今日もいい天気が私を殺しに来る
こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!
灰笛の中心部、から少し海側にそれた場所。
三階建ての小さなビルの真ん中、二階にキンシの所属している魔法使いの事務所はあった。
[シマエ魔法使い斡旋事務所]と印刷された窓の文字。
メイはそれを反対側、事務所の内側で眺めている。
「急な体調不良、申し訳ございませんでした!」
キンシが事務所の所長に向けて、病み上がりの挨拶をしている。
「いやいや、いや、あやまる必要はないんだよ? キンシ君」
キンシが頭を下げているのに対して、所長の椅子に座る中年の男性が早口気味に対応をしている。
「ウチは所属魔法使いの健康第一! 病欠にも対応できる人材を常に用意できるように、誠心誠意業務にあたっているからね」
言うなれば、「お前の代わりはいくらでもいる」という意味になるのではなかろうか?
キンシ以外の、メイを含めた魔法少女側の人間が、所長の髪の毛を喪失した、ツルツルの頭に深読みを抱いている。
「…………」
当然のことながら、トゥーイの方も本音をここで打ち明ける暴挙など、選ぶはずもなかった。
仮に選べるとしても、トゥーイにとってはまだその選択肢を必要とするタイミングでも無かった。
白色の青年と、同じ髪色を持つ魔女がそれぞれに思惑を働かせている。
彼らが生きている気配を背後に、しかしてキンシの方は、彼らの心理的状況など露知らずと言った様子であった。
「今日のお仕事はなんでしょうか!」
キンシは所長であるシマエ氏に仕事内容を求めている。
相手に選択の自由を持たせる問いかけではある。
なのだが、しかして、その瞳のなかには怪物を殺したい!
人間の血肉に飢えた、恐ろしき人喰い怪物を殺したい、という願望だけがキラキラときらめいていた。
「ああ、うん、それなんだけど……」
シマエ氏は汗を、もみあげに生えている暗い茶色の羽毛の辺りに汗の粒を浮かべている。
殺る気に満ちあふれた魔法使いの少女を、正直なところシマエ氏は持て余しているようであった。
「うん、オーギ君の方で、依頼された内容を解決に導いてほしいところなんだよね」
シマエ氏は視線をキンシの左側、少女から見て右側の方に移している。
事務用の机が並ぶ、窓際に一番近い端っこにオーギが座っているのが見えた。
署長であるシマエ氏に名前を呼ばれた、オーギはすっくと立ち上がっている。
「ちょうど三日前から調査していた内容ですね」
オーギが所長の言わんとしている内容を先んじて言葉にしている。
「そう、それをよろしく頼むよ」
シマエ氏はこそあどを躊躇いなく使いつつ、事務所の若手に面倒で難解な仕事を斡旋しているのであった。
場所は事務所がある、三階建てのビルの屋上。
「かならずここにのぼらないといけないのかしら?」
雨の雫を雨合羽にうけとめつつ、メイが直接的な疑問を抱いている。
「そりゃあ、あれだろ」
白色の羽毛を持つ魔女からの疑問点に、オーギが簡単そうな様子で返答を用意している。
「バカとケムリと魔法使いってのは、高い所が好きなものなんだよ」
オーギという名の、先輩魔法使いは視線を左斜め上に移動させている。
彼が見上げている先。
そこでは給水タンクの上に立つ、二人の後輩魔法使いの姿を確認することができた。
「今日もいい天気ですね」
後輩の内の一人。
キンシが空を、灰笛の空を覆い尽くす雨雲を見上げている。
フードに生える猫耳をピコピコと動かしている。
魔法少女の耳の動きを見ている、トゥーイもまた給水タンクの上で空を眺めていた。
事務所支給のジャケットタイプの作業服。
ポケットがたくさん備わっている、グレーの上着の下には藍色の和服のようなものを着ている。
「おーい、トイ坊よ」
オーギがトゥーイのことを呼んでいる。
「予定の計画作るっから、ちょお降りて来いや」
先輩魔法使いの呼び声に反応し、トゥーイは給水タンクの上から降りている。
魔法を使うこともなく、ただ世界の重力に従いながら落ちてきていた。
落下の衝撃に合わせて、トゥーイの白色の髪の毛がなびいている。
雪のように真っ白で、メイの持つ翼ととてもよく似た色の髪の毛。
シニヨンのようにまとめている髪型。
まとめきれなかった後れ毛が、雨の気配を吸い込んでたなびく。
「さてと」
魔法少女を放置したままで、オーギはトゥーイとメイの方に計画の相談をしようとしている。
「今日の仕事についてなんだが……──」
オーギが口を開こうとした。
「オーギさん、ちょっとまって」だがそれよりも前に、メイは状況の不足について追及をしている。
「キンシちゃんは? お話をきかなくていいのかしら?」
メイがちらりと上を、屋上の給水タンクの上に立つ魔法少女の姿を見やっている。
「まさか、なかまはずれにするつもり……?」
「いやいや、そういうワケじゃねえっての」
あまりポジティブではない要素を含ませているメイの意見に、オーギはすぐさま否定の意を伝えている。
「ほら、あいつってどうせ、今朝魔法陣かなにか使ったんやろ?」
オーギに問いかけられた。
「ああ、たしかに」
先輩魔法使いの追及に、メイもまた単純で反射的なものにすぎない言葉だけを返している。




