出会い
「でねぇ~…ちょっと聞いてるの?な~な~」
「聞いてるよっ、飲み過ぎだってば」
もうすでにこの繰り返しを10回以上している。
私の名前は夏々(なな)大学一年生。
で。目の前で目をとろーんとさせなからグビグビとカクテルを飲んでいるのは友達の美夏。
美夏が付き合っていた彼氏に浮気され
なおかつ逆ギレされて分かれ話をされ今の泥酔状態に至る。
私は正直相手の男が気に入らなかった。こうなる事も今となれば
あーぁっと納得がいく。
「大丈夫だよ、他にいい人が見つかるって。ってかうちらまだ未成年だよ❗もう帰ろ」
そう言って飲みかけのグラスを無理やり取り上げた。
お会計を済ませ足がふらつく美夏を支え店をあとにした。
「よーし。次はカラオケいこっ」私の腕を組んで歩き出す。
なんとかなだめて帰る方にうながしていると
私達の目の前に二人の男性が横からでできた。
「ねぇねぇ。今聞こえたんだけどさっ、カラオケ行くの⁉️俺たちも行く所だったんだよね~、一緒に行かない?」
(ナンパとかマジないわぁ~)隣をふと見ると美夏は行く気満々な様子。(勘弁シテよぉー)
「ごめんなさい。私達もう帰るんで」ナンパ男について行きそうな美夏の腕を強引に引き寄せ歩き出す。
しかし、相手もなかなか引いてはくれない。
しつこくいいよってくる。
「帰るってもう終電ないよ。丁度いいじゃん」
慌てて時計をみる。…
確かにもう終電はてでいた。うまいとこ付いてくるなコイツら
私が困っていると
プップーと車のクラクッションの音か後方から聞こえてきた。
振り替えると黒のJEEPがゆっくりと近づいて私達の横で止まった。(またナンパかっ?それともこの危機を救ってくれるステキな人?)バカなことを考えていると車から1人男性が降りてきた。
ドキドキしながら男性の方に目を向ける。
(……残念でした。)
降りてきた男性は私が想像していたステキな人とはほど?遠い感じで黒縁のメガネをかけて後ろ髪を10センチほどくくっていた細身のおじさん?だった
そのおじさん?がちらっと私の方を見てナンパ男の方に目を移した
「うちの妹になんか用?」そう言うと私の方を見て
「電車終わったら迎えに行くっつて言ったらだろーが」と少し強めの口調で言った。
(えっ。えー❗急に兄妹設定?無理ない?ってかこの流れに乗るべき⁉️どーする夏々❗)隣を見ると今にも寝てしまいそうな美夏
(神さまどうかこのおじさんがいい人でありますように‼️)
心のなかで手を組み祈りをささげ、ごくっと唾を飲み込むと
グッと美夏の腕をつかみ
「おにーちゃん。遅かったったじゃん‼️」と言って
おじさんの方に歩き出した。
それを見たナンパ君達はごそごそ話した後その場を立ち去った。
その姿が遠くなると私はおじさん?に頭を下げた。
「本当に助かりました」ふらつく美夏を支えながらお礼を言う。
「別にいいよ。ってか友達大丈夫?あれなら送ってくけど」
「大丈夫です。なんとかしますから」
そう言ったもののその当てもない。実際問題電車はなし。
1人は泥酔。ってかそもそも未成年が酔って家に帰れる訳はない。
「あの~。出来れば近くのマン喫まで送ってもらうことは可能ですか?」ホントに情けない。でもこの状況を解決する答えが他にでて来ない。子供らしい浅はかな考えだ。
しばらく黙っているおじさん?は、急にクスッと笑い出し
「やっと分かった❗マンガ喫茶ね❗」と1人で納得していた。
(マジかっ。マン喫が分かんなかったの?)そう思うと私もおかしくなりつられて笑ってしまった。
「オッケー。じゃあ乗って」おじさんは車の後ろのドアを空けると反対側のドアに周り、車に乗せた美夏を優しく寝させ着ていたジャケットを脱ぐとくるっと丸めそーっと美夏の頭を持ち上げ枕にした。そして私もその横に乗った。
「じゃあ動くよ。」車はゆっくりと走り出した。
「友達めっちゃ酔ってるね。なんかあったの?」ミラーでちらっとこちらの様子を見ながらおじさんが言った。
「ちよっと彼氏に浮気された挙げ句逆ギレされて振られちゃいまして」美夏の髪を撫でながらついしゃべってしまった。
(しまった❗)
「この事は聞かなった事に❗」慌てて言う。美夏に何を言われるかわからない❗でもふと。送ってもらうだけなんだから大丈夫かっと冷静になる。
「君って表情がコロコロかわるね」おじさんはクスりと笑った。しばらくして車か止まった。周りをみるとマン喫らしき建物はない。車の横には3階建ての新しくは無さそうなビルが建っていた。
「マン喫よりはましだと思うよ。二人で寝るの無理でしょ」
そう言って後部ドアをあけた。
(しまった❗やられた。どうして逃げよう)
