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子供一人満足に救えないのが魔法使いなのです

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!

「おおー。これはこれは、結構なお手前で」


 オーギはメイに賞賛の言葉を贈っていた。

 白色の羽毛を生やした、幼い見た目の魔女の技巧を褒め称えている。


「見てみい、キー坊よ」


 オーギは後輩である、キンシという名前の魔法使いの少女に転移魔術式の変容を見せようとしている。


「この短時間で、一気にここまでの修繕をしよってからに。お前さんも、なかなかに強力な仲間をゲットしたんだっての」


 オーギに事実を再認識するよう勧められた。


「ええ、もちろんですとも」


 しかしながらキンシの方は、いまさら先輩である魔法使いに言われるまでもなく、メイという名前の魔女の有用性についてを既知しているようだった。


「メイお嬢さんは、とても素晴らしい魔女なんですから」


「ふーん? どんな風に素晴らしいんだよ?」


 オーギがキンシに具体的な説明を求めている。


 質問された、キンシの方はためらいも迷いもなくメイという名前の魔女についてを語っている。


「掃除洗濯料理! 市役所の面倒くさい書類から健康保険の契約! 厄介なご近所づきあい!

 そして、なによりお裁縫! どんなにボロボロになったお洋服も、メイお嬢さんの手にかかれば新品同前。……いえ、新品よりもさらに美しい仕上がりになるのですよ!」


 キンシはかなり早口になっている。


 まくしたてる後輩魔法使いに、オーギはただ単純に言葉だけを受け取っているように見えた。


「ほおー、そないすごいなら、一回オレんとこの掃除とか頼んでみっかな」


 冗談なのか本気なのか、いまいち判別しづらい音程でオーギが希望を語っている。

 

「しかしながら、よくもまあ、あの事件からここまで立ち直れたもんだな」


 オーギがメイのことを個人的に賞賛している。

 先輩魔法使いが語る「あの事件」とは、すなわちメイの愛する兄である「ルーフ」という名前の少年の身に起きた事件。

 それについてであるらしかった。


「さすが、魔女を名乗れるほどの女ってのは、フツーとは違う精神構造をもってんだろうな」


 段々と賞賛の言葉に個人的な見解が混じりつつある。


「オーギ……先輩?」


 キンシがオーギの言葉の気配に違和感を抱きつつある。


 だが、そのタイミングにてオーギはふと、とある要素について思い返していた。


「あ、そういや、あの時のアレってどうなったんだよ?」


「あ……アレ?」


 こそあどをキメにキメまくった文法に、キンシはただ短絡的な戸惑いだけを舌の上に転がしている。


「それ、アレ……? どれなんですか?」


 戸惑っているキンシに、オーギは平坦とした様子で補足を加えている。


「アレっつったらアレだっての、ハンコ、メイ坊から報酬代わりにもらったハンコだよ」


 オーギは左の手の平を上に、握ったり開いたりを繰り返して欲しがるようなジェスチャーを作ってみせている。


「ほら、ルーフとか言うヤツを助けるために、仮の報酬として受け取ったあの金ぴかのハンコだって」


「ああ、ああ! あれですか、あれのことですね」

 

 結局のところキンシもまた、こそあどに頼り切った文章表現しか出来ないでいる。


「あれならもちろん、僕のもとにきちんと責任をもって管理をしておりますよ」


「ほー? 持ってんなら、ちょっと見せてくれよ」


 オーギが左手を自分の方に差し出すようにしている。


 今度は言葉による表現ではなく、ジェスチャーのような動作にて要求をしてきている。

 

 悲しきかな。

 キンシは会話によるコミュニケーションのやり取りよりも、その単純明快な身振り手振りの方がとても分かりやすいもののように思われて仕方がないようであった。


「はい、どうぞ」


 キンシが言葉を許してしまった。

 その瞬間。


「よっしゃッッ! 奪取!!」


 オーギはキンシの手から、魔女の判子を奪い取ってしまっていた。


「うえ?」


 一瞬何が起きたか、キンシが理解を届かせられないでいる。


「うえええ?!」


 自分の手から大事なもの、貴重品が奪われてしまった。

 ようやく事実を把握したキンシが、慌ててオーギの手から物品を取り戻そうとしている。


「な、なな、なにをなさるんですか! 返してください、オーギ先輩!」


 キンシは早急にオーギの左手に飛びかかろうとしている。


「悪いなキー坊、ちょっとばかし入り用なんだわ」


 後輩魔法使いの手の届かぬところ、オーギはハンコを握りしめた左手を雨雲に向けて天高く掲げている。


「質問」


 トゥーイが電子的な音声を発している。

 首元に巻き付けた首輪のような発声補助装置から、トゥーイはオーギに向けた質問文を作成していた。


「質問。物品の利用価値と一体何をなさるつもりですか?」


 比較的判読しやすい質問文に、オーギはようやく少し申し訳なさそうな気配を表情に滲ませている。


「なに、大したこたァ()えよ。ちょっとした新しい試みに、こんな感じの高級品が必要だってだけの話でな」


 キンシが一生懸命背伸びをしながら、オーギの体を押し退けんほどにすがりついている。


 だがオーギの方は左の指先の少しの操作にて、キンシから奪い取ったハンコを何処(いずこ)へと仕舞い込んでしまっているのであった。

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