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第四章3 ボステム 中

 

 カズト達は、酒場を探していた。

 酒場は冒険者の集いの場であり、冒険者ならまずは酒場を訪れるのが基本である。


「ここです」


 以前来た事があるレイラは、特に迷う事なく酒場まで道案内した。

 どんな酒場かと説明するのであれば、よくアニメや漫画、ゲームなどで見かける酒場だ。

 カウンター席や丸いデーブル席。

 酒樽が何個か置いてあるのは、立ち飲み用だろうか?

 店内に入り、辺りをキョロキョロ見渡していたカズトは、お目当ての物を発見する。


「三人はここで待っててくれ」


 カズトはそう言い残し、お目当ての物の所まで歩いていく。


(情報掲示板は・・と・・やはりか)


 カズトが探していたのは、掲示板であった。

 掲示板には、色々と書かれている。

 仲間の募集やクエストの依頼。

 また、クエストとは違うが仕事の依頼などもある。

 これは言葉通りの意味であり、例えば、力仕事が必要なご年配の方の為に、こちらから自宅に出向き、薪割りなどの仕事をするのだ。

 力もつきお金も貰え、命を落とす心配もない。

 その為、クエストに比べると報酬は少ない。


 そして賞金首の張り紙がある。

 モンスターとは違い、人間やドワーフなどを捕らえる為、高額ではあるが、命を落とす危険が一番多いクエストである。


(・・・。)


