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アイロニーとマカロニは美味しい

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「んんーこれくらいでいいかしらね?」


 若き魔法使いたちが気忙(きぜわ)しいやり取りしている。

 それを視界の片隅に、メイは自らに与えられた役割をしっかりとこなしているのであった。


「みんな、繭を縫いおわったわよ」


 メイは振り返る。

 体の動きに合わせて、この幼女のような見た目の魔女の、穢れなき初雪のように白い髪の毛が揺らめいている。

 サイドテールにまとめた太めの三つ編みは、ついこの間メイの身に起きた事件に関係している。

 

 メイと、彼女の愛する兄ルーフの身に起きた事件。

 凶事とも呼べる事情を解決するために、メイはいくらかの報酬を魔法使いであるキンシらに手渡すことになった。


 美しく伸ばした髪の毛ひと房。

 そしてもう一つ、魔女の契約印……今はオーギの左手の中にあるモノ。


 それがメイの、メイという名前の白色の羽毛を生やした魔女の、魔法使い共に渡せる報酬の限りであった。


「ぜえぜえ……実際のところは、宝物以上の価値を僕たちはメイお嬢さんから受け取りすぎているんですけれどね。ぜえぜえ……」


 ぜえぜえと息を切らしながらキンシが損得勘定について語っている。

 この頃合いになってようやく、キンシは先輩であるオーギからハンコを取り戻すことを諦めようとしていた。


「ううう……すみません、メイお嬢さん、大事な大事なハンコを、オーギ先輩に奪われてしまいました……」


 キンシは己に叱責を科そうとしている。

 子猫のような聴覚器官は烏賊(イカ)のヒレのように平たくなり、右目の虹彩はうるうると涙に潤っている。


「べつにいいのよ、キンシちゃん」


 メイがキンシの右手にそっと触れている。


「たからものっていうのはね、しかるべき人の手にわたってこそ価値があるの」


「メイお嬢さん……」


 励ましのような気配を感じ取った、キンシが一時的なよろこびを抱いている。


「それよりも、私が悲しいのは、キンシちゃんのウカツさにあるわ」


 メイは腰のあたりに発現させている魔法のスケルトンの指先にて空気を撫でる。


「いくらしんらいのおけるセンパイであっても、あんいにだいじなものを手渡すなんて、魔法使いにあるまじき素直さね。私びっくりしちゃった」


「お、お嬢さん……?」


 キンシはメイの体から生えている、スケルトンの腕の動きにある種の恐怖を覚えていた。


 魔法使いの少女の左目に埋めこまれている琥珀の義眼。

 赤色に透き通る要素の内部に、メイは蓮の花のような精霊の姿を視認している。


「キンシちゃんはほんとうにかわいいのね。

 かわいくて、すなおな女の子なのね」


 この頃合いになってようやく、キンシは白色の魔女に自らのうっかりに失望されていることを察しはじめている。


「め、メイお嬢さん……! 僕は、その……!」


 どうにか弁明をしようとしている。


 そんなキンシの右手を、メイはやさしく撫でるだけであった。


「いいのよ、自分を責めちゃダメ。私のかわいいキンシちゃん。

 私の責任範囲外で、できることならずっと、かわいいままでいてほしいくらいよ」


 白色の魔女が子猫のような魔法少女に願いごとをしている。


「お嬢さん……」


 キンシはメイの、すこし伸びた爪の硬い先端の感触を右手の皮膚に感じ取っている。


「よしよし、こわーいセンパイにいじめられて、いじけちゃったのよね?」


 白色の魔女に(ほだ)されそうになっている。


 後輩魔法使いの様子を、オーギが他人事のように眺めている。


「なんや、結構楽しそうにしてんじゃん」


 オーギはこの機に乗じてと、こっそり手の中にキンシがら奪い取った魔女のハンコをもう一度取り出している。


「仲良きことは美しき(かな)。ってやつか」


「…………」


 先輩魔法使いの言葉に、トゥーイが得も言われぬ様子を眉間のしわに寄せている。


 それは違うんじゃないか?

 トゥーイはオーギにそう言いたかった。


「……………」


 だがトゥーイは事務所の先輩である彼に、自らの心情を伝えるための文法を作りだすことができなかった。


 後輩であるトゥーイの表情を横目に、オーギは左手の中にあったハンコを右の手の平にサッと移している。


「オレだってな、なにもこんなクソみてェな略奪者じみた真似なんざしたかねェ……──」


 言った後にて、オーギはトゥーイの視線に含まれている刃物のような鋭さを感じ取っている。


「──あー……うん、誤魔化す場合じゃねェよな。

 確かにオレが奪った、強奪したんだよ」


「あら、じぶんの罪をみとめたのね、オーギセンパイ」


 キンシの指を撫でくり回しながら、メイがオーギに向けてちいさな驚きを見出している。


「じゃあ、そのハンコは返してもらえるかしら?」


「それは無理な相談だな、メイ坊よ」


 オーギはハンコを手の中に弄くっている。

 黄金のように美しい魔力鉱物のひと塊は、スーパーマーケット内を照らす魔力鉱物ライトの発する灯りをキラキラと反射させている。


「言っただろ? オレの超個人的な事情で、コレみてぇな超絶高級品が必要になりそうなんだっての」


「何なのでしょう……?」


 オーギの事情を知らない、キンシはぐったりとした様子で彼の目を見上げている。


「ここいらで一発、国でも取るおつもりですか?」


「あー……」


 オーギは少し考える。

 その後に、微妙な気配の笑みだけをキンシに反していた。


「大体それで合ってる、かな」

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