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今から食べるには時間があり余る

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!

 問いかけた後で、オーギは少しだけ後悔をしている雰囲気を瞳の中に滲ませていた。


「あー……いや、すまん。こんな事、お前さんに聞いたってどうしようも()ェよな」


「ええ、そうね」


 オーギの言い分にメイは賛同をしている。


「しょうじきなところ、他人の不幸をどうあつかっていいのか。かなしんだり同情したりだとか、そんな優しいことは、私にはムリそうだもの」


 せっかく相手が心の内を話してくれたのだ。

 メイの方でも、この場面においては誤魔化しやはぐらかしなどはしたくはないようであった。


「かと言って、ケタケタと笑いとばせるほどの悪辣(あくらつ)さは、ざんねんだけど私にはもてあますところだわ」


「いやいや、魔女だったらもっとこう……ゲラゲラと笑いまくってもいいんじゃねえか?」


「オーギセンパイは、魔女にどんなイメージをもっているのかしら?」


 メイの探りをサラリと流しつつ、オーギは手の中にあるスマートフォンを操作している。


「なんでもええわ。人間殺すとか、そない気味の悪い話、食事の前にするもんじゃねえだろうよ」


 オーギの言い分にキンシが賛同をする。


「そうですとも、そうですとも!」


 ピン、と真っ直ぐ立てた子猫のような聴覚器官。

 黒色の柔らかな体毛の下にて、キンシはふと表情に新たな気付きを抱いている。


「って、あれ? 結局この屋上でご飯を食べることにしたんですか?」


 キンシが周辺を見る。

 

 スーパーマーケットの屋上。

 関係者以外立ち入り禁止の危険な区域に、若き魔法使いたちはなかば押しやられるように移動をされられたのであった。


「僕は構いませんけれど。でも、僕はともかくメイお嬢さんに濡れそぼったパンを召し上がっていただくのは、なんとも気が引けるシチュエーションですね……」


 キンシが本気で悩んでいる。

 

 その様子をオーギが特に深い感情も込めることなく眺めていた。


「おいおい、付き合いの長い、頼りがいのある先輩の心配はしてくれねェのかよ」


 言った後で、オーギは「まあいいけど」と言葉を中断させている。


 恐ろしき人喰い怪物についての、殺すか殺されるかについてよりも、今は目の前の食事について考える必要性があるらしかった。


「まあ、あれだ、オレだってなにも、何も考えずにあまざらしのままメシを食うつもりもねぇんだわ」


 オーギはメイの方をチラリと見やる。


「それこそ、安易に人間を殺さない程度には、この雨を避ける気力に満ち満ちてるぜ?」


「あんまり数のおおいお話しではなさそうね」


 オーギの表現にメイがすかさず小さな刃物のような疑問を刺しこんでいる。


「そのぐらいだったら、お店のなかであたたかく、あんしんあんぜんに、ごはんを食べたほうがいいんじゃないかしら?」


「おいおいメイ坊よ、そんなやる気を削ぐようなことはあまり言うもんじゃないぜー?」


 オーギはすでにメイから意識を逸らしている。

  

 すでにその右手のなかにはスマートフォンの明滅する電子画面が、魔術式の展開という指示を受け取っている。

 その後の出来事であった。


「この辺でええやろ」


 誰かに確認を求める訳でも無く、独断にてオーギは結界を張りたい区域にスマートフォンの画面をかざしている。


 シュピピピピ。

 

 空気漏れと電子音。

 乳白色の網目模様が展開される。


 それは今朝方、オーギが事務所の屋上で使用した検索用の魔術式であった。


「あら? またなにかしらべるの?」


「いやいや、違うんだなこれが」


 メイの予感が外れはじめたのを、オーギは安心感のなかで察しつつあった。


「ホントはあんましよくねェけど、まあ、あれだ、例外と特例ってやつで」


 オーギは右手でスマートフォンを上にかざし、左手で虚空を撫でている。

 呼吸をしたのかもしれないが、それはもはや聞こえるか聞こえないか程度の自然なものでしかなかった。


 とりだされたのは、バルブ式の霧吹き付きの香水瓶であった。

 

 ガラス瓶に唐草模様、キンシの左手に刻みつけられている呪いの火傷痕のような、クルクルとした刻印がほどこされている。

 ガラス瓶の上に生える口、スプレー式に閉じられた出入り口の近くには空豆(ソラマメ)のようにぽってりとしたポンプが付属している。


「あ、これだと片手塞がったまんまじゃ使えねェじゃん」


 スマートフォンを右手に、オーギがしまったと困っている。


「えーっと」


 オーギは助けを求めて視線を左に向ける。


 そこではキンシとトゥーイが、なぜか踊っていた。


「るんるんりらーごーきげんいかがー?」


「…………」


 どうやらひと仕事終えた後の喜びを少女と青年、恋人同士で確かめ合っているらしい。


「……うん、そうだな」


 オーギは早急に魔法使いの恋人たちから目をそらしていた。


「メイ坊、よろしく頼む」


 消去法として選ばれた。

 メイは特に感想もなく、単純に彼の要求に答えている。


「えっと? この香水を魔術式に噴きかければいいのよね?」


 気軽な様子でメイはオーギからバルブアトマイザー式の香水瓶を受け取り、噴霧口から中身の液体を噴出させている。


「これは、スイカズラのにおい、かしら?」


「ご名答」


 メイの問いにオーギが答える。

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