 そこにはカズトが知っている人物、クリフとナナミの張り紙が貼ってあった。

 サタンシティーを壊滅させたクリフに、同族殺しの魔女のナナミ。

 ナナミの方が懸賞金額が高いのはやはり、人を殺しているからだろう。

 カズトが三人に待っとくように伝えたのは、この為でもあった。


 張り紙を剥がすか考えていたカズトの後ろから、声が聞こえてくる。


「・・・クリフ」「・・お姉ちゃん」


 レイラとナナである。

 二人の声を聞いたカズトは、何て声をかけるべきか考えるが言葉が見つからない。

 待つように言っただろ?と、注意しようかとも思ったが、ずっと隠し通せる事でもない。

 これから旅をする中で、いつかは目にする事でもあり、噂で聞いてしまう事もあるのだ。


「フン。いつか捕まえてはかせてやるわ」


 アリスの言葉を聞いた三人は、小さくうなずいた。

 嫌、うなずく事しかできなかったが、正しいのかもしれない。

 気まずい空気が流れかけたが、声をかけられた事により、気まずくはならなかった。


「いらっしゃい。何か食べますか?飲みますか?もしかしてクエストですか?」


 一度に複数の質問をしてきたのは、酒場の店員である。


「いや、俺たちは・・」


「スライムソーダ4つ持ってきて」


 店員に答えていたカズトの言葉をアリスが遮り、飲み物を注文する。


「お、おい!」「何よ。喉が渇いたの!」


 前回それで痛い思いをしただろう!とカズトは思ったが、こう言われてしまっては何も言えない。

 幸いにも、カマキリコウモリとの戦闘でお金があるのはわかっている。

 前回の二の舞いに、ならなければいいが・・。


「スライムソーダ4つ。かしこまり〜」


 接客業を何だと思っているのかと、カズトは注意しようとしたが、ナナから質問される。


「かしこまり〜ってどういう意味ですか?」


「ん?あぁ。かしこまりましたって事だよ。要はアリスの注文を承りましたっていう意味だな」


「・・何故、かしこまり〜っと言ったのでしょう」


「そんなのどうでもいいじゃない。それより座りましょう」


 アリスはそう言うと、近くの丸テーブル席に座る。

 レイラの眉がピクっと動いた事に、カズトだけは気がついた。


 ーーーーーーーーーーー


 テーブル席に座るカズト達。

 カズトの横にレイラとアリス。

 カズトの正面にナナが座っていた。

 四人は今後について話し合う。


「まずはレベルの確認をしよう。マップ」


 カズト達はまず、ステータスを確認しあう。

 カズトのレベルは18。

 アリスのレベルは20。

 ナナのレベルは16。

 そして、レイラのレベルは92であった。


「こ、壊れてるんじゃないの!」


 レイラのレベルを聞いたアリスは、テーブルを叩きながら意義を唱える。


「さ、流石ですね」


 ナナは驚きの声をあげた。

 しかし、そうなると・・と、ここで一つの疑問があがる。


「カ、カズトさん。レイラさんと互角だったレリスって子も、そのぐらいのレベルなのですか?」


 レイラとレリスは、拳を交えている。

 しかし圧勝どころか、互角だったとアリスとレイラから聞いていた事を思い出したナナは、カズトに小声で質問をした。


「いや、気づいているかもしれないが、レイラは誰も殺せない。誰も殺さないように俺が支持をだしているからな」


「そ、そうなんですか・・。」


「・・・・。」


 本当は支持など出していない。

 しかし、レイラが危険な目に合わないようにするには、本当は殺せるんだぞという嘘が必要である。

 レリスに対しても、無意識に力を抜いてしまったのだと、カズトは推測していた。

 ナナが小声だったのは、他の冒険者に聞かれないようにする為である。

 カズトはその事を理解して、嘘をついたのだ。

 壁に耳あり障子に目あり。

 アリスは二人の会話を、無言で見守っていた。


「何かありましたか?」


 ナナが身を乗り出して、カズトと話しをしているのに気づいていたレイラだったが、店員さんに声をかけられていた為、内容は聞いていないようであった。


「何でもないよ。それより、何だったんだ?」


 スライムソーダを配りながら、たずねてきたレイラに何でもないと告げ、店員さんに声をかけられた理由を聞くカズト。

 

「・・ハイ。実は、こちらをお願いされました」


 隠しごとですか?と言いたかったが、カズトに何でもないと言われてしまっては何も言えない。

 それに、重要な事を伝えなければいけない。

 少しの間が出来てしまったのは、そのせいでもあった。


「クエスト依頼・・か」


 レイラがテーブルに出した紙を手に取り、内容を読みあげるカズト。

 どうやら店員さんは、レイラにクエストを依頼してきたようだ。


「ダンジョン探索だな」


「ダ、ダンジョンですか!?」


「くぅ〜。スライムソーダ最高!」


「・・いや、聞けよ」


 クエスト依頼の説明をしていたのだが、アリスはスライムソーダに夢中であった。

 レイラの目が鋭くなる。

 注意されたアリスは、人差し指をたて、チッチッチと左右に振りながら答えた。


「いいカズト。私は現魔王軍のトップなのよ?ダンジョン探索なんて楽勝よ」


 ダンジョン探索は危険である。

 駆け出しの冒険者にはまず無理だろう。

 何故なら、ダンジョン奥深くに行くに連れ、モンスターのレベルも上がっており、万が一ダンジョンの奥の方で、深手を負ってしまった場合、地上に帰るまでに命を落とす危険もあるのだ。