「ホントに君って分かりやすいね❗大丈夫ここ俺んち。ちなみに子供には興味ないし。結婚もしてる。」
私は自分の顔を手で隠すと恥ずかしくなった。
(結婚してるんなら奥さんも居るだろうし大丈夫よね)
そう言い聞かせると
「お世話になります。」と頭を下げた。
おじさんは以外と力持ちで美夏をすっと抱きかかえると
ビルの2階へと上がっていった。私も慌てて追いかける。
「ドア開けてくれる?鍵かかってないから」
恐る恐るドアを空ける。
(そーよね奥さんいるんだから鍵はかけないよね)
ほっと息をついた。
「お邪魔しまーす」美夏の靴を脱がして自分の靴の横に置いた。
キョロキョロ周りを見回す。住居というよりビルの一室を無理やり住居用に床を作りました的な感じだった。
30畳はあるだろう部屋の奥にはキング?かっ❗くらいの大きなベッドがあり周りには沢山の楽器が置いてある。テレビは無く大きなソファーがど真ん中を占めていた。
おじさんは美夏をベッドにそっと寝かし布団をかけた。
「ありがとうございました。で奥さんはどちらですか?お礼言わないと❗美夏がベッド占領してしまって…」
申し訳無さそうなにいうとおじさんはケロッとした顔で
「いっしょには住んで無いんだ」と言った
私の目が…になったのは言うまでもない。
しばらく沈黙が続き気まずくなった私は周りを見渡した。
壁の棚には沢山のCDが並んでいる。私は立ち上がり棚のCDを眺めた。クラシックからレゲエ。最近人気が出ている歌手のもある。
「コーヒー飲む?それともビール?」
ハッとして振りかえる。
とっさに
「未成年なんでコーヒーで」
自爆。
「やっぱりね。そうか。お子ちゃまはコーヒー牛乳でもしようか?」と小バカにしたように笑った。
そしてコーヒーを入れるとソファーの前の机に置いた。
「すいません。頂きます」私は少しうなだれて恥ずかしそうにコーヒーをのんだ。
(美味しい。)私の好みなんて知らないハズなのに甘めのミルク多め。ううん。ミルクじゃなくて牛乳多めでそのおかげで飲みやすい温度。
コーヒーを飲みながらほっと一息つく。
おじさんは片手に缶ビールを持ってドサッとソファーに腰をおろした。
おもむろにメガネを外して目頭を押さえる。
(ぷっ。うちのパパみたい)ちょっとした親近感が出る。
「おじさんは」慌ててくちを閉じた。
(ヤバい❗初めて会った人で助けてくれた人をつい❗おじさんなんて)チラッと横目でみると
優しそうな顔で見ている。
明るい所で見たおじさんは。
メガネを外したおじさんは。
暗い所でみたおじさんではなかった。
少し切れ長の目。でも表情は優しそうで今ならおにーちゃんでいけそうな感じだった。
「おじさんがなんだって?」机の上にあったタバコに火をつけながらこっちを見るが。急にハッとして
「タバコ!吸っても大丈夫?」と聞いて立ち上がった。
私は慌てて
「大丈夫です」と答えた。
安心した顔をするとそれでも私より離れたソファーに腰を下ろしなおした。
なんとなくそんな些細な心使いが心地良かった。
「俺。おじいさんでもいいんだけど
洋祐。名前は?」
「私は夏々です。19才で大学生です。寝てるのは美夏です。
おじさんなんて失礼な事を…助けてもらったのに、それに明るいところですみるとそんなにおじさんでも無かったです!あっ!」慌てて口を閉じる。
今度はお腹を抱えながら
「夏々ってホント面白い」と笑った。
自分が情けない。
それからおじさん改めて洋祐さんと色々な話をした。
洋祐さんが作曲家なのにはびっくりした。最近人気がででいる歌手の作曲を手掛けていると言うこと。
曲作りの為にこんな町に部屋を借りていると言うこと。
年は29歳で。
結婚して三年子供は無し。奥さんはバリバリのキャリアウーマンって事。
気づくと私は彼の事を洋祐。と呼び捨てにしていた。
時間のたつのがすごく早く感じた。昔から知ってる近所のお兄ちゃんのような、幼なじみのような、聞くのがとても上手で不思議なくらい気兼ねなく何でも話せた。
お互いの子供の頃の話し。ジェネレーションギャップに笑った。
気がつくと朝になっていてお互いのお腹がなった。
顔を見合わせて笑いあうと洋祐が立ち上がり台所へ向かった。
コーヒーを入れ直す。部屋にコーヒーの匂いが広がる。そこへちょっとタバコの匂い。
冷蔵庫の中をごそごそしている。私は立ち上がり洋祐の方へかけよった。
「何作ってくれるの?」
洋祐の後ろから冷蔵庫をのぞきこむ。
「人ん家の冷蔵庫を勝手に見ない❗」そう言って肩をふっと上げて隠す。
二人でパンを焼き、目玉焼きを作った。
その匂いにつられて起きてきた美夏の顔はきっと一生忘れないだろう。それを見て二人で爆笑した事も。
