そんな事より俺のギターを聴いてくれよ
こんにちは。ご覧になってくださり、ありがとうございます。
キンシが二人の間に割って入ろうとしている。
「どうしてなんですか?! どうしてお二人は戦おうとしているのですかっ?!」
疑問を抱いたままで、キンシは自分を顧みることもなく、先頭をおこなっている男性二人の空間に乱入を図ろうとした。
「き、キンシちゃん!」
魔法使いの少女の無謀な行動を、メイが必死になって抑えようとしている。
魔法少女の身に着けている猫耳フードつきのスタジアムジャンパーの、背中の布をメイは一生懸命に引っぱっていた。
「あぶないわよ! 戦っている最中にランニューなんてしたら!」
メイはキンシを抑制しつつ、しかしてそれと同時に、彼女もまたこの状況に大きく疑問を抱かずにはいられないようであった。
「あなたたちも、あなたたちよ」
キンシの予想以上に強い推進力に苦しめられながら、メイはオーギとシイニに非難を送っている。
「いきなり戦いはじめて、トキとバショってものを考えなさいよ」
幼女の見た目を持つ魔女に叱られた。
彼らはひと時の戦闘場面を、現状においてその場で中断することにしていた。
「いやいや、申し訳ない」
腕を抉られたばかりのシイニが、傷を負ったそれを使って手の平をグイッと上に上げている。
「若い魔法使い殿のエネルギーに惹き寄せられて、ちょっと興奮してしまったよ」
降参のジェスチャーを作ってみせている。
表面上は下手に出ていても、シイニはまだ巨大な腕を、攻撃ための器官を空間の中に発現させたままでいる。
もしも視線というものが彼に与えられていたとしたら、もしかしたら眼球は依然としてオーギの方に固定されたままであったかもしれない。
まだ戦闘の場面は終わりを迎えていない。
独特の緊張感。
肌を針でチクチクと刺すかのような、刺激は依然として若き魔法使いたちの肉体に宿り続けている。
どうにかしてこの緊迫感を誤魔化さなくてはならない。
さて、どうしたものか。
主にメイが思案を、ベーゴマのように激しく回転させている。
白色の柔らかな羽毛を生やした魔女が、思い悩んでいる。
彼女の悩みを解決するための、救いの手を用意すること。
そのことは、トゥーイにとっては何の難しさも無かった。
ギュイィィィーーーン!
エレキギターの音色が鳴り響いた。
「うおっ?!」
突然の音色にオーギが驚いている。
若い魔法使いは薬箱に体を乗せたままで、視線を音がした方に向けている
見ている先、そこではトゥーイがエレキギターをかき鳴らしているのが確認できた。
「……………」
唇は沈黙を保ったまま、しかしてトゥーイの指先は魅力的な音色を奏でている。
ギュウウン♪ジュルルルン♪ペンペンポロン♪
聞いたことのない旋律は、おそらくトゥーイ本人がオリジナルで作成したメロディーなのだろう。
「ほうほう、これはなかなか……」
シイニが巨大な腕を発現させたままで、しかして意識の方はオーギからトゥーイの方に移している。
「結構なお手前で」
どうやらシイニは音楽が好きらしい。
トゥーイのギターの音色に聴き惚れている。
「これは、あれか?」
相手が自分への関心を半分以上失っている。
状況を確かめた、オーギが溜め息まじりに事実をその身に認めようとしている。
「これ以上は、おいたをするなって事か?」
オーギが戦闘への意欲を削り落とそうとしている。
それにキンシが、勢いよく合いの手のようなものを入れている。
「そうですよ! ええ、そうですとも!!」
安心が訪れようとしている。
キンシは感覚に喜びを抱いている。
「それよりも、もっと楽しいことをしましょうよ」
小さくぴょんぴょんと飛び跳ねている。
少女の身に着けているスタジアムジャンパーのフード、内側の猫耳に合わせて縫われた三角形の布がぴこぴこ、と動いているのが見えた。
「楽しいことって、なんだよ?」
オーギがキンシに問いかけている。
彼は浮遊する魔法の薬箱に乗っかったままでいる。
右手に握りしめていた取っ手を箱の内側にしまい込みつつ、なだらかになった箱の頂点にそっと腰を落ちつかせていた。
「ほら、あれですよ、あれなんですって」
オーギに問われた、キンシは言葉の続きをなんとかして捻出しようとしている。
「みなさんで、お出かけでもしましょうよ」
「お出かけだあ?」
提案された内容の、余りにもな下らなさにオーギが思わずため息を激しめに吐き出している。
「なんで、どうして、このメンバーで出かけなくちゃならねェんだっての……」
至極まっとうな意見をオーギが口にしている。
先輩である若い魔法使いの言い分も、もっともである。
しかしながら、後輩である魔法使いたちはせっかくの平和なる空間へのチャンスを、みすみす逃そうとはしなかった。
「理由ならあるわ」
メイがオーギに主張をしている。
「私たちのお買いものにつきあってほしいの」
魔女が、魔法使いたちにそう要求をしている。
「ホウシュウはどこにも無いけれど、きっと、きっとタイクツはさせないわ」
不安のなかで、メイは確かなる予感をその肉体に感じていた。
魔女の要求を、魔法使いたちが受け入れている。




