死ななくても肉は食べたいわがままちゃん
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「
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
」
怪物の悲鳴はまだ止まりそうにない。
「あんだけ勢いがあるなら、たぶんリンゴ型魔力鉱物が一個収穫できるぐらいの質量はあったんじゃね?」
オーギが目測を語っている。
先輩である若き魔法使いからの問いかけに、予測のなかで返事をしているのはキンシの声音であった。
「いやあ、どうでしょう? ぎゅうぎゅうに寄り集めてみても、リンゴ半分くらいしか作成できないんじゃないですか?」
後輩である、魔法使いの少女の意見をオーギは否定しようとしている。
「ンなこたァ無えだろうよ。オレ的には、リンゴ一個分の価値があの人喰い怪物どもにはあったと思うね」
「たのしそうにお話ししているところわるいけれど」若き魔法使いたちの議論にメイが介入をしてきている。
「すごい悲鳴よ? これだと、よけいにまわりのひとたちが怯えたりしないかしら?」
メイが不安を抱いている。
紅色の瞳が見ている先。
「 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
」
少しだけ悲鳴の気配が少なくなったような気がする。
だが相変わらずのやかましさではあった。
「怯えていることなんて無いと思いますよ、メイお嬢さん」
キンシが周囲の人々に視線を向けている。
常にやたらと他人の存在に怯えているキンシが、この時ばかりはめずらしく他人の視線を意識することができている。
のは、ややもすると周辺の人々が魔法使いたちのことを全く見ていないのが主たる要因であった。
ざわざわと、他人の方々達が注目しているのは殺されそうになっている人喰い怪物の姿。
ただそれだけであった。
「
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああ」
叫び声は唐突に終わったように思われた。
「あ、止まっちゃった」
メイが拍子抜けしたように呟いている。
白色の羽毛をシュン、と縮ませている。
「終わったみたいですね」
白色の魔女が残念がっているのに対して、キンシの方はどこか冷静じみた様子で状況をオーギに確認していた。
「思ったより持たなかったな」
オーギは平坦とした様子の中に、ほんのりと残念そうな気配を瞳の中に滲ませている。
「やっぱりリンゴ一個分の収穫は、もとより期待できなかったんですって」キンシが自分の主張への確信を深めている。
「そうかあ?」後輩魔法使いの意見にオーギはなおも納得を結び付けようとはしていなかった。
「持続力はともかく、活きの良さは充分にあっただろうがよ」
オーギはあくまでも自らの予想を変えようとはしない。
「まあ、でも、どっちにしろもうオレ達に宝石の収穫は出来っこねえんだけどな」
期待を胸の中にビー玉のように転がしつつ、彼はすでに違う話題に移ろうとしている。
「民衆、人々、善良なる一般市民の方々の安心を演出するために、リアルタイムで殺し尽くすショーでもひらいてみたが、あんまり意味はなかったみてェだな」
オーギは周辺の人々に視線を向けている。
若き魔法使いが見ている。
その先では、人々はすでに怪物の殺害に関心を失いつつあった。
「昨日のドラマ見たー?」
「見た見たーチョー面白かったー」
ホットパンツとデニムミニスカートの出で立ち。
若い娘さんたちが、「水」に包まれた転移魔術式を横目に、それよりも自分たちの会話に心と意識と集中力を割いている。
「前々からおもっていたのだけれど」娘たちの生足をながめつつ、メイがオーギに問いを投げかけている。
「灰笛のひとたちって、どうしてこうも、目の前に怪物さんがいてもへいぜんとしていられるのかしら?」
「そりゃあ、自分に危険がないなら、必要以上に怯える必要もねェだろうよ」
オーギはそう言いながら、動きの無くなった「水」の檻に腕を伸ばしている。
「ああやって、そのへんのテキトーなギャルの皆様が安心して日常生活を送れる。魔法使いの仕事の意義ってもんよ」
流れ作業のような口調にて、オーギは魔法使いの意味についてを他人事のように語っている。
言いながら、オーギは手元にて小さなスポイトを「水」に刺し込んでいる。
醤油などを入れるタレビンのようなサイズ感の、非常にコンパクトな空白である。
「ん?」
あんな小さなもので、一体なにをするつもりなのか。
メイが彼の動作を見ている。
「あそーれ、チュチュッと」
スポイトが吸収をする。
チュウウウウウウウウ!
と、大量の水がちいさな空白の中に一気に吸い込まれていった。
「きゃあ?!」
メイはむしろ、その強引な回収方法に驚かずにはいられないでいた。




