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しぶいた結果がうずうずと膨らんだ

こんばんは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「こういうことだよ」


 場所はスーパーマーケット。

 灰笛の中心街付近にある店はいま、ただならぬ異常事態に見舞われていた。


「うわあ、これはひどいですね」


 キンシが見ている。

 そこにはグズグズに崩れた転移魔術式が吊らされていた。


 巨大な繭のような転移魔術式は、元々持っていた純白さをかなり失ってしまっている。

 黒カビのようなもので黒ずんでしまっている、繭は引き裂いた絹のハンカチのような断裂をその身に起こしていた。


「これも怪物の影響だっての」


 オーギが忌々しそうに状況を説明している。


「あの黒いカビも、怪物の一種でな、まったく……反吐(へど)がでそうになるぜ」


 人喰い怪物という存在を憎んでいる、オーギは敵の姿を視界のなかに認めていた。


 先輩である若い魔法使いの個人的な感情を視界の隅に、メイが怪物に対する疑問を胸に抱いている。


「あんなにちいさいものでも、人間を食べたりするのかしら?」


 メイの疑問にキンシが答えている。


「当然の持ちのロンですよ、メイお嬢さん」


 キンシがそそくさと崩壊した繭の一個に触れている。


「むしろ、こういう小さい方々の方が、善き一般市民の方々の生活を脅かしてしまう傾向があるのでございますよ」


 オーギとは相対をなすかのように、キンシは人喰い怪物について、なにかとても喜ばしいものを見つけたかのような言葉遣いをしている。


「例えば魔術式を含んだ水道の内部に巣食ったり、お風呂場の隙間を狙って魔力鉱物の抗菌作用を阻害したり……」


 キンシは語るなかで、その左手を黒色のカビのような怪物に侵食されようとしていた。


「キンシちゃん?! お手てを食べられてるわよ?!」


 メイが驚いている。


 それがキンシにとってはなにやら、とても嬉しいことのように思われてしかたがないようだった。


「ほらほら、こうして表面に寄生し、じんわりと、じっくりコトコトと、人間の魔力を吸い取って食べ尽くすんですよ……」


 キンシは言葉による表現をしながら、それ以上に、肉体に実感できる補色の気配にうっとりとしている。


「ちゅうちゅうと、魔力を食べる、この感触……たまらないですよねえ……」


 年齢(十二歳程度)の見た目におよそ似合わない、場末の飲み屋に相応しいであろう色気をはなつ。


「たわけ」


 魔法使いの少女に、オーギが小指サイズのガラス管のようなものを投げつけていた。


 キンシの左手の辺り、空間にてパリン! と音色をたてて割れていた。


 管の中身に籠められていた、青味の強い紫色の香水がキンシの肌を、肌の上にいる黒カビのような怪物へと降り注いでいる。


「  あ  ああ  あ 」


 かすかな悲鳴のようなものが聞こえた気がした。


 それはメイの聞き間違いだったのかもしれない。

 だが仮に聞こえてきたことが事実だとして、メイはそれを人喰い怪物によるものであることを、今のところはすんなりと認められそうな気がしていた。


 ジュイジュイジュイジュイ……!


 アブラゼミの羽音のような、騒がしい音がキンシの左手から発せられている。

 それは黒カビのような怪物が、オーギの放った魔法の香水に殺害されている音であった。


「はわわ……! 左のおててからケムリがでてるわよ、キンシちゃん……!」


 容赦なく溶かされていく怪物たちの様子。

 オーギによる殺害の勢いから、メイはキンシの左手の安否を確認せずにはいられないでいる。


「い、痛くないの?」


「えー?」


 メイに心配されている。

 キンシはなんてことも無さそうな、平然とした様子で自分の左手を視界のなかに確認している。


「ああ、大丈夫ですよー。これは、この香水はあくまでも、怪物を殺すための魔法ですから」


 ジュウジュウと音をたてている、左手をキンシはメイの方に近づけている。


「ちょっと、なんだか……段々と、皮膚がビリビリしてきましたけれど……。たぶん! おそらく、大丈夫……」


「じゃないでしょ!」


 メイはあわててワンピースのサイドポケットからハンカチを取り出し、飛びつくような勢いでキンシの左手に腕を伸ばしている。


「まあまあ、炎症みたいになっているじゃない」


 メイは爪先立ちをしながら、キンシの左手を絹のハンカチーフでぬぐっている。


「それにしても、あんまりいいにおいのしない香水ね」


 メイは正直な感想を口にしている。


「ほんとうに香水なのかしら?」


「おいおい、なかなかに言ってくれるじゃねえか」魔女の表現にオーギが反論をしようとしていた。


「……あー……でも、まあ、その意見ももっともではあるな」


 しかしすぐにオーギは魔女からの感想に納得を附属させていた。


「なんつっても、人喰い怪物を殺すための薬液のつもりで作ったもんだからなあ。あんまし、クオリティアップの方は上手く出来んかったわ」


 言い終えたと同時に。


「あー……でも、こんなのは言い訳にすぎないか」


 オーギは自らに、魔法使いとしての叱責を作りだしている。


「なんにせよ、これを使って除菌でもしようや」


 そういいながらオーギは魔法の薬箱の蓋をあけている。


 持ち主である魔法使いの指の動きに合わせて、薬箱の中身が空間の中にさらされていた。

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