忘れられない気持ち
あの日からしばらく風邪で寝込んでいた。
ママからは遊び過ぎた罰ねと笑われた。
頭がはっきりしてくるとやっぱり浮かんでくるのは洋祐の事ばかりだった。
しばらくして私は大学生2年になった。
進級と同時に学科を変更した。
美夏とは相変わらず仲はいいが新しい友達も出来た。
美夏は唯一洋祐との事を知っているので私を励まそうと色んな合コン話を持ってきてくれた。
私もこのままじゃいけないと思い参加してみたが、やっぱりどうしても洋祐と比べてしまうし、それ以上に話が合う人は居なかった。
それでもそれから何人もの男性と付き合ったが
どうしても後一歩がふみだせなかった。
洋祐の事を忘れようと努力はもちろんしている。
だけど最近洋祐はCMに力を入れているようで
テレビをつける度に音楽が流れてきて私の胸を苦しくした。
(洋祐頑張ってるんだなぁ。それひきかえ私は…)
何も無い。
そんな子供を相手にする訳がない。
結局ずるずると片思いを引きずっていた。
自分の諦めの悪さにゾッとさえした。
何気無い日々があっという間に過ぎ
とうとう卒業まで時が進んでいた。
私も無事就職が決まり。町を離れる事になった。
じぶんの荷物をまとめながら思い出を振りかえる。出てくる思い出はやっぱり洋祐の事ばかりだ。改めて自分の女々しさに気づく。
就職は洋祐の奥さんと同じ広告関係だ。
別に張り合うつもりとかではない。
洋祐のCMの曲を聞いているうちに私も素敵な曲を広めたいと素直に思ったのだ。
本音を言うと洋祐に会えるかもと期待をしていたのかもしれない。
荷物をまとめ終えると私は家を出た。
今日は就職祝いに美夏をはじめ、友達が送別会をしてくれるらしい。
しかも…場所は洋祐と出会いのきっかけとなった居酒屋。私がどうしてもと希望したのだ。
そして楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。
「なーな~。淋しいよぉ~。」美夏が私に抱きついてくる。相変わらず酒ぐせは悪い。
「はいはい。大丈夫だよ。いつでも遊びに来てね。」美夏を慰め、友達に美夏を任せると私は迷わず歩きだした。
ずっと決めていた。
最後にもう一度洋祐会いに行こうと。
もう時効かな?
正直に言うと洋祐の家は居酒屋からそんなに遠くなくて、私達をのせた時はわざと遠回りしたらしい。思い出してクスッと笑った。
あれから2年ちょっと経つが洋祐のビルへ向かう道は何一つ変わってなかった。
洋祐を見かけたコンビニをチラッと覗き、また歩き出す。
歩くほどだんだん昔に戻っていっているような錯覚さえ覚えた。
そしてあの日号泣したビルの隙間に目をやる。
あの時の思いが甦り胸を締め付けた。
そして私はゆっくりと階段を登った…
洋祐がいたらなんて声をかけよう。
私の姿をみたらどう思うかな?
まだ住んでいるのか分からないのに
色んな事を考えた。
階段を登りきると、そんな思いが一気に冷めた。
ドアにはテナント募集の看板が掛かっていた。
洋祐はこの町からいなくなっていた。
そりゃそうだ。あんなに曲をバンバン出していて
こんな町にいつまでもいる訳がない。
ほっとしたようなめっちゃ淋しいような気持ちがしてドアにもたれその場にしゃがみこんだ。
ここまで来るのに結構勇気を使った。
会えると思っていた自分が情けなくて涙が出てきた。
ドアの向こうには忘れられないたくさんの思いでがつまっている。
その記憶を思いだすたびに、どんどん涙が出てきて声さえ出ていた。
やっと涙が止まりヒックヒックしていると
階段のしたの方から声がした。
私はハッとして顔をあげる。
この声を忘れる訳がない。
ずっと聞きたかった声だ。
慌て立ち上がると見えなかった姿が現れた。
ずっと逢いたかった洋祐だっ‼️
洋祐も私に気づくと驚いた顔をして登ってきた。
「な…な?」
洋祐の声を聞くと引っ込んでいた涙が一気に溢れだした。
今の自分の顔は涙でぐちゃぐちゃでとんでもみっともないに違いない。
慌て口をかくした。
「ようすっ…」名前を言う間もなく洋祐は私に駆け寄ると思いっきり私を抱き締めた。
頭が真っ白になった。
「ホントに来てくれるとは思わなかった‼️」
洋祐の言葉にびっくりする。
その事を聞こうと思っても洋祐は興奮した様子ではしゃいでいる。
余りのはしゃぎっぷりに私の涙が吹き飛んだ。
そして洋祐は持っていた鍵でドアを開けた。
‼️
「まだ使えるんだよね。」嬉しそうに洋祐がドアを開けてどーぞと中に招き入れ、足元にあった紙を広い上げた。
久しぶりに会った洋祐は髪をさっぱり切っていて少し若く見えた。
「どうしてここに来たの?」
洋祐が私に尋ねた。
理由なんかなかった。ただ町を離れる前にどうしても来てみたかった。ただそれだけだった。
それを聞くと今までに見たことのない顔をして驚いた。
そして、さっきさりげなく拾った紙を私に渡した。
埃がかぶってボロボロになっている紙を広げて私は息が止まりそうだった。