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一回世界征服でも挑戦してみようか

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!

 思い出した後に、メイは崖の上でキンシの顔から自分の顔を離している。


「私、キンシちゃんの眼鏡がスキなの」


 唐突に思われる告白に、キンシが右目をぱちくりとさせている。


 小さく驚き、心の内では大きく戸惑っている。

 魔法使いの少女に、メイはたたみかけるような表明をおこない続けている。


「まるいレンズがトンボのおめめみたいで、すてきだとおもうの」


 メイは記憶のなかにあるトゥーイの表情を再検索している。

 あの、卵がゆを作った時の魔法使いの青年の微笑みをつよく意識しようとしていた。


「だから、左目のお花がちゃんとちいさくなって、いろいろと、ほんとうにいろいろとあんしんしているのよ」


 メイはあらためて視線をキンシの左目……があった部分へと向けている。


 琥珀の義眼が埋め込まれていた部分には、奇妙な形の(ハス)の花が咲いている。

 

 病床にふせていたときは三十センチほどの大きさがあり、キンシの顔のほとんどを埋め尽くさんほどの大きさがあった蓮の花。


 熱がさがり、炎症が治まった今は、その大きさは四センチ程度までに縮んでいた。


 しかしながら、小さくなったとはいうものの、依然として異物感は否めない。

 

 なんといってもキンシの近眼を解決するための眼鏡が、左目に咲いている蓮の花のせいでかなり安定感を失ってしまっているのだった。


「私は、赤い琥珀の義眼のときのほうが好きだったのだけれど」


 言ってもどうしようもないことを、メイはあえて言葉にしていた。


「でも、琥珀はそのお花のめしべの、ちいさな頭になっちゃったのね」


 メイが視線で示している。

 それに反応して、キンシはふわふわと浮かんだままでメガネを上に少しずらしている。


「はい、どろどろに溶けて、こんな小さな粒になってしまいました」


 キンシは自分の体から生えているハスの花……のような形の、魔法の精霊の姿を触っている。


 花の中心にはめしべのようなものが伸びている。

 受粉でもしそうな先端には、真珠の粒のように小さくなってしまった赤琥珀が、かすかな艶めきをはなっていた。


「でも中身の精霊がこんなにも元気なので、良しとしましょうよ」


 キンシはメイに確認を求めるようにしている。


「そうねえ」魔法使いの少女に同意を求められた、メイはしかして心の底からの同意を返せないでいる。


「ホントに、キンシちゃんが寝込んでいるときは、そのお花を氷でひたすら冷やすのでたいへんだったわ」


 魔法少女本体の熱暴走もさることながら、精霊は宿主である少女の肉体を支配し尽くさんほどに拡大しかけていた。


「そのお花って、ほんとうに信頼できるものなの?」


 メイが不安を抱いている。


 魔女である彼女の白色の羽毛が、すこしの恐怖心によって縮こまっている。


 彼女の白い、ふーかふーかとした肉体を右目に見ている。


「大丈夫ですよ、メイお嬢さん」キンシが彼女をはげますようにしていた。


「この精霊さんは先代の「ナナキ・キンシ」の、一番大切な人から譲り受けた、いわゆる記録装置みたいなものなんですよ」


 キンシは左指で蓮の花をつついている。

 指の動きに合わせて白色の蓮の花、花弁の先に萌ゆる微かな緑色の気配が揺れ動いていた。


「記録?」新たに登場した要素に、メイが小首をかしげている。


「ええ、そうです」メイの反応に合わせて、キンシは自らが知っている情報をゆっくりと開示している。


「あらゆる世界の物語を収集すること、それがナナキ・キンシにとっての魔法の形なんですよ」


「ああ、それで」


 メイは理解力を、ゆでた春雨のようになめらかに滑りこませている。


「それで、あんなにもたくさんの本をあつめているのね」


 メイがすみやかに理解力を至らせているのに、キンシは少しだけ拍子抜けしたような表情を浮かべていた。


「おお、さすがメイお嬢さん、博士のような頭の回転の速さです」


 キンシは素直な心持ちでメイのことを賞賛している。


 そうしていながら、キンシはむき出しの足を海岸線の崖の上に移動させている。


 キンシの裸足が崖の上をトト……と軽やかに歩いている。


「お嬢さんの叡智(えいち)に感銘を受けつつ、そのままの勢いにて、問題を一つ解決しなくてはならないのです」


「問題?」


 メイが首をかしげているのを視界に認めながら、キンシは同調をするようにうなずきを繰り返している。


「ええそうです、このままだと僕は日常生活をすごすこともままなりません……!」


 キンシはそう言いながら、顔に装着している眼鏡を指で軽くつついている。


 ほんの少しだけの動作を加えただけで、キンシの眼鏡はずるりと下に落ちそうになっていた。


「この精霊、蓮の花を放置していたら、僕はほとんどの一生を眼鏡無しで生きていくのでしょう……!」


 なにもそこまで極論じみた選択肢を選ばなくても。

 別の方法など、すこし考えればすぐに見つかるものではなかろうか?

 メイはそう思った。


 しかし白色の魔女が疑問を実際に口にするよりも前に、キンシは自らの内に選ぶことのできる内容へと行動しようとしていた。


「最後の仕上げ、完膚(かんぷ)なきまでの治療行為をしなくては!」

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