 その為、回復魔法を使えるパーティーではないと、クエスト依頼も受理されない決まりであり、今回店員さんは、勇者軍のレイラならと思い依頼してきたのであろう。


「念のために聞くが、その根拠は何だ?」


「はぁ?いいカズト。クエスト依頼書を見てみなさい」


 アリスに言われ、クエスト依頼書を再度読み返すカズト。


「えーと。ボステム洞窟の奥にモンスターが住みついてしまった為、退治して魔除けの札を貼ってきて欲しい・・報酬10万G!?」


 破格の値段である。

 洞窟に入ってモンスターを倒し、札を貼るだけで大金が手に入るのだ。

 通常、このぐらい稼ぐには、その辺でモンスターを100体撃破するか、通常クエストで1ヶ月働かないと手にできない。

 無論、モンスターの強さや通常クエストによって、日数は変動するのだが。


「・・高い・・ですね」


「そ、そうなんですか?」


 レイラは、カズトが何に驚いているのか理解して呟いたのに対し、ナナはあまり驚かなかった。

 ナナは、クエストをあまり受けた事がない。

 魔女村でクエストが発生しなかった訳でもないが、探索クエストなどはナナミの仕事であり、ナナはおつかいなどの小さなクエストしかしてこなかった。

 また、報酬は金品ではなく、野菜や絹などであり、お金という物をあまり理解していなかった為、10万Gがいかにすごいのかということに気付かなかった。


「あぁ。解りやすく説明するなら、スライムソーダがあと、500杯頼めるな」


「そ、そんなにですか!!」


 こんなに美味しい物がたくさん飲めるならと、静かに闘志を燃やすナナ。

 急に小さくガッツポーズをするナナを不思議に思いながら、カズトはアリスに再度たずねる。


「で?コレの何処が楽勝なんだ?」


 高い報酬には、危険がつきものである。

 それなのに、楽勝だと言うアリス。

 カズトに聞かれたアリスは、自信満々に言い放った。


「決まっているじゃない!10万Gよ、10万」


「・・・あっそ」


 金の亡者ということなのだろうか。

 魔王軍のトップがこれではと不安になるカズトは、悲しい瞳を向けながらそう返した。


「やるわよ!店員さーん!おかわりぃ」


「オ、オー!!」


 やる気になる二人を、無言で見つめるカズトとレイラであった。


 ーーーーーーーーー


 クエストの依頼を受けるかどうかは、内容を聞いてからやるべきであるのだが、アリスとナナはやる気満々であり、内容を聞く前から受ける事になってしまった。

 しかし、内容は聞く必要がある。

 内容を聞かないと、クエストを成功したかしていないかがわからない。

 カズトがその事を伝えると、アリスは鼻で笑う。


「モンスターを倒して、札を貼ってくるってさっき言ったじゃない」


「・・・バカなのですか?」


「あぁん?」


 レイラの冷ややかな返事に、舌打ちまじりにアリスはレイラを睨みつけた。

 そんな二人のやり取りを見て、オドオドし出すナナ。


「・・喧嘩はやめろ。いいかアリス?」


 カズトは説明をする。

 クエストを成功させる為に、必要なのは情報である。

 モンスターといっても、どんなモンスターなのかが解らない。

 何処にいるのかも解らない。

 ましてや、洞窟に入るとなると遭難する恐れもある。

 前もって準備が必要なのだ。


「つまり、クエストを受けるのであれば、必ずこう言った情報を集めてからではないと、受けてはダメって事だ」


 長い説明であったが、命に関わる事でもある為、はしょったりせずにキチンと説明をする。

 アリス一人の問題ではないのだ。


「クエストを受けるなら、俺から一つ条件を出す」


 そう伝え、三人の顔を順番に見渡した。


「俺たちは仲間だ。何があってもお互いをかばい、助けあっていくぞ」


 一人の勝手な行動で、全滅をしてしまう恐れがある。

 レベルが高いとはいえ、攻撃ができないレイラは一人では洞窟に潜れない。

 レイラ以外の三人は、回復魔法が使えない為、レイラがいないと洞窟には潜れない。

 頭のキレるもの、魔法を使えるものなど、それぞれの短所を、仲間の長所でカバーしあっていく。

 この事を守れないのであればクエストは受けないと、カズトは最後につけ加えた。


「お待ちどうさま~」


 アリスの追加オーダーを持ってきた店員さんは、ドンっとスライムソーダを置いた。


「・・・すいません。このクエスト依頼について聞きたいんだが」


 アリスの追加オーダーを持ってきたのはまぁいいが、4つ持ってきたのを見て少しの間が生まれる。

 カズトに質問された店員さんは、嬉しそうに答えた。


「う、受けていただけるんですか?ちょっと待っててください。店長!店長~」


 どうやら依頼主はここの店主のようだ。

 店員に呼ばれた店主が、カズト達の元へやってきた。


「おお受けて下さりますか!実は・・」


 店主の話しをまとめると、ボステム洞窟に、ニワトリンというモンスターが住み着いてしまった為、卵が取れなくなってしまい困っているという事であった。

 そう言われてメニュー表を見ると、卵を使う料理には全て✖がついていた。


「ちなみに、どの辺にいるんですか?」


「は、はい。奥深くにいまして・・」


 ということは、階段などはない洞窟なのだろう。

 カズトは受けるかどうか考えるが、その必要はなかった。


「私達に任せなさい!」


 ドンとジョッキを置きながら、アリスが自信満々に答えてしまったのである。

 嬉しそうな顔をする店主を見ると、もはや断る事は不可能であった。


 次回第四章3 ボステム 下


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