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青色は変わるだろう、魔法使いは青色を探すだろう

こんばんは。

ご覧になってくださり、ありがとうございます。

 シャキシャキと千切りキャベツを噛めば、食に適した葉っぱの瑞々しい甘さがはじけて砕ける。


 ジャクジャクとカツを噛めば、命の気配をしっとりと含んだ肉の連続性が歯に噛み千切られ、かけらとなって喉の奥に喜ばしく迎えられんとしていた。


「よく噛んでたべるのよ、キンシちゃん」


 メイがキンシの口元を、白く細い指先でそっとぬぐっている。


「ひゃい、メイおひょーひゃん」


 幼い肉体の魔女の指先の感触と共に、キンシは口にした食物をじっくりと歯で噛んでいる。


 もぐもぐ。

 もぐもぐ。

 もぐもぐ。

 もぐもぐ。


 やがて、ごくり。


「美味しい!」


 キンシはぱああ……っ! と瞳をキラキラときらめかせて感動を伝えようとしていた。


「美味しいですよ! トユンさん!」


「そりゃあ、なにより」


 客人の称賛を受け取った。

 トユンは何てこともなさそうに、魔法使いの少女の喝采を受け取っていた。


「それにしても、いったいぜんたい、いつのまにこんなリッパなカツサンドを用意したのかしら?」


 メイが引き続き不思議そうにしている。

 疑問はあくまでも他人事で、メイはそれよりもと、目の前に差し出された熱い紅茶に指先を伸ばそうとしていた。


「ああ、それはだね、メイちゃん」


 幼い肉体の魔女の疑問点にたいして、トユンはとりたてて特別なことも無いまま受け答えだけをしている。


「ここ最近になって、誰かがお客さんの注文(オーダー)を完遂するナゾの透明人間がいるらしいんだ」


「んっふ?!」


 口に小さくふくんだ紅色の茶を、メイは思わず吹きだしてしまっていた。


「けほっ! こほっ!」


「め、メメ、メイお嬢さん?!」


 むせこんでいるメイの小さく細い背中を、キンシは慌てた様子でさすさすとさすっていた。


「大丈夫ですか?」

 

 メイの背中。

 木綿生地の薄手のワンピースの下。

 清潔に洗われた白地の布の下に、キンシは右の指先にてメイの背中、内側の気管支の不具合を感じ取っていた。


「こほん、こほん。ご、ごめんなさい……ちょっとおどろいちゃって……こほん」


 魔法少女に心配をさせてしまった。

 メイはまずそのことを、なんとはなしにとても申しわけなく思っていた。


「大丈夫かい? メイちゃん」


 幼い肉体の魔女に心配を向けているのは、なにもキンシだけに限定されているものではなかった。


 涙ぐむ紅色の瞳。

 メイはじんわりとにじむ視界にて、トユンが布巾と思わしきものを手渡してきているのを視認していた。


「ほら、これで顔を拭きなよ」


 トユンがメイに渡そうとしているのは、どうやら店の備品である布巾であるらしかった。


「ああ、大丈夫、ちゃんと洗ったばかりの清潔なやつだよ」


 しかしメイはトユンの、喫茶店の店員である彼からの善意の(ほどこ)しを、どうにもこうにも受け取れないでいた。


「そ、そういうモンダイじゃなくて」


「んあ? どういうこと」


 メイは右の指、すこし伸び気味の爪が生えている白い指先で、自らの下睫毛を濡らす涙をすくうように拭いとっている。


「どうもこうも、お店のなかに透明人間がいるって、どういうことなのよ?」


 まだ息苦しさも抜けきっていない喉もとで、メイは細い首の内側から質問文をなんとかしてしぼりだしていた。


「いやだなメイちゃん、透明人間なんているわけないだろ?」


「ええ?」


 さっきと言っている事がちぐはぐすぎている。

 

 メイが戦いのあとのティータイムもそこそこに、トユンにたいする猜疑心(さいぎしん)を強めている。


「オレが言う透明人間っていうのは、例えばキンシ君のような魔法使いみたいなヒト、って事だよ」


 白色の羽毛を生やした魔女に疑いの目線を向けられた。

 トユンはそこでようやく幾らか慌てた素振りのなかで、自身の言葉に補足のようなものを加えている。


「一種の病気、症状を持った人が、もしかしたらこの場所に侵入してきているかもしれないんだ」


 トユンはメイに少しでも安心をしてもらいたがっているらしかった。


 それもその筈で、トユンにしてみればメイはやはり、どこからどう見ても弱い八にも満たぬ幼女にしか見えないのである。


 だが喫茶店の店員である彼の善意は、魔女に一ミリとしても伝わっていないようであった。


「じゃあなおさら、あぶないじゃないの」


 メイがカウンターの上に身を乗りだして、その内側にキョロリキョロリと視線をめぐらせている。


「いまもこうして、ナゾのあやしい、きけんな透明人間さんがひそんでいるのかしら?

 そして、キンシちゃんのたべているカツサンドは、その透明人間さんが作ったものなのかしら?」


「それは違うよ、メイちゃん」


 白色の魔女が抱く疑いを、トユンは手短に否定していた。


「透明人間っていうのは間違いなくオレ等と同じ人間だし、料理を作ったのは俺だし。

 それに、カツサンドじゃなくてカツパン、カツパンっていうんだよそれは」


 順を追って白色の魔女の疑問点を訂正、ないし否定している。


 トユンとメイが見ている先にて。


「もぐもぐ」


 キンシはすでにカツサンド、もといカツパンの一区切りを早くも食べ終えていた。

 静かに咀嚼しつつ、膨らんだ頬のままでキンシが次のひとかけらに手をだそうとしている。


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