自然なカップリングを目指したい
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緑色に透き通る光が集まった。
その後に、透明な水の玉がキンシの左手、手の平のうえに作成されている。
「んふぅ……このくらいでいいですかね……」
約四センチほどの大きさがある、ピンボールのような水の玉。
それをキンシは、先輩魔法使いであるオーギに見せている。
「あー? たったそれだけか」
後輩である魔法使いの少女の作成を見た。
確認した、オーギは少しだけ不満げにしている。
「せめてあともう二センチ、大きく出来ればいいんだけどな」
「そうおっしゃるのならば!」先輩魔法使いの不満点を、キンシはすぐさま改善しようとしている。
「もう少しお時間をください……すぐに作ってみせますから」
「あー……いや、うん、なんでもねえよ」
しかしてオーギの方は、後輩魔法使いの意欲を速やかに滑らかに、軽い様子で否定していた。
「そんなにデカいものを拵えんでも、それ位あれば斥候にはなるやろ」
オーギはそう言いながら、右手の指先で自らが腰かけている魔法の薬箱をコツコツとつついている。
オーギの体重のほとんどを受け止めている、彼にとっての魔法の武器となる薬箱。
彼が右手を少し上に掲げる。
柔らかな、麦茶のように透き通る光が指先をかすめる。
反応の後に、オーギの指先には一つの香水瓶が発現していた。
中東にて発達したガラス工芸技術。
その結晶と言えよう、実に芸術的な拵えの香水瓶である。
大きさは人間の女性の中指ほど。
細さもそれらと大して変わりはないように思われる。
古代の遺跡のような支柱に、曲線を描く鮮やかでなめらかな曲線が艶めく。
蓋の小さな取っ手部分は、水底に揺れる海草のようなうねりを描いている。
曲線の部分には、赤色の材料がふんだんに混ぜ込まれていた。
「キレイな赤色ね」
トゥーイの小脇に抱えられているメイが、香水瓶の美しさについてをしっかりと言葉にしている。
「ああ、とりあえずオーディエンスに合わせて赤を選んでみたぜ」
オーギがそのように説明を加えている。
彼の語る赤色が何であるか。
メイは少しの間考える。
先輩魔法使いの手の中に発現させられた香水瓶。
「お、おお、おおおお?!」
キンシが驚愕の呻き声のようなものをもらしている。
「そ、そそ、それは……?! 特別性のスペシャルパフュームではありませんか!」
キンシがなにやら感動のようなものを覚えている。
それを聞いていた、トゥーイの小脇に抱えられたままのメイは、キンシの様子から現れた香水瓶の特別性を嫌でも自覚させられている、
「ケチくさいオーギさんが、いきなりどうして、そんな大事なものを……」
キンシは興奮のあまり、取り繕う言葉遣いを忘却してしまっている。
「誰がケチ臭ド外道守銭奴じゃい」
オーギはキンシの脳天に左手チョップをかましている。
「痛ったあ?!」
キンシが悲鳴を上げている。
「誰もなにも、そこまでひどいこと言ってませんよ?!」
しかしてオーギはそれに構うことなく、後輩魔法使いへの叱責だけを継続させている。
「あと、仕事中は「さん」じゃなくて「先輩」! だっての」
オーギからの訂正に、キンシは小さく疑問を呈している。
「仕事中……? これってお仕事なんですか?」
「当たり前だろ、人喰い怪物が目のまえにいるんだぞ?」
そう言いながら、オーギは香水瓶の蓋を開けている。
蓋の取っ手にあしらわれた揺らめく海草のような形状。
細やかな溝がオーギの指紋と絡みあい、瓶の中身を開放している。
開け放たれた香水瓶の中身。
そこから甘い香りがしてきていた。
キンシが鼻腔をひくひくとひくつかせている。
「んるる、いい匂いです」
キンシが単純な感想を口にしている。
「んん、これは」
魔法少女の少し後ろ側から、メイが匂いの正体を探ろうとしている。
「山吹、かしら?」
「ご名答」
オーギは香水瓶の蓋の役割をもっていた部分を右手に小さく掲げる。
「春の雨に香る、なつかしはかつての記憶を呼び覚ます、甘さだ」
いつになく詩的なる表現をしているオーギ。
「なあに? なにかのお唄かしら?」
若い魔法使いの表現方法に、メイがすこし茶化すような受け答えをしている。
「いや? ただの下らねェレビューだよ」
オーギはそれだけの返事をしている。
その後に、彼は香水瓶の蓋であり、栓となっていたガラスの細い棒をキンシの手元へと運ぼうとしている。
「ん」オーギはハミングのような要求をしている。
「あ、はい……」キンシはそれに答え、特に言葉で具体的に確認するまでもなく、当り前のように左手を先輩魔法使いの方に差し出している。
キンシの左手にて作成されている魔力のひと塊。
魔法少女の手によってこしらえられた、魔法の一つの形。
透明な液体、「水」のような質感と形状をもっている玉。
柔らかな表面に、オーギの香水が一滴垂らされている。
山吹の花弁から抽出したエキスを凝縮した、香りの塊はさらなる意味をまとう。
透明であやふやだった姿から、山吹の花びらを溶かし込んだかのように、「水」がほのかな黄色を帯びる。
曖昧に作った魔法少女の魔法が、若き魔法使いの手によって攻撃の意識を持ち始めた。




