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訳あって、マッチ売りの少女を追い詰めてみた。

作者:こうじゃん
やっと、3000字にした。辛かった。
曇天の空から、しんしんと雪が舞い落ちる。
頬をかすめる風が冷たい。
師走の街は、夜に入っても人通りが途切れない。
街は、新年を迎える準備の客や一杯引っかけたであろうと思われる者、家族連れなどで賑わいを見せていた。


年の瀬も押し迫った大晦日の夜、僕は主任と二人、極秘任務についていた。
うちの仕事は、任務が入ると年末休暇もないのだ。
おまけに、雪まで降り積もってきた。
これから、今日の空模様のような気の重い任務が始まる。

「こんな日に、年端もいかない少女を、追い詰めないといけないですかねえ?」
僕はため息をついた。

「ああ、極限状態まで追い詰めないと結果が出ない場合が多いからな。お前、頑張ってマッチが売れないように妨害しろよ」
主任は、悪そうに口角を上げた。



師走の街角で小さな少女が一人、マッチの入ったかごを抱えて、寒空の下で震えながらマッチを売っている。
冬なのに粗末な衣服に、やせ細った手足。大きすぎる靴。
彼女が今回のターゲットだ。

「マッチは、いかが。マッチは、いかがですか。」
少女が声を張り上げるが、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりだった。

それもそのはず、マッチを買いそうな素振りをみせた通行人には、僕が「新規開店の飲み屋です。良かったら寄って下さい」と、適当な飲み屋の名前を書いたマッチを無料で配布してるのだ。売れるはずがない。

「マッチは、いかが。マッチは、いかがですか。」
必死にマッチを売る少女の前に、誰も立ち止まる客は居ない。

「お願い、一本でもいいんです。どなたか、マッチはいりませんか?」
彼女の目には涙が溜まっている。

事前の調査報告書によると、彼女は母親に先立たれ優しい祖母と飲んだくれの父親と3人暮らしだった。
祖母が健在のうちは、しっかり者の祖母が一家の暮らしを支えていたが、先日、祖母が亡くなり、飲んだくれの父と二人暮らしになった。
父親は働かず、彼女のマッチの売り上げを当てにして酒をあおる日々を送っている。
しかも、父親はマッチが売れないと彼女を殴ったり家に入れなかったりするらしい。
全くひどい父親だ。

彼女がマッチを売る邪魔をするのは、心が痛い。だが、マッチを売らせる訳にはいかないのだ。
物陰から、彼女の様子をながめていた主任が、頭をかく。
「まだ、追い込みが足りないようだな。プラン1を実行する」
主任は、哀れな少女をとことん追い詰めたいらしい。

僕は、あらかじめ頼んでおいた馬丁に合図を送る。
馬丁は心得たとばかり頷くと、馬車に乗り込んだ。マッチを売る少女の目の前ギリギリを用意しておいた馬車が、通り過ぎる。
「危ない!」 少女はあわててよけようとして雪の上に転んでしまい、そのはずみに誰かのお古の靴なのか少女の足には大きすぎた靴を飛ばしてしまう。

主任がすかさず、少女の履いていた靴を拾って懐に隠す。やはりこの人、鬼だ、悪魔だ。

痛そうに立ち上がった少女は、キョロキョロと辺りを見渡した。
少女は飛ばしてしまった靴を雪だまりのあちらこちらを探しまわっているが、見つかるはずもない。
彼女はふうとため息をつくと、トボトボと雪道をはだしのままで歩き出す。
寒さで赤紫色になったつま先が痛々しい。

「主任、かわいそうじゃないですか!僕、涙で出そうになりましたよ」
出来るなら駆け寄って彼女の凍える足先を暖めてやりたい。

少女は、しばらくトボトボと歩いていたが、素足で雪の上を歩いて凍えたのだろう、風を避けるように家と家の間に座ると暖を取ろうとマッチに火を付けた。

マッチ明るい炎が灯ると共に、暖かいストーブが現れた。
「ほら見ろ、能力が発動しかかってる」
主任がニヤリと笑う。
「街の人々に見られないよう結界を張れ」
街の人々が、この不思議な現象が気づかないよう僕は彼女の周りに結界を張った。
これで僕ら以外から、彼女の周りは見えない。

