白虎呑み比べ
白虎呑み比べ
世界の中心に倒れ、今これを必死で書き留めている
どわはははは、麦酒の泡と上品が散る。
今宵は宴で、誰も世界なんか見ない。
ふと、一人の大男が立ち上がった。
おうおう、みな集まってくれてありがとよ。
今日は俺のおごりだ、大いに飲んで大いに食べてくれ。
「わーい」
「太っ腹ー」
代わりに俺の武勇伝を聞いてもらおう!
「えーやだー」
「それが目的だったのかー」
おい、嫌だとはなんだ。
敬愛する先輩の武勇伝だろ?ちょっと聞いてけって。
「まあいいっすけど」
「聞かないし」
じゃあ始めるぞ。
これは昔の話なんだがな・・・
昔々、それはそれは昔。
ここから、ずっとずーっと西にいったところに、俺は居た。
なぜそこにいたのか、それは今となってはわからないけど、
わからないけどそこにいた、
そうだ理由は、
と思い出しかけては何度も忘れている、
喉の奥に刺さった小骨みたいに、すっきりできないんだ。
とにかくまあ、俺は西にいた。
西のほうにある都、お前ら知っているか、
そこのとある居酒屋には、白虎が来る。
何信じらんないような目をしているんだ、
本当の話だ。
俺はその居酒屋で、飲んだくれていた。
白虎がくる、なんて噂を、今のお前らみたいな目で聞いてな。
まあ、そりゃ普通は信じられないわな。
だってあの白虎が、こんな・・・って言っちゃあなんだが・・田舎のさびれた居酒屋なんぞに、来るわけがない。
第一、あいつは虎ではないか。
そんなのがやってきたら、大騒ぎだ。
だが来るんだ、
だって来たのだからしょうがないね。
扉を破壊せん勢いで、白い巨体がやってきた。
そうだ、あれは確かに虎であった。
白いのだ。
まずはそれが目に入った。
真っ白に輝いて、まばゆい光を放つ。
俺はすっかり目が眩んぢまって、世界は白ばかりであるんだなあ・・・なんてばかなことを考えたりもした。
でもそれは純白ではないことに気付いて、俺はふっと視界を、しか、いを
取り戻した。
純粋の白ではない、それは力の白だ。
やがて俺の中で幻覚が薄れてきて、白が輪郭を持ち始めた。
踊るように動く、力強い筆、
たっぷりと含まれた黒い墨、
それが白を枠の中に閉じ込めて、
世界を穏やかに収めていくのを、見た。
そのように抑え込まないと、白は暴れだして、
世の中の黒という黒、すべてそれらを倒しつくして、
世界一帯を白で埋めるんだろうと、足りない頭でも分かった。
そして、俺はグレーだったから、薄汚れて捨てられたグレーだったから、
真っ先に消し飛ばされてしまうであろうことも容易に想像がついた。
でも、それはどうやら幻覚だったようで、
光が落ち着いて、元の場所に戻ったころ、やっと俺はそいつの姿をはっきり見た。
虎だ。
それも、並の大きさではない、
まるで怪物のような虎だ。
大きなパワーを秘めた質量が、目の前に立っていた。
その足の一蹴りで、地は割れるだろう。
その尾の一振りで、軟弱な建物なんぞは、跡形もなく消し飛ぶだろう。
その顎の一噛みで、どんなに硬い鉱物も砕いてしまうだろう。
乱暴で、荒々しくて、人間が百人がかりでとびかかっても、勝てることはない。
それを認識して、俺の足は自然と震えていた。
逃げようと、もがいていた。
落ち着け、落ち着け、と足に呼び掛けた。
まあそれで収まるほど安い震えではなかったがね。
白虎は、居酒屋の中を一通り見まわして、確認すると、ふと俺のほうを向いた。
その瞬間、体が凍り付いたよ。
野生という猛々しい世界をすべてその中に閉じ込めたような、金色の瞳。
それでいて妙に神々しく、透明な瞳。
おかしいよな、さっきまであれほどうるさかった足が、ぴたっと止まっちまった。
何をするんだろう、食われちまうのかな、と俺は考えた。
だがその心配はなかった。
「驚かせて済まない」
と・・・白虎はしゃべったんだ。
そんでとても虎とは思えない丁寧な態度で、俺に詫びを入れた。
それでそのあと、何て言ったと思う・・・?
