左利きの予知夢
僕はいつでも幸せだった。
僕の周りには幸せの証拠があふれていた。
それが本当に幸せだったのか、今となっては分からない。
でも社会的に見ればきっと僕は幸せだった。
母は優しかったし、父は気さくで格好良かった。
たとえ級友が僕を拒絶しても、
それは幸せに違いなかったんだ。
でも、でもでも
みんなが幸せだと言っていた僕は、
死んだんだ。
いつから死んでいたのかな。
僕はいつでも幸せだった。
そうでなかったら僕として僕ではなくて、
ああもう何を言っているのか分からない、
僕は確実に壊れてきていた。
それを全部彼のせいにしてしまうのは簡単だ。
彼が僕のことを失礼にも指さす夢を見た。
それはいわゆる予知夢というやつだったことを、
僕はきっと40日後に知る。
ああ、おかしいな?僕は本当に幸せだった?
誰か教えて、先生、先生、
誰か僕は幸せだったと言って。
今は何日?何曜日?何時?
助けて!幸せの証明だけが欲しい。
何もかも失う僕は彼を殺せばいい?
必要な記憶がどんどん彼に塗り固められていった、
貴方は誰だ?
心が壊れていくボクを、僕は遠くから見ていた。
自分が自分でなくなるボクを、
大切なものをなくしていくボクを、
一人だけ信じてあげられるのは僕だ。
ボクは幸せだった。
そうだ、ボクはいつでも幸せだった。
過去と未来の中を逃げまどうボクに一つだけ言ってあげたい。
ボクはいつでも幸せだった、そうだ、そう思い込んでいた。
おかしい、おかしい、おかしい、僕じゃない、僕じゃないから、
左利きの僕が右利きの彼らに追い出される夢を見た。
初めて怖いと思った
怖いということが心を壊していないで、
怒りに似た倦怠感が僕の心を砕いているんだ
もう何もいらなかった、
夢を見たくない
眠るのが怖い
眠りの淵で見る夢は、
もう夢じゃない、
夢じゃない、
彼も僕も同じだったんだ、
夢と現が糾われて感覚を失って、
そして迷子になる。
ボクはもう眠れなかった。
本当が夢になるんじゃなくて、
夢が本当になると信じていた。
笑顔に凝り固まったボクを、
僕はいつでも慰めてやるのに。
これはおわるまえのはなしじゃないよ。
暗い部屋の彼がもっと暗い部屋に送られて、
独りぼっちになった僕は、
可哀そうな家族を思い出しては泣いていた。
ボクの日記を読んだ僕と、
僕に日記を渡したボクと、
懐かしき夢の世界でまた会おう。
壊れきった幸せな夢の世界。
さようなら、さようなら、
可愛い僕の弟よ、母よ、父よ、
三年ぶりの我が家には、
誰もいないのでありました。
どうも。きらすけです。読んでいただきありがとうございました。
右と左は関連性がある作品にしました。例えば留学から帰ってきたとき、自分の家に誰もいなかったらどうしますか?それが誰かの悪意によるものだと知ったら?
あと、本当にどうでもいいんですけど、日本語は、家族の中で一番年齢が低い人の立ち位置から家族を呼んでいるのだそうです。だから旦那さんを「お父さん」と呼び、奥さんを「お母さん」と呼ぶのですね。