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それでも君を連れていく

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「今回は咲きたての淡い黄緑色を意識してみたぜ?」


 オーギがメイに、自らの魔法についてを説明している。


「んん……香りてきには、ジャスミンのそれににているわね」


 メイが鼻をヒクヒクとひくつかせながら、まき散らされる香水の粒たちのあとを目線で追いかけている。


「いいにおいだわ」


 メイが見上げている先にて、オーギの魔法の香水が検索用魔術式にちょっとした影響をもたらしているのを確認していた。


 乳白色に透き通る網目模様が、香水に含まれる魔法の要素を吸い取っている。


 乾き切った新品のスポンジがぬるい水道水を吸収するように、魔術式は若き魔法使いの作品をその身に受け入れている。


「上手く混ざるかね……?」


 オーギが少しだけ不安そうにしている。


「だいじょうぶでしょう」


 若き魔法使いの憂いを、メイは応援するようにしている。


「ほら、みて。魔術式の色がかわってきたわ」


 メイがちいさく指し示している。


 白色の羽毛が微かに生える手の平。

 白く伸びている爪の先端が向けられている。


 方向の果ては、淡い黄緑色に染まる網目模様の魔術式が広がっていた。


 小さなドーム。

 雪の上にこしらえた、壊されていないかまくらのような形が空間にて構成される。


「よし、よしよし……いい子だ」


 オーギが魔法の成功の実感を掴もうとしている。

 

 彼の視界の中にて、魔術式はほぼ完全に黄緑色に染まっていた。


「色が変わっちゃったけれど、これがいったい……?」


 状況の変化にメイが疑問を抱こうとした。


「みなまで言うこたァねえよ、メイ坊よ」


 しかし白色の魔女の言葉を、オーギが空になった片手にてさえぎっている。


「もうそろそろ……もうすぐ、結果が追い付いてくる頃合いだ」


 オーギがそのように言っている。


 若き魔法使いが言う通り、魔術式と魔法による変化が彼らのもとに訪れつつあった。


「あら?」


 メイが違和感に気付く。


 頬を濡らすはずの、灰笛(はいふえ)という名前の都市に降り注ぐ雨の粒が消え去っていた。


 完全に消失をしたわけでは無さそうであった。


 ポツポツポツ。

 ポツポツポツポツポツポツ。


 淡い黄緑色に透き通る、ジャスミンに似た香りを身に纏う魔術式が簡易的な屋根を構成しているのであった。


「まあ、ステキね」


 メイが感嘆の声を上げている。


「まるでイエロートルマリンを散りばめたレースみたい」


 その宝石の名前がどの様な意味を持つのか、オーギには想像の範囲外であった。

 しかしながら白色の魔女が感動を覚えて居ること自体は、この若き魔法使いにとっても悪い事ではないようであった。


「よしよし、上々、上々」


 オーギはまずメイの体が雨に濡れなくなるよう、魔法の巨大な傘の位置をスマートフォンで調整している。


「これでとりあえず、あまざらしになるのは防げんじゃん?」


「ええ、そうね」


 メイはオーギに賛同しながら、大きな傘の下で雨合羽のフードを脱いでいる。


 ビニール素材に押さえつけられていたメイの毛髪。

 初雪のようにけがれのない、美しい白髪が空気の気配に敏感に揺れている。


「これなら、私ももっとステキなことができそう」


 ぱっつんに切りそろえた前髪をすこしだけいじくる。

 メイはそのまま指を顎の下に、右肩に引っ掛けてある太めの三つ編みの編み目を指でなぞっていた。


「そうね、なにか、もっとステキなことをしなくちゃ」


 しかし、なにをするべきか?

 メイが思い悩んでいる。


 そんな白色の魔女の左肩に触れる青年の手があった。


「…………」


「あら、トゥ。どうしたの?」


 メイが左側を振りかえれば、そこにはトゥーイが右の片手にフライパンを準備しているのが確認できた。


「それを、どうするつもりなの?」


 メイは、まさかと思いつつもトゥーイに質問せずにはいられないでいる。


「…………」


 トゥーイは白色の魔女の、椿の花弁のように(あか)い瞳を見つめていた。

 十二分に魔女の瞳の紅さを堪能する。

 

 その後に。


「…………!」


 左手をメイの肩から小さく離し、彼女の左頬のすぐ近くでサムズアップを決め込んでいた。


 という訳で。


「お料理でもはじめましょうか」


 そう言いながら、メイはトゥーイからフライパンを受け取っているのであった。


「いやいやいや」


 さっそく事の異常さをオーギが指摘している。


「確かに居心地良く、リラックスできるように傘を広げたが、だが、そこまでプライベートな事までするか?」


 オーギが至極まっとうな意見を言っている。


 しかしトゥーイとメイの方は、先輩魔法使いの疑問などたいした問題では無いようであった。


「だいじょうぶよ、オーギセンパイ」


 メイはフライパン片手に笑顔を浮かべている。


「フライパンさえあれば、私たちはどこでもお料理ができるんだから」


 花びらが満開になるかのような、そんな笑顔を浮かべているメイ。


 魔女の笑顔の圧力に押されつつある。

 そんなオーギを置いてけぼりにしたままで、青年と魔女は着々と料理の準備を進めていった。


五徳(ごとく)を置くまえに、ちょっと準備をしなくちゃいけないわね」


 メイがトゥーイの方に目くばせをする。


「…………」


 トゥーイはまた右手をかざしている。

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