朝食を3人で食べながら、美夏に昨日の話をした。時折洋祐が面白く話を広げ、その度に3人で笑った。
そんな楽しい時間が過ぎ、洋祐が言った。
「そろそろ駅まで送るよ」と。
何故か凄くさみしい気持ちが沸き上がる。
素直に楽しい事に気づく。
もっと話をしたいと思った。
そんな私の思いに気がついたのか最後に「いつでもおいで。」と言ってニコッと笑った。
洋祐の言葉に甘え私は週3くらいの勢いで洋祐の所へ遊びにいった。
美夏はあっさり新しい彼氏が出来てそっちに忙しそうだった。
「今回の彼は続きそう?」
ギターのチューニングをしながら洋祐が言った。
「どうかな⁉️前の最低男よりマシだけど…基本美夏は男の見る目がないんだよねぇ~」
冷蔵庫の中からコンビニのスイーツを出し蓋を開けながらソファーに座った。
一口頂戴と言わんばかりに首を伸ばし口を大きく開ける。
私がすくって口の中に入れるとパクっとたべて
「で、そう言う夏々はどうなの?こんな所にいると彼氏出来ねぇぞ!」と言って私の頭をクシャっとした。
週末には洋祐の家に泊まり夜遅くまで話した。
洗面所には歯ブラシが並び、シャワールームには私用のシャンプーが並ぶ。他の人から見たらどうみても恋人同士に見えると思う。夜だって一緒に寝ている。洋祐の腕枕はとても落ち着く。
最初は、めちゃくちゃドキドキしてそれなりに心の準備もしていたが洋祐が私にどうして何かしてくる事は決してなかった。
流石に油断し過ぎて下着に洋祐のTシャツだけの時は、目を反らし服を着ろ❗と怒られた。
洋祐は月に何度か2日ほどいなくなる。
「あのさぁ~今週はちょっと5日ほど戻らないんだけど。」
いつものように缶ビールを飲みながら洋祐が言った。
「了解。」
私もいつものように答える。
そしていつもは聞かない事を聞いてしまった。
「今回長いね。仕事忙しいの?」
スマホをいじりながら何気なく聞いた。
「それもあるけど、奥さんがめすらしく休み取れたらしくてさ」
タバコに火をつけて答える。
その瞬間私の心の中で変な気持ちが沸き上がった来て
胸がぎゅっと締め付けられた。
違うよ❗気のせい。私達は友達。と言い聞かせる
どうした。夏々❗奥さん居るの知ってたじゃん。タイプじゃないよ❗ってか100%恋愛感情なかったよね❗自問自答を繰り返す
「どうかしたか?」私の様子に気付き洋祐が私の横に座った。
私はとっさに布団をかぶり
「なんでもない」と洋祐の反対側に顔を向けた。
洋祐はあっそ。と言って布団の上からポンポンと私の頭を叩いてソファーに戻った。しばらくしてまたギターの音がする。
それと同時にメロディーを口ずさむ歌も聞こえてきた。
今までは何も思わなかった洋祐の歌声が凄くキレイな事に気づく。そーっと布団から顔を少し出し洋祐の方を見る。
また胸が苦しくなる。
そして私は今更ながら洋祐を好きになっていた自分に気がついてしまった。
今週は長くて良かったとつくづく思った。
自分の気持ちを整理したかったし
これからどうするかも考えたかった。
でも、いくら考えてもどうしようもない。
もう逢わないか。
気持ちをごまかして友達を続けるか。
この二択しかないのだ。
美夏に相談したのが間違いだった。
クラクラする。
「ヤっちゃえばいいじゃん❗結局何といってもしょせん男なんてヤっちゃえばこっちのもんよ。」
「バーカ。洋祐はそんな事しないよ」
そんなんだったらとっくにヤってるっーの。
大きなため息をつく。その時ラインがなった。
洋祐だった。
[1日遅くなる。明日もどる。]
泣きそうになる。
[了。お土産楽しみにしてる]と精一杯の返事を送った。
顔も見た事もない奥さんと洋祐の姿が浮かぶ
二人でなにをしてるんだろう?嫌な事ばかり頭に浮かんでくる。
「洋祐の奥さんって超仕事出来るよね。しかも美人だし。同じ女として憧れるわぁ」美夏が美味しそうにパスタを頬張る。
(コイツはどっちの味方だよ❗あれ?ちょっと待って)
「なんで美人って知ってるの⁉️」美夏の前に顔をつき出す。
「近いっーの。雑誌に出てたの見た」そう言うとカバンの中から雑誌を取り出しパラパラとめくると広げたページを私の前に置いた。
そこには超美人の嫁。
テレビのCMを作っていて
そのCMに洋祐の曲を使ったのがきっかで一気に作曲家として人気が出たらしい。そして結婚に至る。と書いてあった。
(こりゃ100%勝ち目ないゎ。この人嫁だったら私なんてホントにガキ。手を出す気にもならないハズだ)
「うわ~ん」と泣き真似をしながら雑誌の上に顔を伏せた。
よしよし。と言いながら美夏が私の頭をポンポンと叩いた。