自分と違う価値観を変わり者にしてしまえ
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ギターの音色は鳴り続けている。
戦闘の場面は中途半端に止められていた。
「いや、いやいや? もちろん? あんな所で戦いの場面を繰り広げるつもりなんて無かったぜ?」
オーギが弁明のようなものを言葉にしている。
「オレは理性的な魔法使いだからな、世間一般が望む常識ってものを理解しているつもりだぜ?」
「その割りには、手前の腕をジュクジュクに溶かしていたけれども」
オーギの言い分にシイニが反論をしている。
シイニはすでに攻撃のための巨大な腕を、小さな子供用自転車の姿に仕舞い込んでしまっていた。
「あれは、あれだよ……」
恐ろしき人喰い怪物であるシイニの言い分に、オーギが更なる言い訳を重ねている。
「ちょっとした挨拶、オレの魔法を知ってもらったかったつう、自己アピールの一つだよ」
かなり苦しめの言い分を使ってることは、オーギ自身にも理解できていることだった。
シイニが早速指摘をしてきていた。
「それにしたって、いきなり攻撃をしてくるのは如何なものだけれど」
シイニは二つの車輪を自分の意思で動かしながら、オーギの感情について疑問を抱いている。
「ああ、それは……まあ、あれだよ」
人喰い怪物に指摘をされてしまった。
オーギはきまりが悪そうに、鼻の頭を右の人差し指で軽く掻いている。
「個人的な事情ってやつだ、あまり気にしないでもらいたい」
オーギはそこで話題を強引にでも終わらせようとしているらしかった。
「そう言われると、余計に気になって仕方がないな」
シイニがすかさず追及をしている。
問われることは、オーギ自身にもそれなりに予測できた展開であるらしかった。
「まあ、あれだよ……最初に言ったとおり、大して珍しい話でもねェよ」
オーギは、自分自身についての事情を少し語る。
「昔の話、「大災害」があった時に、オレの親父が人喰い怪物に襲われたんだ」
かつてこの土地、灰笛を襲った未曾有の「大災害」
たくさんの人間が死んだ。
あまりにも多くの命と心、記憶が奪われた。
傷痕は、今もなお人々の心に残り続けている。
「ああ、そうか、君は体験者か」
シイニが、あくまでも平坦な声音のままでオーギについてを語っている。
「なるほど、なるほどね」
シイニの方でも、これ以上はこの記憶を探ろうとはしなかった。
そうしなければならない、ではなく、そうしたくなる。
それ程には、センシティブな情報であった。
雨が降り続けている。
かつての「大災害」で穿たれた大量の魔力の反応を沈めるための、魔術によって作られた人工の雨。
雨に濡れている。
魔法使いのうちの一人が、行く先の光を見つけ出していた。
「あ、町の喧騒が見えてきましたよ!」
キンシという名前の、魔法使いの少女。
キンシは身に着けているスタジアムジャンパーの頭巾、布の内側の頭に生えている猫耳の形に合わせて縫われた三角形の余分を動かしている。
ピコピコピコ、と動いているキンシの猫耳。
魔法使いの少女の聴覚器官が指し示している。
向かうべき先には、一個の大きな町の灯りが光り輝いていた。
薄暗い路地裏を越えた向こう側、灰笛の繁華街が望める。
「……」
光の気配にメイは目を細める。
まず目に入ってきたのは大きな「道」だった。
例えば飛行機などの巨大な物体が走れそうなほどの、巨大な道が空間を圧倒的に支配している。
道の上には地面を走るタイプの走行車。
あるいは世界の重力に逆らえる、飛行能力を備えた魔術式を組み込んだ飛行自動車など。
あとは、二輪車のように、もっと単純に己の身体に密着させた飛行用魔術式を搭載した人々が道を行き交っている。
「まえまえから思っていたのだけれど」
車たちがせわしなく走り去っていく、光景を見ながらメイが感想を静かに呟いている。
「道の大きさのわりには、道のうえをあるいている人がすくないきがするのだけれど」
まだまだ新参者。
メイが余所者ならではの感想をこぼしている。
「おいおいおい、デリケートな部分をずいぶんとアッサリ言ってくれるな」
幼い見た目の魔女の言葉に、オーギが「やれやれ」と言った様子で溜め息を小さくこぼしている。
「その辺の事情に関しては、地方都市ならではの悩みってものがあってだな」
「あ、えっと、ごめんなさい、いい辛いことをいってしまったのなら、あやまるわ」
メイがトゥーイの上着の内側にて、両側の手のひらを薄い胸の前にかざしている。
あわてようとしている。
幼い見た目の魔女に、シイニが手助けのようなものを送っていた。
「謝ることはないよ、メイちゃん」
子供用自転車のような姿をしている、彼は前輪を右側に少し傾けている。
「なに、この辺は実のところ、人々の関心を惹きつける要素があまりないって、ただそれだけの話だよ」
シイニは前輪を元の位置に戻し、車輪を己の意思でそれなりに自由に動かしている。
「観光名所の少なさに関しては、手前も、ここに来てから常々思っていた事柄だからね」
シイニもまた、メイと同じく灰笛にとって新参者であるらしかった。
魔法使いたちがそれぞれに、あまり明るくない感情を抱く。




