偏見とハードカバーの判断
こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
オーギとキンシの魔法が混ざりあい、「水」のような形状と質感を持つ魔法に攻撃の意識をもたらしている。
オーギの濃密なる黄色、山吹から抽出された香水が放つ、人々の記憶を呼び覚ます懐かしい甘い香り。
それらがキンシの透明な「水」と触れ合い、ぶつかり合い、変化をする。
やがて黄色は透明さのなかに溶けていく。
キンシとオーギ。
他者の魔力が混入し合う。
やがて「水」の玉は、人喰い怪物に対抗するための薄い茶色を帯びる「弾」へと変化していた。
「まあ、これもとてもキレイね」
作られた魔法の弾に、メイが賞賛の言葉を贈っている。
「まるで皇帝の黄玉みたい」
メイがそのように表現をしている。
「い、いんぺり……ある……??」聞き慣れない単語にキンシが子猫のような耳をピクリ、とかたむけている。
「それって、どういう意味ですか? どこの言葉なんでしょうか……?」キンシが好奇心を動かそうとしている。
「はいはいはい! 今はそれ所やあらへんだろうが」オーギが子猫のような魔法少女の好奇心を殺していた。
「はよ、作った弾ァ撃たんと」
先輩である魔法使いに急かされた。
「は、はい!」
キンシは気を取りなおして、黄玉のように透き通る「水」の弾を怪物に向けて放とうとする。
左の指先をまっすぐ、大きな純白の繭からはみ出ている人喰い怪物の足、……と思わしき一部分に差し向ける。
「……」
キンシは真っ直ぐ怪物の足を見る。
右の肉眼と左の義眼、それぞれが間違いも狂いも無いよう狙いを定めていた。
「……!」
少し多く息を吸い込む。
キンシの体内にて、雨に濡れた空気と灰が混ざりあう。
親指と人差し指の先端を触れ合せ、それぞれの爪をはじくようにした。
指の動きに合わせて、左手に作成されたトパーズの透明度が怪物に向けて放たれた。
銃弾のようにまっすぐ、勢いよく飛んでいった弾が怪物の足に炸裂する。
ちょうどキンシが触りたがっていた、人間の女性の手に近しい質感を持っている部分。
そこをトパーズ色の弾がうがっていた。
「 あああ あああ あああ 」
魔法の弾を受け止めた。
怪物の足が衝撃に反応して、繭の中身からその肉体をねじり出していた。
「 あ あああ あ」
まず飛び出てきたのは大きな首であった。
首の太さは馬のように雄大で、キリンのような果てしなさを感じさせる。
「おお、これは……!」
シイニが感動の言葉を吐き出していた。
「怪物なんてものじゃない、これはもはや、怪獣じゃないか!!!」
「シイニさん?」
メイがトゥーイの腕から降りつつ、シイニの興奮具合に疑問を抱いている。
メイが違和感を抱いている。
その視線から外れたところ。
魔法使いたちが注目している。
視点の終着点に、巨大な怪物がその姿を現していた。
「 あー あああ あ -あ 」
馬の首のようなもの。
先端には顔が無かった。
まるで何者かに切断をされてしまったかのように、赤い肉と骨の生々しい、生臭い切断面があらわになっている。
「そうか、あの子は失敗に終わったんだな」
シイニがそう言いながら、前輪と後輪をまっすぐ怪物の方に走らせている。
「シイニさん?!」キンシが唖然としたままで叫んでいる。
「……!」オーギは、あらかじめある程度の予測がついたかのように状況を見続けている。
キリンと馬がないまぜになったような形状の人喰い怪物。
昆虫のように六本の足が生えている。
六つはそれぞれに全く異なる形状をもっていた。
シイニの体、子供用自転車の姿から大きな腕が伸びる。
伸びた腕が、怪物の首を鷲掴みにしていた。
「 あ 」
触れ合った、シイニの肉が次々と怪物の体内に取りこまれていく。
刃物で縦にパックリと切り裂いたかのような、傷口は次々とシイニの肉を飲み込んでいった。
子供用自転車の姿に封印されていた、筋肉模型を巨大化させたかのような造形をもっていたらしい。
キンシがそのことにいまさらながら気付いている。
その頃にはすでに、シイニの肉体は全て怪物の体内に取りこまれてしまっていた。
シイニを取りこんだ怪物の肉体。
切断された首から、ムクムクと肉が盛り上がっている。
湿った紙粘土のように柔らかなうねりが、三秒と待たずにまたたく間に人の顔の形を成していた。
人間の顔。
大きさも質感も、ちょうどホモ・サピエンスと同様のサイズ感をもっている。
しかしながら、それは「普通」の人間とはとても呼べそうにない形状をもっている。
瞼を固く閉じている、顔は成人してかなり時を経た人間の気配を有している。
頭部と思わしき区域にはクリーム色の毛髪と、濃密な藍色の象牙のようなツノが伸びている。
つのは右側の先端だけがくるくると螺旋を描いている。
顔が生えた、怪物たちは口元をニンマリと微笑ませている。
「 見つけた 」
二つの人間の声が重なった声がした。
一つは知らない声で、男か女かそれ以外か、子供か大人かさえも分からない。
そしてもう一つは、聞き間違えようもない、つい先ほどまで子供用自転車の姿に封印されていたシイニの声、そのものであった。
二つの声。
二つの恐ろしき人喰い怪物は、そのまま繭のなかへと体を沈み込ませていった。




