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見るからに怪しいのだ!

こんばんは。

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 古城の主であり、そして魔術師たちのリーダーでもある。

 モアが帰路についた。


「なんだかせわしない人だったわね」


 メイがティーカップの縁を指先でなぞりながら、彼女についての感想を口にしている。


「そうかなあ?」


 幼い肉体の魔女の表現に、トユンが疑問まじりの反論を呈していた。


「なんつーか、いついかなる時でも油断ならねェって感じで、オレはずっと緊張しっぱなしだったっての」


 トユンは過ぎ去った嵐の後に訪れた、晴れ間のようなひと時に安堵を溜め息と共に吐き出していた。


「もぐもぐ……。んんー? そんなにおっかない人でしたっけ?」


 キンシはカツパンを、メイに言われた通りにゆっくりと、しっかりと噛んで味わっている。


「もぐもぐ……。ねえ、トゥーイさん」


 咀嚼中の口元を左の手で隠しつつ、キンシはトゥーイにモアについてを問いかけている。


「…………」


 キンシに問いかけられた、トゥーイはただ沈黙だけを返すばかりであった。

 すでに飲み終えたコーヒーの、カップの縁を暇そうに指で撫でている。


 何はともあれ、ここにはもうモアはいないのであった。

 後に残された魔法使いたちは、それぞれに喫茶を終わらせようとしていた。


「もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ……」


 キンシはカツパンの最後の一かけらを咀嚼(そしゃく)している。


「ごくり」


 と、飲みこみ。


「ごちそうさまでした!」


 左の手と右の手を合わせ、食事の終わりの祈りのような所作をおこなっている。


「ふみゅー美味しかったです……!」


 キンシは食べ物の完成度の高さに感激を覚えていた。


「それは、よかったな」


 魔法使いの少女のレビュー、賞賛の言葉に、喫茶店の店員であるトユンが純粋に嬉しそうにしていた。


「ところで、君たちはこれからどうするつもりなんだ?」


 トユンに問いかけられた。


「どうする、とは?」


 キンシはすっかり冷たくなった布巾で口元を拭いながら、トユンからの質問の意味を考えようとしていた。


「どうもこうも、こんなにたくさんの宝石、どうやって持ち帰るつもりなんだよ?」


 トユンが心配しているのは、怪物の死体から採取されたばかりのリンゴ……によく類似した形状に整えられた魔力鉱物のことだった。


「悪いけど、ウチは宝石を保管するための機材なんて一台も持ってないからな」


 トユンは一見して突き放すような言葉遣いをしている。


 喫茶店の店員である彼の言い方に、メイは最初の瞬間だけ疎外(そがい)感のようなものを覚えそうになった。


 しかしそこに不満点を結び付けるより前に、メイはトユン側の事情についておもんぱかっている。


「こんなにもたくさんのリンゴがあったら、また変な怪物さんがやってくるかもしれないものね」


 メイがうれいている。


「やめてくれよメイちゃん……」


 幼い見た目の魔女の言葉に、トユンは肌を(あわ)立たせていた。


「そう何度も、何度も、何度も怪物に襲われたら、こっちの精神がもたないっての」


 ほぼ確実に自らの生命は魔法使いや魔術師などの他者に守られる、ということを確信している。

 

 トユンの言葉から、メイはこの世界における一般市民、「普通」の人々の価値観の片鱗を見てとろうとしていた。


「ちゃんと全部持ち帰ってよ?」


 トユンが気がかりを抱いている。

 それに対して、キンシがカウンター席から立ち上がって受け答えをしていた。


「まっかせてくださいませ!」


 自信たっぷりにしているのは、すでに飲食の料金を古城の主である彼女に支払ってもらった、その安心感から由来しているのだろう。


「こちらのリンゴ型魔力鉱物は、ひとつ残らず僕らのフトコロに収めさせてもらいます!」


 キンシは左手をびしっとトユンに向けて掲げている。


「そちらの取り分はほぼ無いと言ってよいでしょう!!」


「お、おお……!」


 納得をしかけたところで、トユンは魔法少女の主張に疑問を抱いていた。


「ちょ! ちょちょちょちょい! こっちの取り分は無しかよ!!」


「っち……誤魔化せませんでしたか……」


「キンシちゃん……」


 悔しそうに舌打ちをしているキンシのことを、メイは軽蔑と呆れが半々になっている視線で見上げている。


「仕方ありませんね、戦闘の土地代として……これくらいでいかがでしょう?」


 そう言いながら、キンシはリンゴ型魔力鉱物を三つ、トゥーイに向けて差し出していた。


「ああ、うん、そんなにはいらねェかな?」


 トユンは遠慮でもしているのだろうか。

 メイはついつい自分の物差しで他人の、この世界に暮らす「普通」の人々の思考を予想しかけている。


 だがすぐに、魔女は自らの思考のあやまりに気付いていた。


「キンシちゃん、ここにはリンゴをまもるための結界もろくによういできないのよ」


 メイが喫茶店のいたらなさを、キンシに向けてささやきかけている。


「かわいそうだから、ここはなるべく被害のすくないとりぶんをよういしてあげないと」


「おーい? 割かし全部聞こえてんだけど?」


 魔女に職場をけなされた、トユンがとても苦いものを口に含んだかのような表情を浮かべている。


「平気で悪口を言える、これが魔女クオリティか」

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