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空気は重く濃厚であった

こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。

「オーギさん?」


 先輩である魔法使いの含みのある言い方に、メイが不思議そうに小首をかしげている。


 幼い見た目の魔女が疑問を抱いている。

 魔女の視線に気づいた、オーギは少しだけ誤魔化すように(かぶり)を小さく振っていた。


「あー……いや、何でもねえよ。オレの個人的な考え、妄想みてェなもんだよ」


 オーギはそう取り繕った後に、右の人差し指をス……と口元に運んでいる。


「あと、オレのことは「オーギさん」じゃなくて「オーギ先輩」、な?」


「ああ、えっと、ごめんなさい」


 先輩である若い魔法使いに指摘をされた、メイはハッと思い出したように簡単な謝罪を送っている。


 先輩魔法使いと魔女のやり取りを聞いていた。


「んるる……」


 キンシが少し不服そうに喉の奥を鳴らしている。


 小さな音色を聞いた、メイが視線をオーギからキンシの方へなめらかにうつしている。


「あら、キンシちゃん。どうしたの? そんな不満げにして」


 メイに問いかけられた。

 キンシは喉の音色を止めて、魔女の方を小さく見おろしている。


「だって、僕のときはあんなにもキツく怒るのに、メイさんの前だと優しげにするんですよ?」


 なんのことを言っているのか。

 メイはほんのわずかだけ考えた後で、オーギについてのことで文句を言っているという考えに思いいたっていた。


「おいおいおい」後輩である魔法少女の言い分に、反論を返していたのはオーギ本人の声であった。


「ンな細けェ事で文句言っとったら、立派な魔法使いになれっこねェぞ?」


 先輩魔法使いの言い分にキンシが反論をしようとする。


「でも……でも……!」


 視界思いついたはずの言葉は、キンシの内側にあるなにかしらの濾過(ろか)装置によってせき止められてしまってしまっていた。


「……」


 後輩である魔法使いの少女から反論が返ってこない。

 少しだけ諦めた。

 そのことをある程度確認した、オーギは続けてメイの方に説明を加えることを選んでいた。


「よお見とり、あともう少しで()()が活動し始めるはずやから」


「カツドウ?」


 なんのことを言っているのだろうか。

 先輩魔法使いの言葉に従い、メイはスーパーマーケットに備え付けられた、巨大な白い繭に視線を集中刺せている。


 ……キュウキュウ、……キュウキュウ。


 小さな、この世界に産まれたばかりの獣がか弱く鳴くような、かすかな音色が聞こえてきた。


 メイはその音響を、側頭部の左右にそれぞれ備わっている聴覚器官に受け止めている。

 植物種としての特徴である、植物のそれによく似た器官。

 椿の花弁のような聴覚器官、紅色の薄く細やかな花弁がいくえにも重なりあっている。


 耳に聞いていた、音は当然のことながら巨大な白い繭から発生しているらしかった。


「……」


 メイは息を凝らしてなりゆきを見続けようとしていた。


 魔女の紅色をした瞳が見つめる。

 その先にて、スーパーマーケットに備え付けられた巨大な白い繭……魔術師によって作成され、この場所に設置された転移魔術式に変化が訪れていた。


 ヒューウゥゥゥンンン……。


 何かしらの力が集まる気配がする。

 高い音色。

 余韻を残す暇もなく、繭の周囲に青色に輝く光が集まろうとしていた。


 ひとすじは湯気のように曖昧(ファジー)で、まるで羽虫の揺らめきのような頼りなさしかない。


 だが、光はただ一つに限定されている訳では無かった。

 それこそ本当の意味において腐臭にたかる羽虫たちのように、何本もの青い光の筋が白い繭に集約しようとしていた。


 しかしながら羽虫のような不快感は、そこにはまったくもって存在していなかった。


 むしろ何か、未知なる恐怖心と美しさを演出する、魅力がその光たちには含まれている。

 

「綺麗……」


 メイはかつて、故郷の土地で見た蛍の群れを思い出していた。

 妖しく揺れる光の群れ。

 だが同時に美的な世界観を保つ、生命の在り方。

 

 光が集まり、いよいよ大きな青色へと変わろうとした。

 そのところで。


 チャプン……。


 と、ひと塊の雫が落ちる、涼やかな水の音が白い繭から発せられていた。


 光が収まった。


「……?」


 さて、次になにが起きようとするのだろうか?


 メイはある種の期待のようなものを込めて、巨大な白い繭に注目をしている。

 もしかしたらまだ、まだまだ、より美しいものが見られるのではなかろうか?


 魔女が期待をしていた。


 ……しかしながら、その期待は見事に外れることになる。


 ズビョッ。

 薄いものが破られる音がした。


 見れば繭から唐突に、人間の手と思わしき肉体の一部がのぞきこんでいた。


「きゃああ?」


 予想外の登場に、メイがたまらず悲鳴をあげてしまっていた。


「?!」


 いきなりきこえた幼女の悲鳴に、繭から飛び出した手がビックリしたように動きを止めている。


「落ちついてください! メイお嬢さん」


 驚きに震えるメイの体を、キンシが左斜め後ろからそっと抱きすくめるようにしていた。


「大丈夫ですよ、あれはただの人間の手です、他人の手でしかありません」


 そう口で説明をしている。

 しかしメイにしてみれば美しいはずの存在である繭から、人間の手が出てきてしまったことの方が、重要なる問題でしかなかった。

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