第四章 ニワトリン討伐…中
嬉しそうなナナはほっとくとして、とりあえずアリスとレイラの方に集中しようと、カズトは考えていた。視線の先にあるのは、温泉である。
ひのきなどではなく、石と石を繋ぎ合わせて作られたような、そんな温泉だった。
「アリス!レイラ!」
温泉の中から中々出てこない二人が心配になり、聞こえないと分かっていながらも、叫ばずにはいられないカズト。それぐらい、二人は潜り続けていたのであった。
プク…プクプクプク。
プクプクプクと気泡が、温泉の中央から出てきた。二人が出てくるのかと思い、気泡に最も近い場所へと走り出すカズト。
「ナナ!いつでも魔法が放てるようにしといてくれ」
もしもニワトリンだった場合を想定し、ナナに指示を出すカズト。
「わかりました。任せて下さい!」
先ほどの光景を目の当たりにしたからか、ナナにしては珍しく自信満々の返答である。
「…頼んだぞ」
一瞬の間が出来てしまったのは、注意するか迷ったからであった。
先ほどのは威力があがったからではなく、単にガスに引火しただけだと教えるか?嫌、今は強気でいて欲しいと、カズトは考えた。
プクッと何かが浮かび上がってきた。
良く見ると、気泡が出てきた所から黄色い三角形のような物が顔を出した。
「…あれは何だ?」
よく分からない物体を見ながら、カズトが呟く。
じーっと見ていると、カズトの背中に衝撃がはしった。
「カ、カズトさん!?」
吹き飛ばされるカズト。
背中を蹴られたのだと分かったのは、バッと起きあがった時であった。
「許さん…絶対に許さんぞ虫ケラども」
鬼のような形相で、先ほどまで自分がいた場所に、ニワトリンが立っている。
「ここから生きて帰れると思うなよ!!!」
何故かご立腹なニワトリン。
訳がわからん。
しかし、そんな事を考えても仕方がない。
「…クソ。やるしかないのか」
アリスとレイラが気がかりではあるが、他人の心配をしている場合ではない。
はやぶさ狩りの為にと、腰におさめて置いた剣を抜き、両手で構えるカズト。
「はぁぁぁあ!!!」
向こうには、タマゴ爆弾という中距離攻撃がある。また、天井にぶら下がられては、カズトに攻撃手段はない。
ならば自分から仕掛け、近距離戦闘に持ち込む事でしか、勝機はないだろうと判断する。
「ふん。私のチャームポイントを奪った罪を、その身を持って味わうがいい」
どうやらニワトリンは、近距離戦闘を避けないつもりらしい。ならばこれは好機だ。
「火炎狩り」
地面に剣を擦りつけながら駆け出したカズトは、地面と剣の間に生じた摩擦熱から出る火花を使って、剣に火をつけて振る。
(ヤツが動物なのであれば、火は怖いはず)
下から右斜め上空に向かって斬り込んだカズトの攻撃を、サッと横にかわすニワトリン。
「残念、無念、また来…!?」
「火炎狩りアルファー」
かわされた剣の遠心力を使い、再度左下から右斜め上空へと繰り出すカズト。
火炎狩りアルファーとは、最初の一撃を両手で右斜め上空に斬りこむのだが、左手に力を込め、右手はそえているだけであり、かわされた瞬間に、遠心力に逆らわず、身体全体をクルっと回し、右手一本で再度火炎狩りを放つ技である。
カズトが繰り出す火炎狩り二連撃。
最初の一撃をかわしたニワトリンは、まさか二連撃がくるとは思いもせず、まともに攻撃を受けてしまう。
「ダークフレイム」
すかさずナナは、追い討ちをかけるべく魔法を唱えた。
ドーン。バシャン。
「アリス!レイラ!」
ダークフレイムがニワトリンにあたる丁度その時、温泉の中から二人が出てきた。
「ハァ、ハァ。アイツは?」
長時間潜っていたからか、息を切らしながらも、アリスがたずねてくる。隣では、ゴスロリ服を絞るレイラの姿があった。
「あっちだ。何でかは分からんが、アイツかなり怒っていたぞ」
土煙があがる方を指さし、今の状況を軽く説明する。
「でしょうね」
「…?心当たりがあるのか?」
納得顔のアリスを見たカズトは、どういう事なのかと、説明を求めた。
ーーーーーーーー
カズトの指示、嫌、アリスからしてみれば強制的に飛び込んだ温泉の中で目を開けると、ニワトリンが逃げて行くのが目に入った。
(逃すもんですか!)
