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第三章7 資格 下

(前回)

 魔女の村らしき所から地上へと、帰還したカズトはアリス達と無事合流したのだが、アリ王様(キング)とアリ女王に見つかりそうになる。

このままだと全滅になると考えたカズトは、ほこらを見つけ隠れて作戦を考えるのだったが、いい案が浮かばず、考えこんでいた。

どんどん近づいてくる足音。

そんなカズトにレイラは、口づけをしてきたのであった。


【本編】

 隠れていたほこらから、レイラが飛び出して行く。


「私はレイラ。貴方を守る盾でありたい」


 その言葉の意味を考える事が、カズトにはできなかった。

生まれて初めて口づけをした事の、動揺の方が大きかったからである。

(・・・・。)

しばらく固まっていると、不意にほっぺたを叩かれ、カズトは我にかえる。

ハッと前を向くと、目の前にはアリスが立っていた。

「しっかりしなさい!レイラが見当たらないんだけど?あんたまさか1人で行かせたの?」

アリスに指摘され、ようやく今の状況を理解する。

(ば、馬鹿か俺は・・)

レイラは察したのであろう。

このままだと、全滅してしまう事を。

ナナは眠り、アリスは回復したとはいえ魔力が心配。

カズトは武器がないし、あったとしても倒せない。

そうなれば、残っているのは自分(レイラ)だ。

戦う事はできない。

それでも、行く事によって状況を変えられる。

それなら・・と飛び出して行ったのであろう。


 カズトはそう推測し、アリスに口づけの部分だけはぶいて今の状況を説明する。

両腕を組み、目を閉じて黙って聴いていたアリスは、聞き終わるとカズトに質問する。

「・・・で?あんたはどうするの?」

そう言われ、カズトは聞き返す。

「どう・・する・・って?」

アリスが何を言っているのか正確に理解しながら、それでもそう聞き返す事しかできなかった。

きっと、アリスにも解っていたのであろう。

呆れた顔を、隠すそぶりすら見せず再度質問する。

「レイラが作ったこの機会(チャンス)を無駄にしない為にも、ここから急いで森を抜けるの?」

アリスは口にしなかったが、本当は何が言いたかったのか、正確にカズトは理解した。


【レイラを見捨てるのか?】


 もしかしたら、レイラならあの状況でも、無事に乗り超えてしまうかもしれない。

戦えば、勇者テトや魔法剣士クリフと互角に渡り合える少女。

しかし、問題なのはそこではない。

アリスが聞いているのは、否、アリスが聞きたい事はそうではない。


【あんたは、味方を見捨ててまで助かりたいのか?】



 人は誰しも自分の命が大切だ。

誰かの為に命をはれる人間は数少ないだろう。

自分はどうなのか?

そう問われて「はれます!」と即答できるやつは馬鹿だ。

カズトは日頃からそう思っていた。

薄っぺらい、言葉の重みというものをまるで理解していない。


 けれど、そういう人こそ後先考えず、本当に命をはれるのではないだろうか。

薄っぺらいと言われ、馬鹿にされてもいいではないか。

自分もそんな人になりたい。


 カズトは決心する。

「俺はレイラの後を追う。アリスはナナとここで待っていてほしい」

「あんたが待ってなさいよ」

アリスにそう言われ、カズトは首を横にふる。

カズトがここに残ったとして、敵に遭遇した場合戦う手段がない。

「今の俺ではナナを守れない。アリスが適任だ」

「・・・!!」

アリスが何か言おうと口を開いたが、何も言えなかった。

カズトの言っている事が正しいと、感じたからである。

アリスに一言告げて、レイラの後を追おうとカズトが動いた時であった。

「待って・・下さい」

カズトは呼び止められる。

声のする方へと顔を向けると、声の主はナナであった。


 ナナは少し前から気がついていた。

しかし、喋ろうにも声がでず、体も動かない。

どうすればいいのだろう。

どう言葉をかければいいのだろうか。

傷つけ、騙し、裏切った自分なんかを助けに来てくれた人達。

そして、レイラの後を追わなくてはいけないのに、自分(ナナ)の身を案じ、アリスを置いていくと言っている。

ここで動かなければ、自分は二度とこの人達と関われない。

関わっちゃいけない。

 自分に喝をいれ、動かない身体を無理矢理おこし、ナナは喋りかける。

怒られるかもしれない。

嫌、怒られるだろう。

しかし、それは当然だ。

自分はそれだけの事をしたのだから。

ナナは弱々しくも、カズトを呼び止めた。


「ナナ!!」


 ナナは両目を閉じ、罵倒される覚悟を決める。


「よかった。無事目が覚めて・・どこか痛い所はないか?」


 その言葉に涙が溢れだしそうになった。

ぐっと涙をこらえ、気づかれないように下を向く。

(ダメ!ここで泣いてはダメ!)

