朱雀踊り子
朱雀踊り子
世界の中心に座って、今必要もないのにこれを書いている
必要ないかどうか、試してみるためだ。
目の前では炎のように鮮やかな赤が踊っている。
ふだん黒ばかりのこの場所に、赤はとても映える。
私が何も知らないなんて言われるのは心外よ、
私がただの踊り子なんて思っているの、
だとしたらあなたずいぶん見る目がないのね、
とても滑稽だわ。
私は朱雀の娘なのよ、
そうよ、あの朱雀よ。
南を護る、誇り高き火の鳥。
・・・え?あほなこと言わないで、って?
朱雀に子供なんているはずないでしょう、って?
そうね、確かに私は朱雀の実の娘じゃないわ。
だけど朱雀に育てられたから、朱雀の娘でもいいんじゃないかしら。
なによ、そんな偉いやつがこんなところにいるはずないでしょうって?
・・・それは、いろいろあったのよ。
とにかく、私は何も知らないわけなんかないの。
なんなら、あなたなんかより何倍もものごとをよく知ってるんだから。
あなたたち、朱雀のことやほかの神のことなんてちっとも知らないでしょう?
いいわ、私が教えてあげるわ。
朱雀は赤い鳥なのよ。
太陽をそっくりそのまま、溶かして塗り付けたように赤いの。
でもただ赤いだけじゃなくて、とこどこに橙や黄色やまた緑なんかも混ざってるから、
きれいなのよ、それはもう。
とくに夏の昼間の、焦げるような日差しの中を、
はばたきながら飛んでいく様子なんて、神様の言葉にだって言い表せないわ。
想像してみてよ、今見せることはできないから。
今は夏なのよ・・・本当は冬なんだけどね・・・
蝉が鳴いているの、そしてさ、今すぐかき氷の中に飛び込みたいような暑さなの。
日差しがどんな丈夫な布も日傘も貫いて、私の腕にまんべんなく刺さって、それはそれは痛い。
蝉はうるさく鳴いている、うるさいけれど蝉を消してしまったら、
夏からは音がなくなるのよ。
あなたのおでこからは、たらたら汗が出てくる。
ぬぐってもぬぐっても何度もたれてくる。
・・・暑い!
叫ばなくちゃやっていけないぐらい暑い。
でも、なぜか辛くはない。
なんでって?
夏だからよ。
夏なの、子供のころあんなに待ち焦がれた夏、
大人になってもちっとも輝きの消えない永遠の夏!
海、氷、夏休み、向日葵、
何かわからないけどわくわくしてたまらない、
明日、いや一秒後に何か始まるんじゃないか、
ひょんっと不思議な世界が降ってくるんじゃないか、
そんなわくわくでいっぱいなの!
どこかに行かなくちゃいけない気分が足を急かす。
そしてあなたは街に出る
そしたらね・・・ほらここよ・・・想像力を働かせて・・・
朱雀が空を飛んでいくの。
影が動いて、思わず空を見上げる。
そこには夏そのものの朱雀が飛んでいる!
子供みたいに声をあげて、追いかけていこう!
・・・・・・何よぅ!気に食わないっていうの!?
もう、面白みのない男ね。
そんなに信じられないって言うなら、もーうとっておきのこと言ったげるわ!!
朱雀はね、時々化けてあなたん店に買い物に行ってるわよ!
気づかなかったの!ばっかねー!
そうよ、朱雀は人に化けられるの。
他の神もそうなんだけどね。
朱雀は私、神様の中でも一番きれいだって思ってるわ。
私、見た目には自信があるんだけど、朱雀にだけは勝てない。
燃えるように赤い髪、同じように鮮やかに輝く目。
健康そうに焼けた肌と、ほっそりした手、
もう本当にあれは、朱雀そのものだわ。
何時もめだたないように地味な格好をしてるんだけど、
それでも神々しいのが隠しきれてないもの。
・・・ただ、朱雀は好き嫌いが激しいのと、ちょっと怒りっぽいのが玉に瑕なんだけどね。
・・・やだ!私ったら、この話内緒だったのに、べらべらしゃべっちゃった。
どうしよう、朱雀に怒られちゃう・・・
おじさん、内緒にしといてね、
絶対よ、絶対に内緒よ。
・・・お願いね!!
世界の中心に立って、今僕は一つの秘密を背負った
密やかに、それを墓場まで持っていきたいと思う