「え?」
「そんなん想像もつきませんよ。」
はぁ。まあわからんよな。
あいつは、「呑み比べをしませんか」なんて・・・
言ったんだよ。
そんで俺もこくこくと、今思えばどうしてなんだろうな・・・頷いたんだ。
「それじゃあ」と白虎は言って、店主に杯を出すように言った。
10分後、俺と白虎の呑み比べは始まった。
ごく、ごくと静かに杯を傾ける音だけ、響いていた。
なあお前、想像してみろよ、
隣に歴史に名高き神の獣が座り、
杯をぴちゃぴちゃと舐めている様子を。
相変わらず眩い光をその体から放っているが、
さっき感じた威圧感はどこにもなかった。
そんなことを考えているうちに、どんどん酒は注がれて、
俺も意識があいまいになってくる。
そんでさあ、何を言ったかなんて、もう全然覚えていないがな・・・
何か、白虎に聞いたんだ。
人生のこと、恋の話、仕事のこと、気づいたら俺は大分酔っていて、まるで友達にするように
白虎に話しかけていた。
酒のせいで、せっかくの神獣の忠告が、まったく頭に残っていない。
ただ一つ、覚えているのは、
「明日になればよい」という言葉だけだった。
「ええ、マジですか。もったいないなあ。」
「それってどういう意味なんでしょうかね。」
わからん。
どんどん酒は注がれる。もう周りに客は居なくて・・・いや俺が気付かなかっただけで居たのかもしれないが・・・残っているのは俺と白虎ただ二人だった。
酒のせいかもしれないが、俺には白虎が人のように見えた。
ちょうど40代ぐらいの、すこし老けた男に。
中国の役人のような服を着ていて、顔はなかなか男前だった。
その男・・・多分白虎・・・がこちらを向いて、金色の瞳で微笑んだのを最後に、俺は眠った。
「え、寝落ちですか?」
「面白くなーい、どっちが勝ったの?」
さあな。翌日、朝になったら、そのころ住んでいた家で眠っていた。
ちゃぶ台の上に、一枚の便せんが置かれていた。
白虎からのものだとすぐわかったが、残念ながら昔の言葉らしく、俺には全く読めなかった。
・・・これで、俺の話は終わりだ。
武勇伝ってほどでもなかったな、長くなっちまってわりい。
「なんだー、勝ち負けわからないんですか?」
「もう、ただ長いだけの話じゃないですか。」
何だよ、お前らロマンがないな、
俺はあの白虎と呑み比べしたんだぞ?
もっと褒めたたえろよ、
「だって先輩別にすごくない」
「すごいのは白虎じゃないですか」
あーもう!お前らそんなこと言ってると白虎に噛まれるぞ!
「先輩が噛まれますよ」
「あー疲れた、解散解散。」
あ、もう!ちょっと待てよ!!
ったく・・・最近の若いやつらは、結果にばっかこだわりやがって。
世界の中心に倒れ、今脚色で世界を美しくした
夜も更けて、また新しい朝に向かって走る
いやー、疲れました・・・長いよ・・・
もはや詩じゃないですよね。半詩、半散文。というか全部散文。
最初はけっこう自由にやっていたのに、型ができるとむずかしい。
あ、あと大事なお知らせ。
しばらくの間(多分一か月もないけど)更新のスピードを遅くさせていただきます。
なぜなら、塾の宿題が終わっていないからです・・・
ああ、学生は不自由。