今は一刻を争う時、自分なんかの為に、これ以上時間を割いてしまってはダメだ。

ナナはカズトの顔を見る。


 ナナの顔を見た、カズトとアリスは目尻に光るものを見た。

しかし、その表情は真剣そのもので、そのことに触れるなといっている気がする。

カズトとアリスは気づかないフリをして、ナナに接する。

「・・ナナ?待って下さいって言ったけど、何かあったのか?」

「ナナ!今は馬鹿レイラを追わなくちゃいけないの。カズトが行った後ではダメかしら」

「知っています。声がでなかったですが、目は覚めていました」

ナナの言葉にカズトはドキっとする。

いつから気がついていたのか。

まさか、見られていたのでは?

背中を冷たい汗が流れた。

カズトの心配をよそに、ナナは姿勢を正して、語りかける。

「私の話を聞いていただけませんか?お時間はとらせません」

真剣な表情を見せるナナに、カズトとアリスはうなずき、姿勢を正した。


 アリスとカズトが、話しあっていた時、レイラはコウモリバットに囲まれていた。

ほこらを飛び出したレイラは運悪く、コウモリバットの巣の近くを通ってしまい、囲まれてしまったのだった。

「・・くっ。しかし、逃げたらテトが」

カズトがこのままでは傷付くと思い、ほこらを飛び出したのはいいが、バーサーカーモードには入っていない。

薄紫に変化した目で、レイラは攻撃を仕掛ける。

レイラが、コウモリバットに向かって駆ける。

いつもなら、通った道に火が出るはずが・・でない。

「・・・ルミナスブレイク」

ただのかかと落としを、コウモリバットにくらわせる。

いつもなら右足に炎をまとっているはずが、今のレイラにはできなかった。

しかし、レベルの高いレイラの攻撃は、普通の攻撃で充分倒せる敵。

コウモリバットの群れに右手を向ける。

「ルミナスレイン」

無数の()()()が、コウモリバットに()()()()()

「・・・数が多すぎます」

レイラが仕留め損ねたコウモリバットが、ほこらへと飛んでいく。

「・・・テト!!」

この敵を見逃したら、カズト達が危険にさらされる。

レイラの右目の色が少し濃くなった。

ほこらに向かって飛んでいく、コウモリバットの前に行って、再度呪文を唱える。

「ルミナスレイン」

無数の()()()が、コウモリバットに()()()()

コウモリバットの群れを倒し、アリ2匹を引き付ける為レイラは走り出すのであった。


 ナナの話しを聞いたカズトは、走り出していた。

レイラの元へではなく、ボステムに向かって。

木の棒を片手に持ち、ひたすら北に向かって走るカズトの前に、アリ兵隊が襲い掛かる。

「そこを・・どけえええ!」

一撃でアリ兵隊を倒し、再び走り出すカズト。

時間がほしい。

とにかく時間が。


 カズトはナナの言葉を思い返す。

「ボステムまではもうすぐです。カズトさん達の目的である”勇者の剣”は途中で見つかると思います。ですから、カズトさんとアリスさんはそちらへ向かって下さい。私がレイラさんの後を追います」

ナナの言葉を聞いてカズトは考える。

ナナの言葉を聞いてアリスは質問した。

「ナナ1人でって大丈夫なの?」

ナナは首を縦にふり、アリスの質問に答えた。

「大丈夫です。信じてもらえるか解りませんが、王冠を被ったアリを1匹倒しました。ですので、レイラさんと合流できれば倒せるかもしれません」

ナナの発言にカズトとアリスは驚いた。

「ですので心配しないで下さい。お二人は剣をとってこちらにお戻りください」

「嫌、剣は俺一人で取りに行く。アリスとナナはレイラを追ってくれ」

カズトはアリスとナナを見る。

「・・・ですが」

「大丈夫だ!現状、俺がレイラを追っても足手まといにしかならない。それなら二人がレイラと合流した方がいい」

カズトはナナにそう告げ、アリスを見る。

「・・・何よ」

「アリス。リゼクトをする魔力は残しておけよ」

「解っているわよ!」

こうして、カズトは剣を取りに走り出し、アリスとナナはレイラの後を追って走り出した。


 カズトは魔女の森を抜けた。

魔女の森を抜けたカズトが見た光景は、一面焼け野原で広がっている。

(レイラの話しだとこの辺でダンとクリフが戦っていたと言っていたが)

カズトは首を横に振る。

今は時間がない。

一刻も早く剣を見つけて、レイラを追わなくてはいけない。

カズトは辺りを探し始めた。

(剣・・剣・・・け・・!?あれは?)

しばらく探し回っていると、地面に刺さっている剣を見つけた。

「これが・・勇者の剣」

剣の近くへとカズトが近づいたその時であった。

突如、剣が光輝きカズトに向けて語りかけてきた。


【久しぶりじゃのうテトよ・・いや・・テトではないな・・誰ぞ】


 カズトは驚きながらも質問に答える。

「俺の名はカズト。勇者の剣を取りにきた。頼む!力を貸してくれ」

今は時間がとにかく惜しい。

少し早口になりながらも、カズトは剣に語り掛けた。


【我が力を欲するか・・・その資格がお前にあるのか】


この問いかけにカズトはどう返せばよいのか解らず固まってしまうのであった。


次回 第三章8 異変


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