ニワトリンの後を追うべく、アリスは加速したのだが、隣にいたレイラが沈んで行く事にきづいた。
(ちょ、ちょっと馬鹿レイラ)
上から降り注ぐ瓦礫や石つぶてが、レイラに直撃した様子は見られない。
所詮は水の中であり、ゆっくりと落ちてくるこの程度の衝撃で、あのレイラがやられるとは思わないのだが、レイラはやはり沈んでしまっていた。
仕方がないので、ニワトリンの追撃は諦め、レイラの元へと急ぐアリス。
(ど・う・し・た・の・よ)
喋れない為、身振り手振りジェスチャーでたずねるアリス。
(……?)
急に下を指さしたかと思えば、お手上げポーズをとるアリスの行動に、可愛いく首をかしげるレイラ。尚、今現在彼女は、ゆっくりと下に落ちて行く。
(だから…)
仕方がないので、アリスは再びレイラにたずねた。温泉の中とはいえ、どうやら結構深いらしい湯の中で、再び身振り手振りでたずねるアリスに対し、レイラは鼻をつまむジェスチャーをとった。
(誰が臭いですって!?死ね)
先ほどのやり取りを連想させるレイラの仕草に、アリスはその場でグルッと一回転し、かかと落としを繰り出した。
それをサッと身をのけぞらせる事で、攻撃をかわすレイラ。
(…何を怒っているのでしょうか?)
かわされた事への怒り、羞恥心からか、ますますアリスの頭に血がのぼる。
(くらいなさい!ヘルズアタック)
ゴーっと、レイラに向かって繰り出される正拳突きを、レイラは右手で弾き返した。
(喧嘩してる場合ではないというのに…)
喧嘩の原因が自分にあるとは思いもせず、レイラはアリスの攻撃をかわし続けた。
(ハッハハハ!!もらったぁー)
何故か組手を始めた二人の行動に、罠かと考えたニワトリンであったが、アリスが一瞬だけ見せた隙を狙い、加速した。
(タマゴパーンチ)
右手を真っ直ぐ伸ばし、バタ足をしながら突進するニワトリン。
(雑魚は引っ込んでなさい!!ヘルズクラッシュ)
(何!?き、緊急回避…し、しまった)
アリスに突進したニワトリンは進路を変更し、アリスの頭上を通過するも、履いていたニワトリパンツの口ばしが、アリスの攻撃をくらってしまい、とれてしまった。
(わ、私のチャームポイントが…)
(死ね!馬鹿レイラ!)
(…テトは大丈夫でしょうか?)
床にたどり着いたらしく、両足を地につけたレイラ目掛け、浮力を生かした攻撃を仕掛けるアリス。水の中でしか実現しないであろう空中蹴りを、10発繰り出すもレイラにはあたらない。
(おのれ…許さんぞ。許さんぞーー!)
浮力で浮かんでいく、チャームポイントの口ばしを拾うべく、ニワトリンは加速する。
(…!?テトが危ないです)
(死ね死ね死ねーー!!ん?)
急に右手を真っ直ぐ突き出してきたレイラの行動の意味が分からず、首をかしげるアリス。
(け・ん・か・を・し・て・る・ば・あ・い・で・す・か?)
ピタっと動きを止め、レイラを観察するアリス。
(何々…えーっと。上を見ろ、下を見ろ、上を見ろ?)
アゴに手をあて、可愛いらしく首をかしげるアリスを見て、ため息を吐くレイラであった。




