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牛みたいな行進で進もう

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます!

 所は果物売り場から変わって、スーパーマーケット内にある菓子売り場。


「お嬢さん! メイお嬢さん!! これ買ってくださいっ!!」


 キンシが興奮気味に鼻孔をふくふくと膨らませて、一個の菓子をメイの方に見せている。

 一個……とはものの言い換えようではある。

 たしかにそれは一個の菓子類ではあった。

 だが。


「キンシちゃん」


 メイが魔法使いの少女の名前を呼んでいる。


「はい、なんでしょう? メイお嬢さん」


 名前を呼ばれた、キンシは幼女のような見た目の魔女の瞳をジッと見返している。

 

 魔法少女の視線を確認しつつ、それと同時にメイは瞳の中に攻撃的なる意識をふくませていた。


「一つ、っていうのはもっとちいさいもの、って意味があるのよ? 

 だから、そんなファミリーパックサイズのお菓子をえらぶのは、「普通」にかんがえてヒジョーシキだと思わない?」


 メイがそのように言っている。

 キンシが指摘に合わせて、自分の両手にある一袋のチョコレートクッキーの表記名を再確認していた。


「で、でで、でも……これ……チョコレートクッキーで、生地がすごくしっとりとしていて、チョコチップがプチプチで美味しいんですよ……?」


 キンシは、猫の獣人族特有の縦に細長い瞳孔を、黒真珠のように丸々と拡大させている。


 魔法少女のその瞳のまん丸さが、格上の相手にたいする媚びへつらいに由来する本能じみた行為であること。

 そのことを、メイはすでにいくらか思考のなかに、日常風景として認めつつあった。


「でも……でも……メイお嬢さん……」


 キンシはメイに向けてさらに主張を、手にしている菓子の素晴らしさを説明(プレゼンテーション)し続けている。 


「生地にあんこを混ぜて、乾燥にも耐えうるしっとり感を作りだしている、創意工夫の結晶でして」


「へえ、そうなの」


 魔法少女がからもたらされる新たな情報に、メイはついつい単純な驚きを返してしまっている。


 だがすぐに、白色の魔女は己の肉体の内側に毅然(きぜん)とした心がまえを整えている。


 メイは体表に生えている白色の柔らかな羽毛をシュッ……となめらかに、細やかにした。

 そうすることで白色の魔女は、子猫のような魔法少女の黒いつぶらな瞳に対抗心を演出しようとしている。


 「普通」の部分をことさら意識的に発音している。

 白色の羽毛を生やした魔女の表現力に、キンシはス……と頭部の左右両側に生えている子猫のような聴覚器官を平らにしている。


「でも……でも、好きなの……一個だけって……」


 キンシが黒色の柔らかな体毛に包まれた耳を、イカのヒレのように平たくたおしている。

 その様子を見て、メイは久しぶりに魔法少女がまだ十代の中盤さえもむかえていない子供であることを再認識させられそうになる。


 考えたところで、しかしながらメイはその思考が自分にも当てはまってしまうこと。

 その事実を再確認させられている。


「ワガママいっていないで、もっとちいさいものを選びなさい」


「はあい……」


 白色の魔女の言い聞かせに、キンシは素直に従っている。


「えーっと……? まずはこれを元の位置に戻さなくてはなりませんね」

 

 キンシはチョコレートクッキーの袋を左の片手に、記憶を頼りにしながら菓子売り場を歩いている。


「どこでしたっけ……?」


 暗い色の革製の長靴(ブーツ)の爪先をさまよわせている。


 キンシの左斜め後ろから、青年の腕がそっと伸びてきていた。


「…………」


 青年の腕がキンシの手の中にあったチョコレートクッキーの袋を、可能な限り優しげにさり気なく奪い取っている。


「あ、トゥーイさん」


 キンシが振り向けば、そこには菓子袋を右の片手にぶら下げているトゥーイの姿を確認できた。


「…………」


 トゥーイは無言のままで、菓子の袋を迷いのない動作で元の位置、陳列棚の奥へと滑りこませていた。


「あ、ありがとうございます」


 キンシはまずもってトゥーイに礼を伝えている。

 子猫のような聴覚器官がピクリ、といくばかりか申し訳なさそうに震えているのが見えた。


 自分と同じ魔法使いである青年に礼を伝えている。


 キンシは視線のそのまま下側にすべらし、一個のスナック菓子に視点を固定している。


「あ、あれなら小さい、小さいですよ!」


 まるで素晴らしいアイディアでも浮かび上がったかのように、キンシはスナック菓子のカップを掴み取っている。


 と、その動作のなかで。


「んるる?」


 キンシは本当の意味で、魔法のアイディアを思いついたらしかった。


 …………。


「けっきょくタコは売ってなかったわ」


 メイが残念そうにしている。


 金銭登録機(レジスター)の向こう側、買い物を終了させた客たちが荷物をそれぞれの鞄にしまうために設えられた空間。


 周辺の客が荷物を仕舞い込みつつ、魔法使いの彼らにチラリチラリと視線を送っている。


「それは仕方がないよ、メイ君」視線を主に浴びている、シイニがチリン、と小さく警戒用ベルを鳴らしている。


「こんな町中でタコ丸々一匹なんて、そうそう売っているもんじゃないって」


 周囲の人々に怪奇なものを見るかのような視線を向けられている。

 シイニは子供用自転車の姿のままで、一丁前にメイを諭そうとしていた。

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