伝えた気持ち
(洋祐だぁ…)
そこにはソファーに座っていつもの様にタバコを吸っている洋祐の姿があった。
ドアの音で洋祐がこちらをみて驚いた顔をする。
「どうした?びしょ濡れじゃん‼️電話くれたら迎
えに行ったのに。」そういいかなら急いでタオルを持ってきて私の頭を包むと頭を優しく拭き始めた。
あいたかった。
ほんの10日ほどしかたってないのにもう何年も会っていない気がする。
自然と涙がこぼれる。
そして、腕を伸ばし洋祐の胸に抱きついた。
「どうした?何か嫌なことでもあったのか?」
びっくりしたような心配そうな声でおろおろする。洋祐の心臓の音が聞こえる。
「とりあえずシャワーでも浴びといで。風邪引く
ぞ。すぐ服も用意するから、いつものでいい
だろ?」そう言って私の腕をはらおうとする。
私は首を振りながら腕の力を少し強めた。
今言わないと、後だと言えなくなってしまう。
お風呂に入って洋祐の温かいコーヒーを飲んでしまうとまたいつもの兄妹にもどってしまう。
ゆっくりと腕をほどき顔をあげて洋祐の顔を真っ直ぐに見た。そして口を開いた。
「洋祐が…好きなの。」少し声がふるえていた。
洋祐の目が一瞬おおきくなる。
「あのさっ…」最後まで言う前にわたしがさえ切る。
「わかってる❗洋祐が私の事を子供扱いしてる
事。
女として見てない事。
バカな奴だって思ってる事。
そして… … 奥さんがいるって事。」
洋祐の顔が少し困ったらように見えた。
そりゃそうだ。
そんな事は分かりきっていた。
でもここまで膨れた思いをどうする事も出来なかった。
「ごめん。困らせるつもりじゃなかったの。
自分でもどうしようもなくなってて…」
どんどん涙がこぼれ落ちる。
(神さま。どうか洋祐も同じ気持ちだったよ。って言ってくれますように)
藁にもすがるとはこの事だ。
ほんの少しそんな期待をする。
洋祐が私を抱き寄せる。
少しホッとする。
期待がまた少し増えたような気がした。
そして私の頭をいつもようにポンポンと叩き
ゆっくりと口を開いた。
「夏々の事を子供扱いした事は1度もないよ
もちろんバカにした事もない。
ただ、特別扱いはしてる」と言った。
私はおどろいて顔を上げた。
しかしすぐに手のひらでクイっと胸に戻される。
どーいうことだろう?頭の中でぐるぐる回る。
「俺にとって夏々は特別なんだ。
俺だって一応男だ。そーいう関係になろうと
思えばいつだって出来た。
けどそうしなかったのは… 」
いやな予感がした。
奥さんの話は聞きたくなかった。
私はその言葉を最後まで聞くのが怖くて両手で洋祐の胸を押して急いで部屋を出て行った。
遠くで洋祐の声がする。
振り返らずにまたどしゃ降りの中に飛び出すとビルのすぐ横の隙間に隠れた。
その場にしゃがみこむ。
洋祐の事は良く分かっているつもりだ。
間違いなく私を探しに追いかけてくる。
でも、ここなら大丈夫。雨が私の姿も泣き声もかき消してくれる…
案の定。
階段を急いで降りてくる足音が聞こえる。そして私のいる横を焦った顔の洋祐が走り去って行った。
私の恋が1つ終わった。
それなり恋愛を繰り返し振られた時にはこの世が終わりかというくらい泣いて落ち込んだ。
でも今回は今までで最高に切なく苦しかった。