デートとか舞踏会とかパーティーとかさせてあげたい
こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!
「でも、それがどうしたの?」
オーギの言い分にメイがさらなる疑問点を重ね合せている。
「どうしたもこうしたも、このままじゃ色々と都合が悪いんだよ」
オーギはまだ明確な答えを示そうとしない。
いまいち要領を得ない、先輩である若い魔法使いにメイは小首をかしげている。
「まあ、見とれって」
幼い見た目の魔女に、オーギは論より証拠と上着のポケットに指を沈み込ませている。
トゥーイが着用しているものと同じ、ジャケットタイプの濃い灰色の作業着。
センターラインに走るチャックを首元までしっかり締めているのが、オーギという名の魔法使いの生来なる生真面目をあらわしているようである。
ともあれ、オーギは作業着のサイドポケットから一台のスマートフォンを取り出していた。
「おお! スマフォですね!」
メイたちがいる場所かより少し空に近いところ。
給水タンクの上から、キンシの妙に意気揚々とした声音が降ってきていた。
「と、いうことは……あれを使っちゃうんですね、そうなんですね!」
雨の雫の粒たち、水滴の重さと共に魔法使いの少女の興奮具合が降り注いでくる。
「そういうこった。分かっとるんなら、使い終わるまでにそっから動くんじゃねえぞ」
後輩である魔法少女を抑制しつつ、オーギは手のひらサイズのスマホを片手で操作している。
電子画面とオーギの指先がぶつかり合う。
コツコツコツ。
とした音色が小さく鳴る。
画面が起動した。
白みがかった画面の明るさが、キンシ以外の人間たちの視界を刺激する。
シュピピピピ。
タイヤの空気が漏れるような音と、心電計が連続するメロディーが同時に鳴る。
うっすらとした灰色を帯びた多目的ネットのような明滅が、オーギの持つスマートフォンを中心に展開される。
「索敵魔術式ね!」
メイがちいさく叫んでいる。
「うん? なんだ、理解が早ェじゃん?」
魔女が白色の羽毛をブワワ、と膨らませているのを見た。
オーギが彼女に感心を抱いている。
「ほれ、これで目的の怪しい奴を検索すンだよ」
オーギがスマートフォンの画面を親指で操作する。
そうすると灰色の網目模様に一つ、純白に近しい光の気配が生まれていた。
「おお! ここ、ここ、此処ですね」
キンシがたまらず魔術式の上に降り立っている。
魔法少女一名分の重さを受け取った、網目状の魔術式がミシミシと軋んでいる。
「おい! 魔術式が壊れるだろうが!」
オーギが慣れた様子でキンシを叱っている。
「あぶないわよ、キンシちゃん」
オーギの叱責のあとに、メイがキンシを忠告をしている。
「ほら、いい子にしてたらあとでグミをあげるから、はやくそこから降りなさい」
「えー! グミですか、やったー!」
キンシがメイの言うことを素直に聞いている。
「エサで釣っとるわ……」
オーギはまずメイの支配力に感心を、そして次に事務所の後輩であるキンシの単細胞っぷりにほのかな絶望を抱いている。
「まあエエわ。それよりも、この場所に敵性生物……よーするに、人喰い怪物が現れるであろう、予測が出とるわ」
オーギは網目模様の魔術式に、大粒の真珠のように光る部分を指し示している。
「オレらはここで、まずは空間の歪の修復をやらないけねえんだわ」
そう言いながら、オーギはメイの方に視線を向けている。
「その辺はあれだろ? メイ坊は古城の社長直々にご指南的なあれをうけたんだろ?」
先輩魔法使いの期待を受け止めつつ、メイは彼の言わんとしていることを早くに理解していた。
「シャチョーというか、そうね、モアちゃんには色々とおしえてもらったわね」
メイがなんてこともなさそうに、さしたる特別性もなさそうに言っている。
白色の魔女の様子が、オーギにはどうにも信じ難いもののように思われて仕方がないようであった。
「ええなあ、オレも古城のご主人様とねんごろの関係性になりてェもんやって」
個人的な願望を手短に言葉にした。
その後に、オーギは気を取りなおしてスマートフォンの画面を閉じている。
網目模様が跡形もなく霧散している。
「じゃあ、オレは先に業務に移らせてもらうわ」
オーギは言葉と同時に、熟れた動作で右腕のなかに一個の薬箱を発現させている。
キンシのように大げさな呼吸を必要としない。
オーギはキャリーバックのような形状の、木製の薬箱の上に腰を落ちつかせている。
先輩魔法使いである彼の体重を受け止めた。
薬箱は従順に彼の体を世界の重力から解き放っていた。
「そういえば」
空を飛べる魔法の薬箱に乗っている。
先輩魔法使いに、メイが気になっていた事項を確認している。
「あのあと、スーパーマーケットの人たちはどうなったのかしら?」
メイに問いかけられた。
丁度が良いと、オーギは瞬きをひとつしている。
「これから、そのへんの事情を解決しに行くんやって」
事情を言い終えると同時に、オーギがキンシの方に視線を向けている。
「キー坊、お前も無関係やないで」
「えー?」
用件を伝えられそうになった。
キンシはなにも事情を知らない様子で、瞳孔を丸く拡大させていた。
「どういうことですか」




