第一章2 戦略兵器レイラ
2018/09/08に改稿しています。
2019/2/14に改稿しています。
激しい爆音と共に、少女は地を蹴る。
爆音が鳴り響く頃には、さっきまでそこいたはずの少女の姿はそこにはなかった。
少女に気付いた時には、少女の拳が自分に向けられていた時である。
魔王サタン軍、鉄壁の壁と称されるゴーレム部隊、アダマンタイト部隊、総勢30体はすでに、半分近く減っていた。
そしてそれは、少女が部屋に現れてからわずか5分の出来事であった。
少女は呟く。
「エ・セ」
1体のゴーレムが砕け散ると同時に、少女の右拳に光が集まる。
少女は呟く。
「カ・エ・セ・」
2体のアダマンタイトが砕け散ると、少女が宙に舞い右手を下に向けて呪文を唱える。
「ルミナスレイン」
少女の手の平から無数の光の雨が降りそそぎ、残りの部隊が砕け散る。
地に降りたった少女は、辺りを見渡すこともなく、再び地を蹴り、階段を駆け上がっていくのであった。
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リザードマンの言葉に一番衝撃を受けたのはカズトだった。
戦略兵器レイラ…テトと同じぐらい聞きなれた名前だったからである。
「…被害状況は?」
アリスは部屋の中央のイスに腰掛けながら、リザードマンに問いかける。
「ゴーレム部隊・アダマンタイト部隊共に戦闘不能。敵は現在10階層にて、我らリザード部隊と交戦中ですが、突破されるのも時間の問題かと」
アリスの問いにリザードマンは答える。
その間も、爆発音と振動はとまることはない。
「ここにくるのも時間の問題ってわけね」
敵の正体がレイラだとわかったからか、アリスは落ち着いているようにみえる。
「召喚魔法で魔力を消耗しているけれど、まぁいいわ。報告ご苦労様。直ちに全軍撤退して頂戴」
アリスはリザードマンに指示を出した。
どうやらアリスは、レイラと戦うつもりらしい。
「待てアリス。まさかレイラと戦うつもりなのか」
会話を聞いていたカズトは、慌ててアリスをひきとめる。
「えぇそうよ。何も問題ないわ。私を舐めた事を後悔させてやる」
アリスはそう言うと、不敵な笑みを浮かべるのであった。
(どうする)
カズトは心の中で呟きながら考える。
100%そうと決まった訳ではないが、仮にこの世界がさっきまでプレイしていたゲームの中だとした場合、相手はあのレイラという事になる。
アリスの実力は知らないが、レイラの実力は誰よりも知っている。何故なら、レイラを育てたのは自分である。
だがあのレイラだとした場合、ある疑問が浮かび上がってくる。
(レイラが一人で…か)
金髪ツインテールのゴスロリ少女。
胸以外は、アリスとたいして変わらない少女なのだが、彼女は戦闘を好まない。
そもそもレイラには、戦うというコマンドが存在しない。
例えば、ベビースライムが現れると、必ず逃がし、攻撃しようとするテト達を叱り、両手を腰に当て、ほっぺたをふくらましながらこう言うのだ。
「弱い物いじめはゆるしません」
とにかく優しい性格なのである。
そんな彼女が、一人でここまで来ようとしているという事は、"バーサーカーモード"になっている可能性があるという事なのだが、しかし、バーサーカーモードになるには、ある条件が必要であって、カズトはそこにひっかかっているのであった。
バーサーカーモードになる条件…それは、テトの身になにかあったという事だ。
「アリスここはいったんひくべきだ」
正直言って、バーサーカーモードのレイラに、アリスが勝てるとは思えない。
「…私じゃ勝てないとでも言いたいの」
アリスの目がするどくなる。
「信じてもらえるか解らないが、今のレイラはこの世界で誰よりも強い。例えるなら勇者テトを4人相手にするようなものなんだ」
アリスに、睨まれようとひくわけにはいかない。何と言われようとレイラとだけは戦ってはダメだ。
戦略兵器レイラに出会ったら直ぐ逃げろ!
かつて勇者テトを罠にはめた盗賊の生き残りが広めた言葉であり、プレイしていたカズトは、この言葉を当然知っていた。
「とにかくいったんひいて対策をねるべきだ。町にでて情報を集めたり道具を買ったり…」
そこまで言いかけて、カズトはある事に気付く。
「なぁアリス。旅人の書というのは持っていないのか?」
「旅人の書って何」
どうやらアリスは知らないらしい。
「セーブする為の魔法アイテムだ」
この世界がゲームの中なのだとしたら、旅人の書を使ってセーブできるはず。
それなら一度レイラと戦い、負けたら次回逃げるという戦法をとればよいのでは?と考えたのである。
「初めて聞く言葉だわ。そもそもセーブって何なのよ」
アリスは腕を組み、首をかしげる。
カズトは解かりやすくセーブについてアリスに説明した。
「…そんな物、この世界には存在しないわ。いいカズト。命はみんな一つしかないの。死んだら終わりよ」
アリスの話しを聞いたカズトは考えた。
考えられる可能性は3つある。
1つは、カズトがいるこの世界はゲームの中ではないという事。
もう1つは、この世界はゲームの中だが若干違うという事。
最後の可能性は、単純にアリスが知らないだけという事だ。
(考えても仕方がない…か)
セーブができないのであれば、選ぶ行動は一つしかないのだから。と、カズトは結論を出した。
「ブラッシング」
アリスはカズトに左手を向けて、呪文を唱えた。カズトがアリス?と、呼ぶのと同時に、ドアが吹き飛んだ。
ドアは派手に吹き飛び、部屋の中を風が駆け回る。
吹き飛んだドアから、人影が見えた。
現れたのは、金髪ツインテールのゴスロリ少女、戦略兵器レイラであった。