ストーブを見て目を丸くした少女が暖を取ろうと手をのばそうとしたとたん、マッチの火は消えて、ストーブもかき消すようになくなってしまった。
ストーブを見て嬉しそうだった彼女の表情が消えた。

「おしい」
主任が舌打ちをする。
「能力が発現しかけただけじゃ、ダメなんですか?」
「ダメだ、ちゃんと発現するまでだ。ここまで追い詰めたのを無駄にしたいのか?」
主任の言うのはもっともだが、彼女が不憫でならない。

彼女は、抱えた籠からまた一本マッチを取り出した。
少女はお腹がすいてたのだろう。マッチを擦ると、美味しそうな湯気を立てた七面鳥などのごちそうが現れる。
香ばしく焼けた肉の香りまでする。
やはりこれも、嬉しそうに少女が手を伸ばそうとすると消え失せた。

「もうちょっとだ」

残念そうな顔をした少女が抱えた籠からまた一本マッチを取り出した。マッチを擦ると、光の中に大きなクリスマスツリーが浮かびあがった。
緑の大きなモミの木の枝に、色とりどりのオーナメントが星のように輝いている。

「今度こそ、消えないでくれ」
僕は天に祈った。

「きれい……」目を輝かせた少女が近づくと、ツリーはふわっとなくなってしまう。

彼女は暖かい家庭、おいしいご馳走、家族で囲むクリスマスに憧れてるんだろうと思うと、切なくなった。

「もう、僕泣いていいですか?」
「あと少しだ。頑張れマッチ売り!」
あの主任までが、彼女を応援している。

「ああもう、かわいそうで見てられないっすよ」

美しいツリーが消えて、少女はぼう然と空を仰いでいた。目には涙が溜まっている。
彼女が望んだものが次々と現れては、触れようとしたとたん目の前で消えて行く。
彼女の気持ちはどんなだろうと思う。


その時、曇天の切れ間から星が流れた。
星が流れるとき、どこかで誰かが天に召されるという。
少女はそれを思い出したのだろうか、「ああ、おばあちゃんに会いたいな」と小さく呟いてマッチを擦った。

辺りがぱあーっとあたりが明るくなり、その光の中で優しそうな老婦人が愛しそうに少女を見つめている。
「おばあちゃん、わたしも連れてって。わたし、どこにも行くところがないの」
マッチが売れなければ、家に帰っても父親に殴られるか、家を追い出されるのだろう。
しかも今晩は売り物のマッチに手をつけてしまった。

彼女はそう言いながら、残っていたマッチ全てに火を付けた。
ご馳走やツリーのようにマッチが消えると無くなってしまうことを怖れたのだろう。
おばあさんは、そっと少女を抱きしめた。


「おお、いよいよ能力が発動したようだ。触っても消えてないぞ!」
「ああ、天国のおばあさん具現化しちゃったじゃないですか? 天に召されてかけてますよ!!」

「追い詰めすぎたようだな。まさか死んだ人間まで具現化できるとは…… 」

おばあさんに抱かれて安心したのか、幸せそうに微笑むと彼女は気を失った。
寒さと飢えと能力の使いすぎで、彼女の体力も限界だったのだろう。

僕は道に倒れおちた少女に駆け寄った。

少女が倒れたので能力が切れたのか、具現化されていた彼女のおばあさんが頼みますよというような仕草をして、キラキラと天へと消えて行った。

「よし、少女は研究所の一員とする。うちの能力者に作ってもらった彼女の死体ダミーを出してくれ」
「ハイ、主任! これで周りは少女が死んだと思いますね」

「帰ったら、暖房の効いた部屋で温かい食事を出して皆でメロメロに可愛がってやろうな」
「ハイ、主任!」

少女をを用意しておいた毛布で包むと、僕は、今日一番のいい顔で頷いた。



 

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