動を覚えていると、その右隣からオーギの溜め息が聞こえてきていた。


「はぁ……こういうどうでもいい、どうでもいい時の魔法はやたらとうめぇんだよな、キー坊は」


 先輩であるオーギに「魔法使い」としての至らなさを指摘された。 


「いやあ、それほどでも」キンシがてへぺろ的笑みを唇から一滴こぼしている。


「褒めてねェんだっての」オーギがさらに呆れを深いものにしていた。


 若き魔法使いたちのやり取りをながめつつ、メイはまたすこし考えごとをしている、


「さて、せっかく作ってくれた机のうえに、料理のためのかまどを、ここにうつさないといけないのだけれど」


 緑色に透き通る波を描く机。

 その上を見ているメイに、トゥーイが早速行動を起こしていた。


「…………」


 トゥーイが小さく呼吸をしている。

 右手を自らが描き、作成した赤い魔法陣。

 一個の紅い炎と化した塊が、作成者であるトゥーイの意向に従ってふんわり、と浮かび上がっている。


「…………」


 人差し指にさし示された方向、キンシの作成したかりそめの机の上に魔法陣による炎が移動していた。


「あ、そうだ、メイお嬢さん」


 キンシがふと、思い出したように黒色の猫耳をピコ、と動かしている。


「僕の魔力の都合上、机が安心と安全に実体を保てるのは、せいぜい三十分が限界であることを先にお伝えしなくてはなりません」


「あらら」魔法使いの少女の告白にメイがすこしだけ目を見開いている。


「けっこうみじかいのね。これだと、いそいでお料理しなくちゃ」


 メイはそう言いながら机の上にゴトリ、とまな板を設置していた。


「トゥ、パックのごはんはまだ予備があったかしら?」


 メイに問いかけられた。


「…………」


 トゥーイは首をコクリ、と縦に動かしている。

 その手の平にはすでに、どこからともなく取り出していたパックご飯が携えられていた。


「…………」


 左手に二つ、右手に二つ、合計四つ分のパックご飯がある。

 トゥーイはそれを一つの山になるよう重ね合せ、キンシの作成した魔法の机にとりあえず置いている、


 空白になった手の平、右側にはよく見るとまだ丸筆が携えられたままになっていた。


 トゥーイはまた丸筆で、四つのパックご飯の周りに円を描く。

 

 今度は平面による複雑怪奇な魔法陣ではなく、オーギはただ単純に渦巻きを描こうとしていた。

 ただ、しかしながら、それを二次元だけでなく三次元にまで影響する描き方をするのは、いくらかの魔法的工夫を必要とした。


 円を基本として、オーギは四つの筋を頭の中に想像する。


 一本、パックに覆い被さるように渦を巻く。

 合計四本の筋と渦巻きを描く。

 

 北の大地にかつて暮らしていた少数民族の描く、渦巻(モレウ)のような文様が描き上がっていた。


 光が明滅する。

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